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ドラフト1巡目指名のヤン・ハンセンが最もスカウティングが難しい選手とされる理由

Stephen Noh

佐藤瑞紀 Mizuki Sato

ドラフト1巡目指名のヤン・ハンセンが最もスカウティングが難しい選手とされる理由 image

23年前、ヤオ・ミン(姚明)は中国のバスケットボールを変えた。2002年のNBAドラフトで全体1位指名を受けた殿堂入りセンターは、世界最高峰のリーグで中国人選手がスターになれることを証明し、バスケットボールを中国国内で最も人気のあるスポーツへと押し上げた。

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現在、中国では至る所にバスケットコートがあり、NBAのユニフォームがたびたび見られる。しかし、スポーツとしての人気が高いにもかかわらず、2011年にヤオが引退して以降、中国からはNBAでローテーション入りするような選手は現れていない。

ヤン・ハンセン(杨瀚森)は、この状況の中でその流れを断ち切る可能性のある選手だ。

これまでも期待された選手はいた。イー・ジャンリャン(易建聯)、スン・ユエ(孫悦)、ジョウ・チー(周琦
)はNBAドラフトで指名された。昨シーズン、ジャッキー・ツイ(崔永熙)はブルックリン・ネッツでわずか10分間プレイした。さらに、2025年のドラフトではリン・ウェイ(林葳)が2巡目下位候補と見なされていた(指名されず)。

しかし、いずれもNBAで成功したとは言い難いキャリアとなっている。こうした背景もあり、ヤオは2017年に中国バスケットボール協会(CBA)の会長職を引き受けた。

2019年、ヤオは「10年後もまだ中国を代表するのがヤオ・ミンなら、それは私の仕事の失敗だ。新たなスターを育ててこそ、私はオフィスに座っていられる。それが私の目標だ」と語った。

しかし、ヤオは当時掲げた10年以内という目標を自ら前倒しし、2024年末にはCBA会長職を退任した。男子代表の不振が続いたことも背景にある。そして今もなお、彼の後継となるような中国人NBAスターは現れていない。

そんな中で、2025年のNBAドラフトで全体16位指名を受けたヤン・ハンセンが、その壁を破る存在として期待されている。

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ヤン・ハンセンは有望なプロスペクトなのか?

ヤオ・ミンとヤン・ハンセンの比較は避けられない。どちらも中国出身のセンターであり、両者には交流もある――ヤオは時折ヤンにアドバイスを送っていた。しかし、ヤンはヤオとはまったく異なるタイプの選手だ。

ヤンも2025年のドラフトコンバインで「僕とヤオではプレースタイルが違うと思う」と語っている。

まず共通点から見ていくと、ヤオと同様にヤンも優れたショットブロッカーだ。彼は2024年のCBA(中国プロバスケットボールリーグ)において年間最優秀守備選手(DPOY)に選出され、リーグトップの1試合平均2.7ブロックを記録した。NBAドラフトコンバインでの測定によると、シューズなしで7フィート1インチ(約216cm)、体重は253ポンド(約115kg)で、大きな手と恵まれた体格を持っている。

ESPNのドラフト専門家ジェイ・ビラス氏も、彼のサイズを最大の強みだと評価している。

「ポストアップがうまく、リング周辺でのタッチも良い。オフェンスリバウンドにも強く、セカンドチャンスからの得点が多い。ブロックショットもできる」

しかし、共通点はそこまで。というのも、ヤオとヤンが活躍する時代は大きく異なるからだ。ヤンが興味深いプロスペクトとされる最大の理由はパス能力にある。

ヤオも当時としては良いパサーだったが、その時代はビッグマンがゲームメイクを担うことは少なかった。対して、ヤンはパスのできるビッグマンとして、NBAが今まさに求めている役割をこなせる可能性がある。

ヤンがNBAスカウトの注目を集めたのは、2023年のFIBA U19バスケットボール・ワールドカップでの活躍だ。そこでヤンは、ザカリー・リザシェイ(2024年NBAドラフト全体1位指名)やアレックス・サー(同2位指名)といった実力者たちを相手に、平均12.6得点・10.4リバウンド・4.7アシスト・5.0ブロックというスタッツを残した。

ヤン自身は、自分のスタイルをアルペレン・シェングンやニコラ・ヨキッチ、ドマンタス・サボニスになぞらえている。その傾向は彼のプレイ映像や、今年のドラフトコンバインでの練習試合にも表れている。

過去4、5回対戦した経験があり、2024年のCBA MVPにも輝いた元NBA選手のジャレッド・サリンジャーは、「たしかにそういった(シェングン的な)特徴は見られる。彼の左右両方のジャンプフックはうまいし、シェングンのようなハーフスピンの動きも持っている」と語った。

ヤンは2025年ドラフト当日に20歳を迎えたが、サリンジャーは「Gリーグでの時間が必要だろう」としつつも、最終的には長いNBAキャリアを築けるはずだと評価している。

「彼は非常に優れたバスケットボール選手で、年齢に対して成熟している。フットワークが良く、フィジカルなプレイができて、リバウンドにも強い。何より、彼のサイズとバスケIQは教えて身につくものではないので、NBA向きの素材だよ」

もちろん、課題もある。昨季は3ポイントショット成功率が29%、フリースロー成功率が68%と、シューティングに課題を残している。ただ、彼を間近で見てきた人々はシュートポテンシャルの高さに期待している。

サリンジャーは「ミドルレンジはそこそこ良いショットを打てる。NBAでプレイすれば、間違いなくショットは上手くなる。NBAはそういう環境だからね」と語った。

ビラス氏もこの意見に同意している。

「3P成功率は高くないが、オープンになれば外からも打てる。そんなに量産はしないだろうけど、タッチはいいよ」

一方で、ディフェンスにおけるフットスピードの遅さは、複数の守備システムにフィットしにくい要因となっている。

サリンジャーは「エリートガードや大型ビッグマンに対しては苦戦することもあるけど、頭の良さで対応してるね」

ヤンのサイズがNBAに値することは明らかだが、その他のスキルについては、CBAというスカウティングが難しい環境ゆえに評価が難しい部分もある。

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Hansen Yang

中国バスケ界におけるスカウティングの難しさ

ヤン・ハンセンは、今回のドラフトクラスの中でも特にミステリアスな存在だ。彼はNBAドラフトコンバインに参加し、スカウトたちは間近で彼のプレイを見ることができた。

だが、中国プロバスケリーグCBAの選手を評価する際には、本質的な課題があると、あるNBA球団のドラフトスカウトは語っている。

「まず国際リーグを見るときに重要なのは、そこのアスリートのレベルと、どういったスタイルのプレイが通用するのかを測ることだ。CBAはユニークなリーグで、特定の選手がアスレチック能力や得点力で突出してしまうことがある」

ジャレッド・サリンジャーのような外国出身選手は、一般的に中国人選手より一段上の実力を持っており、CBAでは圧倒的な存在になってしまう。そのため、リーグのルールでは「最初の3クォーターまでは外国人選手の出場は同時に2人まで」そして「第4Qでは1人だけ」と制限されている。

こうした特異な環境のため、昨シーズンのヤンの平均16.2得点・10リバウンドというスタッツも、評価が難しい。

「ヤンのような選手の場合、スタッツをそのまま信用するのが難しい。中国からNBAに来て、大学や他のプロリーグを経ずに成功した10代の選手という前例がほとんどないからね」とスカウトは言う。

加えて、「こうした評価が難しい選手の場合、スカウトは信頼できる情報源に頼る。選手の近くにいる人物から、パズルのピースになるような情報を集めるんだ。ただ、ヤンに関してはCBA側が非常に秘密主義で情報を出してこない。それがさらに評価を難しくしている」という。

サリンジャーもまた、CBAのレベルはNBAほどではないと認めている。ただし、かつて「中国リーグでプレイするなんて笑い話だ」とされた時代と今では違う。

「CBAはそんなに簡単じゃない。相当な努力が必要なんだ」とサリンジャーは語る。

「夜の7時35分に試合をして、翌朝には商業便の飛行機に乗って次の都市へ移動、そこから練習して、次の日にはまた試合。これをこなすのがどれだけ大変か、みんな分かってない」

NBAとの大きな違いもある。NBAの方が圧倒的にアスレチック能力が高く、ドリブル・パス・シュートのスキルも総合的に上だという。

CBAは速くてフィジカルな試合もあるが、ハーフコートでの攻防が多く、NBAでは禁止されている「守備3秒ルール」が存在せず、2-3ゾーンが頻繁に使われる。ヤンは主にポストからボールを扱うボール支配型のビッグマンだったが、NBAではオフボールの動きやNBAスタイルの守備に順応する必要がある。

こうした不確定要素や、ディフェンス時の機動力の課題もあり、ヤンはドラフト後半、具体的には1巡目の終わりか2巡目の上位で指名されると見られていたが、実際のところはドラフト全体16位でポートランド・トレイルブレイザーズから指名を受けた。

それでも、ヤンはドラフトの掘り出し物になる可能性を秘めている。彼のように、サイズ・パス能力・バスケセンスを兼ね備えたビッグマンは、そう簡単に現れない。

彼は次のヤオ・ミンではないかもしれない。だが、『最初のヤン・ハンセン』にはなれる。

原文:Hansen Yang is the mystery of 2025 NBA Draft: Why Chinese big man is the toughest player to scout
抄訳:佐藤瑞紀(スポーティングニュース日本版)

Stephen Noh

Stephen Noh started writing about the NBA as one of the first members of The Athletic in 2016. He covered the Chicago Bulls, both through big outlets and independent newsletters, for six years before joining The Sporting News in 2022. Stephen is also an avid poker player and wrote for PokerNews while covering the World Series of Poker from 2006-2008.

佐藤瑞紀 Mizuki Sato

京都府生まれ、立命館大学卒。The Sporting Newsのアシスタントエディター。大学在学中は、ファッションに携わり、Levi'sやセレクトショップでスタッフとしてキャリアをスタート。大学卒業後に上京し、ファッションとカルチャーを結びつけた記事を執筆。バスケ未経験ながら、2015年にカリーのプレーに魅了され、NBA観戦が大好きになる。