令和の大相撲、大ベテラン・玉鷲が強い場所は面白い? 過去の2ケタクリア場所では波乱が頻発

柴田雅人 Masato Shibata

令和の大相撲、大ベテラン・玉鷲が強い場所は面白い? 過去の2ケタクリア場所では波乱が頻発 image

時事

■名古屋場所を盛り上げた立役者の1人に

7月に行われた大相撲名古屋場所では、1月の初場所から3場所連続で該当者無しだった殊勲賞を2名の力士が受賞した。1人は13勝2敗で自身初優勝を果たした平幕・琴勝峰、そしてもう1人が40歳の大ベテランである平幕・玉鷲だ。

西前頭4枚目として今場所に臨んだ玉鷲は、初日から中日まで4連勝、1敗、3連勝と怒涛の勢いで白星を量産。7日目には大関とりの足固めを狙う関脇・若隆景にも土をつけた。9日目以降は1敗、1勝、2連敗、3連勝と波があったが、新横綱・大の里から昭和以降最年長となる40歳8か月での金星を獲得したことなどが評価され、千秋楽の取組前に自身3回目となる殊勲賞受賞が決定した。

自身3度目となる優勝には惜しくも届かなかったものの、11勝4敗と堂々の成績を残した玉鷲。名古屋場所が千秋楽まで優勝争いがもつれる面白い場所になったのは、1横綱1関脇2小結に加え、途中まで優勝争いの中心だった平幕・一山本にも土をつけた玉鷲の存在も大きかったといって差し支えは無いだろう。

■令和の2ケタクリア場所では波乱が頻発

玉鷲はベテランと呼ばれるようになって久しい力士だが、令和以降では今回の名古屋場所も含め、2ケタ勝利を6回クリアしている。その内、同場所以外の5場所の内訳は以下の通りだ。

2019年夏  :西前頭3枚目 ・10勝5敗(優勝は西前頭8枚目・朝乃山で12勝3敗)
2020年7月  :東前頭9枚目 ・10勝5敗(優勝は東前頭17枚目の照ノ富士で13勝2敗)
2021年名古屋:東前頭10枚目・11勝4敗(優勝は横綱・白鵬で15戦全勝)
2022年秋  :東前頭3枚目 ・13勝2敗(優勝は玉鷲)
2025年春  :西前頭7枚目 ・10勝5敗(優勝は大関・大の里で12勝3敗)

常に優勝、それに準ずる成績が求められる横綱・大関が優勝したのは2場所のみ。それ以外の3場所は今回の名古屋場所と同じように、平幕力士が優勝する番狂わせが起こっている。

2019年夏場所は令和に元号が変わって最初の場所であり、アメリカのドナルド・トランプ大統領が千秋楽を観戦したことも大きな話題となった。優勝争いは横綱・鶴竜(現音羽山親方)、関脇・栃ノ心、朝乃山の3名が中心だったが、玉鷲は中日に7連勝中だった鶴竜に土をつけると、12日目には10勝1敗で単独トップだった朝乃山も破るなど優勝争いの盛り上げに一役買っている。

2020年7月場所は新型コロナの影響により、本来の開催地である名古屋ではなく東京で行われた。白鵬・鶴竜の2横綱が途中休場を強いられる中、大関・朝乃山が12勝、正代・御嶽海の2関脇、小結・大栄翔が11勝と好成績を残したが、役力士を抑えて賜杯を掴んだのは幕尻の照ノ富士。故障や病気に苦しみ、大関から序二段まで番付を落としたところからの復活劇は、奇跡のVとして多くのファンの感動を呼んだ。

2022年秋場所では、玉鷲が年6場所制が定着した1958年以降では最年長となる37歳10か月での優勝を果たした。初日から6連勝と好スタートを切ると、1敗後も勢いは衰えず4連勝と優勝争いを牽引。その後、12勝2敗で迎えた千秋楽で、11勝3敗だった平幕・高安との大一番を制した。1横綱3大関2関脇と、上位力士のほとんどを撃破する神がかり的な活躍だった。

■玉鷲が強い=場所が面白くなるワケは?

大相撲の世界には古くから、「関脇が強い場所は面白い」という言葉が存在する。成り立ちについては諸説あるが、関脇が横綱・大関に匹敵する好成績を残せば必然的に優勝争いが盛り上がること、当場所や次場所以降で大関昇進を狙える可能性も出てくることなどが背景にあるとされている。

一方、「玉鷲が強い場所は面白い」理由としては、本人が周囲、特に平幕力士たちに与える影響が大きい点が考えられる。玉鷲は元々ホテルマンを目指していたところから入門した異色の力士だが、相撲経験が無い中でも努力を重ねて強くなってきた。40歳を迎えた今でも、2人の力士を相手に相撲を取るなど工夫を凝らした稽古で強さを追及している。

ともすれば引退していても不思議ではない年齢のベテランが健在ぶりを示せば、他の平幕は「玉鷲関に負けないように自分も頑張ろう」とポジティブな気持ちになったり、あるいは「玉鷲関があれだけやれているのになんで自分は」と悔しさを感じたりするだろう。玉鷲の活躍に様々な感情を抱いた力士たちが奮い立つことで平幕が活性化し、その結果として役力士も巻き込んだ混戦に発展しているのではないだろうか。

2004年初場所の初土俵から2025年名古屋場所まで、歴代1位となる1718回連続出場を記録していることも広く知られる玉鷲。次の秋場所も当然のように土俵に上がり、幕内の土俵を盛り上げる活躍を見せてくれることを期待したい。

✍️この記事はいかがでしたか? 読後のご意見・ご感想をぜひお聞かせください

柴田雅人 Masato Shibata

スポーティングニュース日本版スポーツコンテンツライター。福岡県出身。幼少期から相撲、野球、サッカーを中心に幅広くスポーツを観戦。大学卒業後からライター活動を開始し、主にスポーツ記事の企画立案、取材、執筆などに携わる。現在もスポーツ観戦が一番の趣味で、複数競技を同時に視聴することもしばしば。