■年齢を感じさせない活躍が続くも…
現在40歳の平幕・玉鷲は、史上まれにみる頑丈さを誇る力士として広く知られている。初土俵を踏んだ2004年初場所から2025年名古屋場所まで、歴代1位となる通算連続出場記録(2025年名古屋場所終了時点で1718回)を更新中。“角界の鉄人”という愛称で呼ばれるようになってからも久しくなっている。
ただ頑丈なだけでなく、しっかりとした強さを維持していることも特筆すべき点だ。西前頭4枚目として臨んだ2025年名古屋場所では、1横綱1関脇2小結を破っての11勝4敗で自身3度目の殊勲賞を獲得。9月に予定される秋場所では、2022年九州場所以来となる三役復帰の可能性もある。20代の力士たちを圧倒している姿を見ると、もうしばらくはハイレベルな実力を発揮してくれそうな見込みだ。
そんな玉鷲が8月20日、日本相撲協会に「変形性腰椎症、急性腰痛症」という診断書を提出し、現在参加中の夏巡業を同日から休場したことが複数メディアにより報じられた。現時点では症状の程度や秋場所への影響などは不明だが、場合によっては今後のキャリアにも影響しかねない非常に心配なアクシデントだ。
■現役引退につながる可能性も?
相撲の取り口には大きく分けて四つ相撲、押し相撲の2つがあるが、どちらのスタイルでも腰は攻守で重要な役割を担っている。力士が普段の稽古において、四股で腰やお尻周りの筋肉を鍛えたり、股割りで股関節の柔らかさや体幹を養ったりしていることからも、腰がどれだけ大事な部位かということが分かるだろう。その腰を痛めると取組への影響はもちろん、その後長きにわたって再発リスクを抱えるという重大な事態に陥ることにもなる。
現役力士の中では、先の名古屋場所で西小結を務めた高安のケースが有名だ。高安はカド番大関だった2019年九州場所中日の取組直前にぎっくり腰を発症し、同日から千秋楽まで休場。これが響いて大関の座を失うと、その後も腰痛による休場が頻発しており、現在行われている夏巡業も途中離脱を強いられている。
また、過去には腰痛が原因で土俵を去ることになった力士も少なからずいる。現在音羽山部屋を率いている音羽山親方(元横綱・鶴竜)は、現役時代の2020年秋場所~2021年初場所を腰痛で全休。これもあり同年春場所は進退をかける場所になったが、同場所直前に左太もも肉離れに見舞われたことで引退を決断している。
■厄介なアクシデントに見舞われた背景は
玉鷲は入門当初から磨き上げてきた突き押しを武器とする力士だが、体全体を使って相手と攻防を繰り広げるという特性上、四つ相撲に比べて身体への負担が大きいとされている。20年以上休まずに土俵に上がり続ける中で、腰にも無視できないほどの勤続疲労が溜まっていたのかもしれない。
また、これまで参加していた巡業が症状の悪化につながった可能性もある。日本相撲協会公式サイトには「巡業の一日」という巡業の流れを紹介するページがあるが、これによると力士らは前日にバスで巡業地に乗り込み、翌日は9時~15時ごろまで巡業に参加。終了後はすぐにバスに乗り込み、次の巡業地に向かうという。休む間もなく巡業と長距離移動を繰り返すことで、玉鷲の身体もじわじわと消耗していったことは想像に難くないだろう。
大相撲の力士は怪我を抱えていても、表には出さず黙って土俵に上がり続けることがほとんどだ。初土俵から休場がない玉鷲はその代表格ともいえる力士なだけに、夏巡業の休場判断が重く聞こえる面は否めない。次の秋場所が初日を迎える9月14日までは約3週間あるが、この期間で少しでも症状が良くなることを願うばかりだ。
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