■前半戦は1人も受賞者が出ず
今年の大相撲は5月に行われた夏場所をもって、早くも1年の半分を終えた。前半戦最大のトピックは豊昇龍(1月)、大の里(5月)と2名の横綱が立て続けに誕生したことで間違いはないだろうが、実はこの裏で12年ぶりの事態が発生している。それが「殊勲賞」獲得力士の不在だ。
大相撲では本場所において、関脇以下で優秀な成績を残した力士に三賞というものが贈られる。その名の通り殊勲賞、敢闘賞、技能賞の3つからなる賞で、日本相撲協会の審判委員らで構成される三賞選考委員会によって受賞力士が決定される。
殊勲賞とは?
横綱や大関を撃破したり、優勝争いに大きく影響するような白星を挙げた力士に贈られる。過去の最多受賞は4代目朝潮(元大関)、魁皇(元大関、現浅香山親方)の10回。
敢闘賞とは?
平幕中位以下ながら2ケタ勝利を挙げるなど、敢闘精神あふれる相撲をとった力士に贈られる。過去の最多受賞は貴闘力(元関脇)の10回。
技能賞とは?
決まり手が多数であったり、珍しい決まり手を繰り出した力士に贈られる。過去の最多受賞は鶴ヶ嶺(元関脇)の10回。
今年は初場所で敢闘賞2名(霧島、金峰山)、技能賞1名(王鵬)、春場所で敢闘賞2名(美ノ海、安青錦)、技能賞1名(高安)、夏場所で敢闘賞2名(安青錦、佐田の海)、技能賞2名(霧島、若隆景)がそれぞれ選出されている。一方、殊勲賞は初場所から夏場所まで該当力士なしが続いているが、3場所以上連続で殊勲賞が出ないのは2012年九州場所~2013年夏場所以来となる。
前半3場所で全くチャンスが無かったわけではなく、春場所では金峰山と王鵬が「優勝した場合」、春場所では高安が「12勝で優勝した場合」、美ノ海、安青錦、時疾風が「優勝した場合」に殊勲賞が贈られることになっていた。ただ、いずれの力士も条件を満たせなかったため、結果的に該当力士なしとなっている。
■殊勲賞が出づらくなっているワケは
敢闘賞、技能賞については、勝ち星や相撲内容といった力士自身による要素が受賞を左右する。一方、殊勲賞はこれに対戦力士の属性も加わる。相手が横綱・大関であるか、優勝争いに絡んでいるかという、自分では介入できない要素が判断材料にされるため、三賞の中では最も難易度が高い賞ともされている。
前半3場所における横綱・大関陣を振り返ると、初場所は照ノ富士が場所途中で引退したが、豊昇龍が三つ巴の優勝決定戦を制し横綱空位を防ぐ昇進を決めた。大の里も優勝争いにはあまり絡めずとも2ケタ10勝を挙げたが、琴櫻は負け越しを喫した。続く春場所は新横綱の豊昇龍が途中休場、大関陣は大の里が優勝決定戦を経て優勝、琴櫻が8勝で辛くも勝ち越しという初場所と似たような結果となった。
そして、先の夏場所は綱取りがかかる大の里が13日目に早々と優勝を決めるなど独走。豊昇龍も千秋楽に大の里を破り12勝を挙げるなど意地を見せた一方、琴櫻はまたも8勝にとどまった。豊昇龍、大の里が綱取りを成功させるなど好調で付け入る隙が少なかったこと、琴櫻が不調で白星の価値が下がっていることなどが、ここまで殊勲賞が出ていない一因になっているようだ。
■後半戦の殊勲賞有力候補は?
来月の名古屋場所から始まる後半3場所は、豊昇龍、大の里の2横綱が優勝争いの中心になることが濃厚だ。そのため、この2名から金星をもぎとれそうな力士が必然的に殊勲賞の有力候補となるが、前半3場所を踏まえると阿炎、王鵬の2名が該当しそうだ。
阿炎は初場所から7勝、6勝、7勝と3場所連続で負け越しているが、初場所で大の里、春場所と夏場所で豊昇龍をそれぞれ撃破している。王鵬も初場所から12勝、6勝、7勝と少し尻すぼみになっている中、初場所と春場所で大の里、夏場所で豊昇龍に勝利した。前半3場所の中で豊昇龍、大の里の両名から白星を挙げた関脇以下力士はこの2名のみだが、この調子を維持しつつ優勝争いに絡んでいければ殊勲賞の可能性はグッと高まるだろう。
名前を挙げた2名が殊勲賞に選ばれるのか、他の力士が受賞するのか、それとも2009年以来となる全6場所該当力士なしで終わるのか。後半戦の注目ポイントにしてみてはどうだろうか。