【大相撲】過去に降格を直訴した横綱も!? “史上最速昇進”大の里を待つ厳しさとは

柴田雅人 Masato Shibata

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■歴史上類を見ないスピード出世

2025年5月11日~25日にかけ行われた大相撲夏場所は、大関・大の里が14勝1敗で2場所連続優勝を果たし、場所後に第75代横綱へと昇進した。師匠・二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)以来、実に8年ぶりとなる日本出身横綱の誕生だ。

大学時代に2年連続でアマチュア横綱に輝くなど実績を残した大の里は、幕下10枚目格付出として2023年5月場所でデビュー。そこから所要13場所で横綱まで駆け上がったが、これは横綱が地位として明文化された1909年以降では最速となる。

大の里はまだ24歳だが、既に優勝を4回達成している。この先どのような記録を打ち立てていくのかは非常に楽しみなところだが、これからは対戦相手はもちろん、横綱という地位がもたらす厳しさとも戦っていかなければならない。

■少しの不振で進退が問われ逃げ道もナシ

現在、相撲の番付には横綱、大関、関脇、小結、前頭、十両、幕下、三段目、序二段、序の口の計10地位が存在する。序の口から大関は本場所成績の良し悪しによって番付が上下するが、横綱は一度昇進すると引退まで地位が維持される。成績不振や故障休場などによる降格の心配は無いが、その分本場所で求められる成績はハードルが高くなっている。

横綱が残すべき成績については様々な考え方があるが、一般的には最低でも2ケタ勝利、12勝程度をマークすれば及第点とされている。逆に2ケタ勝利未満の勝ち越しや負け越し、途中休場などには厳しい目が注がれることが多い。

直近では2025年1月場所後に横綱に昇進した豊昇龍が、同年3月場所で5勝5敗5休、翌5月場所で12勝3敗という成績をマークした。3月場所では結果を残せなかったことに対して多くのファンから厳しい意見が挙がっていたが、5月場所では白星数に加え、千秋楽で大の里の全勝優勝を阻止した点を評価する声が目立った。

豊昇龍は評価を持ち直した形だが、2場所以上続けて不振が続いた横綱には進退論が浮上することが多い。横綱は最高位として勝ち続けることが最大の使命であり、使命を果たせない状態なら潔く身を引くべきという考え方が根強いからだ。

毎場所結果が求められる、少しダメならすぐに引退がチラつくという重圧は想像を絶するものがあるようで、過去には1953年1月、3月場所をそれぞれ途中休場した横綱・千代の山が大関への降格を日本相撲協会に直訴した逸話もある。協会側は奮起を促しつつも降格は認めなかったが、千代の山はその後1959年1月場所まで現役を続け、この間に3度の優勝を果たしている。

■判官贔屓のファン心理も障壁に

成績や相撲内容に問題が無く、土俵外でも自覚を持って行動している限り、横綱は協会内部から注文をつけられることはあまりない。ただ、そうなると今度は観ているファン側の問題が浮上する点も難しい要素だ。

相撲は体格や力量が劣る力士でも戦い方次第で格上を倒せる点が大きな魅力だが、それも影響してか判官贔屓の傾向があるファンが少なくない。そのため、番付下位の力士が優勝争いに絡んだりする場所はひときわ大きな盛り上がりを見せる。

一方、横綱が一時代を築くと、強すぎて面白みがないなどと憎まれ役のような扱いを受けることもしばしばある。かつては優勝24回を誇った横綱・北の湖があまりの強さからか、「江川(巨人・江川卓)・ピーマン・北の湖」と嫌われものの代名詞として扱われた。近年では史上最多の優勝45回を記録した横綱・白鵬が、2013年九州場所で当時大関の稀勢の里に敗れた際、敗北を喜ぶ観客から万歳コールを浴びせられている。

勝っても負けても茨の道が待ち受ける横綱という地位だが、理不尽ともいえる厳しさを乗り越え記録、記憶に残る力士になることもまた責務といえる。瞬く間に横綱まで駆け上がった大の里は、ここからどのような土俵人生を歩んでいくのだろうか。

柴田雅人 Masato Shibata

スポーティングニュース日本版スポーツコンテンツライター。福岡県出身。幼少期から相撲、野球、サッカーを中心に幅広くスポーツを観戦。大学卒業後からライター活動を開始し、主にスポーツ記事の企画立案、取材、執筆などに携わる。現在もスポーツ観戦が一番の趣味で、複数競技を同時に視聴することもしばしば。