■大事な物言い協議の最中に…
大相撲名古屋場所は24日、12日目の取組が行われた。結びの一番となった横綱・大の里対平幕・一山本戦の途中、一部観客の間から手拍子やコールが起こるという異様な出来事が発生した。
立ち合い、一山本の当たりを胸で受けた大の里は、ここまで黒星がかさむ原因となっている引きを見せてしまう。一山本は頭を手で押さえつけられながらも構わず前に突っ込み、地面に倒れこみながら大の里を土俵外へ押し出した。
立行司・木村庄之助は一山本に軍配を上げたが、土俵下の勝負審判が物言いをつけ協議を開始。一山本の体が着くのが先か、大の里の体が飛ぶのが先か。スロー映像でも分からないほどのタイミングだったこともあり、土俵上での協議は少し時間を要した。
その最中、客席の一部観客の間で突然手拍子が広がった。さらに、「もう1回!」というコールも起こるなど、同体取り直しの判定を求めるかのような雰囲気が発生した。これが影響したかは定かではないが、勝負審判は最終的に同体取り直しを決定。取り直しの一番は、立ち合いふわっと当たった大の里が土俵際へ押し込まれるも、そこから一気の逆襲を見せ押し出しで勝利した。
■禁止行為の認識が乏しい?
今場所は23日の11日目が終了した時点で、優勝争いトップの2敗に一山本・草野・安青錦・琴勝峰、星の差1つの3敗に大の里・霧島・玉鷲・御嶽海・高安・熱海富士の6名がひしめき合うという史上まれにみる大混戦に。そのため、12日目の結びの一番は、賜杯の行方を大きく左右する大一番だった。
その一番がどっちが勝ったか分からないような際どい相撲になったわけだが、取り直しで白黒はっきりつけてほしいというファン心理は理解できる。ただ、その思いを手拍子やコールといった形で表現するのは明らかなマナー違反だ。別室のビデオ室ともやり取りをしながら、慎重に協議を行う勝負審判にとってもプレッシャーになりかねない。
大相撲観戦時のマナーや禁止行為について定める『相撲競技観戦契約約款』では、「相撲場内外でみだりに気勢を上げ騒音を出す行為」、「相撲競技の円滑な進行または他の観客の観戦を妨げまたは妨げる虞のある行為」、「観客を組織化しまたは観客の応援を統率して行われる集団による応援」などは禁止行為であるとはっきり書かれている。主催者である日本相撲協会の判断次第では退場処分となる可能性もあるが、残念ながら約款をしっかり認識している観客は少ないようだ。
■今場所のマナー違反は他にも
今年の名古屋場所は昨年まで約60年間使用された愛知県体育館(ドルフィンズアリーナ)から、今年新設された愛知国際アリーナ(IGアリーナ)に会場が移転して行われている。今場所は同会場のこけら落とし公演でもあり、多くのファンが相撲はもちろん、新たな会場への期待感を胸に現地観戦している。
こうした要素が影響し少々羽目を外してしまっている面もあるのか、今場所は今回のケース以前にも観客のマナー違反が目立っている。初日の大の里対小結・欧勝馬戦では、両者手をついていざ立ち合いというところで客席から突然「大の里ー!」と大きな声が飛び、その直後に大の里がつっかけてしまうという一幕があった。3日目の横綱・豊昇龍対平幕・安青錦戦では、豊昇龍の敗戦後に客席から大量の座布団が舞い、弓取式を行うため土俵そばで待機していた力士にも直撃している。
今場所は終盤に入っても優勝争いの行方が全く分からないという非常に面白い場所になっているだけに、マナー違反で盛り上がりに水が差されるのはもったいない。千秋楽まで残り3日間、会場に足を運ぶファンはルールやマナーを守った上で取組を楽しんでもらいたいところだ。
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