土俵近くの力士にも被害が!? 大相撲名古屋場所、横綱・豊昇龍の敗戦直後にあった残念な光景

柴田雅人 Masato Shibata

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時事

■2日連続の金星配給直後に…

大相撲名古屋場所は15日、3日目の取組が行われた。結びの一番では横綱・豊昇龍と平幕・安青錦が対戦したが、取組後に複数の観客が土俵に向かって座布団を投げ込むという残念な一幕があった。

お互いに前日今場所初黒星を喫し、1勝1敗で迎えたこの一番。立ち合い相手を突き起こした豊昇龍は左上手を掴むと、右手で相手の頭を押さえつけながら上手投げを狙うも、右下手を掴む安青錦にこらえられる。ならばともう一度左上手投げを試みたが、動きに対応した安青錦から逆に渡し込みを繰り出され背中から土俵に落ちた。

2日連続の金星配給に場内は大きなどよめきに包まれたが、この時複数の観客が土俵へ向かって座布団を投げ込んだ。宙を舞う座布団は落下地点にいた他の観客に加え、弓取り式を行うために土俵近くで待機していた元幕内・現幕下の天空海の胸にも直撃。幸いにも特に怪我などにはつながらなかったが、天空海は驚いたように体を一瞬ビクッとさせていた。

■古くからの慣習だが現在は禁止行為に

大相撲では横綱が平幕に敗れるなどの番狂わせが起きた際、格上側への野次や格下側への称賛などの意味合いで、観客が土俵へ向かって座布団を投げる行為が慣習となっている。成り立ちについては諸説あるが、力士に祝儀を渡したい客が個人を特定できるような品物を土俵へ投げ、これを返却しに来た力士に直接祝儀を渡すという、明治時代ごろにあった習慣が変化したものともいわれている。

ただ、かつての時代とは違い、現在では座布団を投げることは禁止行為に定められている。投げた座布団が力士や他の観客に当たって怪我をするリスクがあることや、座布団が大量に散らばると土俵の進行が妨げられることなどが主な理由だ。

観戦時のマナーや禁止行為について定める『相撲競技観戦契約約款』でも、「土俵、座席、通路、階段等の相撲場への物品の投げ入れ」、「相撲競技の円滑な進行または他の観客の観戦を妨げまたは妨げる虞のある行為」などは禁止されている。これに違反した場合は、主催者である日本相撲協会の判断次第で退場処分になる可能性がある上、仮に怪我人が発生すればそれ以上の大事にも発展しかねない。楽しいはずの相撲観戦で、人生が大きく狂ってしまうというリスクも決してゼロではないのだ。

■序盤連敗へのフラストレーションも影響?

豊昇龍は14日に行われた3日目で平幕・若元春に敗れているが、この時は座布団はほとんど舞っていなかった。にもかかわらず、4日目の敗戦後には大量の座布団が投げ込まれたわけだが、優勝争いを牽引しなければならない存在でありながら簡単に序盤連敗を喫した豊昇龍に思うところがあったファンも少なくなかったのかもしれない。

また、若元春は三役経験豊富な実力派力士である一方、安青錦は今場所が幕内3場所目、初土俵から数えても12場所目でさあこれからという段階の力士。それだけに、安青錦が挙げた金星の方がインパクトが強かったという可能性も考えられそうだ。なお、初土俵から12場所での金星獲得は、元大関・小錦、十両・友風の14場所を抜いて史上最速(年6場所制が定着した1958年以降、付け出しでデビューした力士は除く)となる。

しかしながら、今回のような番狂わせにどのような感情を抱いたとしても、それを座布団投げという形で表現することはれっきとした禁止行為である。座布団が舞う中、「大変危険ですので、座布団は投げないでください」という場内アナウンスが流れたことからもそれは明白だ。万が一の事態が起こった場合は、相撲そのもののイメージにも関わりかねないため、会場に足を運ぶファンには今一度考えてもらいたいところだ。

柴田雅人 Masato Shibata

スポーティングニュース日本版スポーツコンテンツライター。福岡県出身。幼少期から相撲、野球、サッカーを中心に幅広くスポーツを観戦。大学卒業後からライター活動を開始し、主にスポーツ記事の企画立案、取材、執筆などに携わる。現在もスポーツ観戦が一番の趣味で、複数競技を同時に視聴することもしばしば。