先場所は現役親方も激怒!? 大相撲名古屋場所、新横綱・大の里戦で発生した残念なマナー違反

柴田雅人 Masato Shibata

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時事

■大注目の新横綱デビュー戦直前に…

大相撲名古屋場所は13日、今年から新たに会場となったIGアリーナで初日を迎えた。新横綱として今場所に臨む大の里は見事白星スタートを切ったが、この一番で一部観客による残念な出来事が発生した。

大の里はこの日、日本体育大学の2年先輩である新小結・欧勝馬と対戦。立行司・式守伊之助が「待ったなし」と発して軍配を返した後、相手を見ながらゆっくりと腰を下ろした。数秒後に欧勝馬も腰を下ろし、両者手をついていざ立ち合いというところで、客席から「大の里ー!」と大きな声が飛んだ。この直後、大の里は相手よりも先に立ってしまい、立ち合いはやり直しとなった。

2度目の立ち合いはお互いほぼ同時に腰を降ろして無事に成立。大の里はもろ手突きの形で相手と距離を作ると、左をおっつけながら前に出てそのまま寄り切った。結果的には新横綱としてのデビュー戦を見事勝利で飾った形となったが、客席からの大声が原因で勝敗が変わっていた可能性も決してゼロではなかった。

■退場処分を下される可能性も

相撲の取組において、立ち合いは勝敗の8割以上を左右するとされるほど重要な要素である。多くの力士は対戦相手を分析した上で立ち合いの中身を決め、勝負の直前まで内容を練り直したり、イメージトレーニングを繰り返したりする。白星を積み上げ、番付を上げていくためには欠かせない勝つための努力の1つだ。

ただ、行司が軍配を返し、お互いの力士が呼吸を合わせて立ち合いを行おうとしているタイミングで観客が大声を発する行為は、それまで高めてきた思考や集中力を削ぎかねない。今回の大の里戦のように立ち合いが不成立になった場合は、再び不成立になることを恐れて出足が鈍ったり、横に変化し揺さぶるなどの作戦が使えなくなったりという展開も招くことになる。

大相撲には観戦時のマナーや禁止行為について定める『相撲競技観戦契約約款』というものがあるが、その中では「相撲場内外でみだりに気勢を上げ騒音を出す行為」、「相撲競技の円滑な進行または他の観客の観戦を妨げまたは妨げる虞のある行為」などは禁止されており、主催者である日本相撲協会の判断次第では退場処分となる可能性もある。自分の好きな力士を全力で応援したいという気持ちは理解できるが、その行為が逆に推し力士を苦しめることになるかもしれないため、声援や声掛けのタイミングについてはよくよく考える必要があるといえるだろう。

■立ち合い前の大声は先場所でも問題に

本場所では今回のケース以前にも、立ち合い前の大声がしばしば問題となっている。今年5月に行われた夏場所では、6日目の横綱・豊昇龍対平幕・玉鷲戦で両力士が腰を降ろした直後、客席から突然「はっけよい!」という声が飛び、つられた他の観客から笑い声も挙がるという状況が発生。両力士は集中を途切れさせずに立ち合いを成立させたが、取組に水を差す行為だと憤るファンは少なくなかった。

また、この日NHKラジオ中継で解説を務めていた中村親方(元関脇・嘉風)も「最高潮の雰囲気になって館内が静まり返っている時にお客さんからの『はっけよい!』。これは力士に敬意がないですね。こういうのはやめてほしいですね」と厳しく指摘している。力士・親方として長年角界に身を置いている当事者がこのようにはっきりコメントしていることからも、立ち合い前の大声が望ましくない行為であることは明白だろう。

大相撲に限らず、多くの競技にとって観客の声援は競技者を後押しする大事な要素の一つだ。ただ、時と場合によっては逆効果になりかねないということも頭に入れ、節度を持った応援を心掛けたいところだ。

柴田雅人 Masato Shibata

スポーティングニュース日本版スポーツコンテンツライター。福岡県出身。幼少期から相撲、野球、サッカーを中心に幅広くスポーツを観戦。大学卒業後からライター活動を開始し、主にスポーツ記事の企画立案、取材、執筆などに携わる。現在もスポーツ観戦が一番の趣味で、複数競技を同時に視聴することもしばしば。