■上位の壁に跳ね返される形に
7月に行われた大相撲名古屋場所では、三役以上に8名の力士が名を連ねた。この中で唯一、15日間皆勤しての負け越しを喫してしまったのが小結・欧勝馬だ。
欧勝馬は新入幕を果たした昨年夏場所で10勝をマークし敢闘賞を受賞した。翌場所からは7勝、10勝、4勝と波のある成績が続いたが、今年は初場所から8勝、9勝、10勝と右肩上がりに星を上げ、名古屋場所を新三役で迎えることになった。
しかし、迎えた同場所では横綱・大の里に敗れた初日から4連敗、1勝、2連敗、1勝と中日までに大きく黒星が先行。9日目以降も4連敗、1勝、2連敗とほとんど星を伸ばせず、3勝12敗と大幅に負け越すことになった。
上位の壁に跳ね返された形の欧勝馬には、その壁を乗り越え一段と強い力士へと成長することが期待される。ただ、次の夏場所で早速逆襲が見られるかについては少々怪しい面もある。
■翌場所で勝ち越せたケースは少なめ
角界では直近5年で、欧勝馬より前に13名の新三役力士が誕生しているが、この内6名が負け越しを喫している。その6名の当場所、翌場所成績は以下の通りだ。
若隆景:5勝10敗→9勝6敗(2021年名古屋・東小結→秋・東前頭3枚目)
霧馬山:6勝9敗 →6勝9敗(2021年九州・西小結→2022年初・西前頭筆頭)
翔猿 :7勝8敗 →8勝7敗(2022年九州・東小結→2023年初・東前頭筆頭)
錦木 :5勝10敗→7勝8敗(2023年秋・東小結→九州・西前頭4枚目)
宇良 :6勝9敗 →6勝9敗(2024年初・西小結→春・東前頭筆頭)
王鵬 :6勝9敗 →7勝8敗(2025年春・西関脇→夏・西前頭筆頭)
2場所連続で負け越しを喫してしまったのは霧馬山(現霧島)、錦木、宇良、王鵬の4名。加えて、勝ち越した若隆景、翔猿も2ケタには届いていない。1場所での復調はそう簡単ではないことが浮き彫りとなっている。
理由については様々な要因が考えられるが、まず挙げられるのは新三役で負け越した翌場所も、対戦相手のレベルはそこまで大きく変わらない点だろう。三役で負け越した力士は勝敗数にもよるが、次場所は平幕の上位に置かれることが多い。前出の6ケースも平幕筆頭~4枚目となっているが、この付近の地位も三役と同じく、横綱をはじめとした上位力士と総当たりで対戦することがほとんどだ。
また、負け越しによりそれまでつけてきた自信が揺らぐことや、場所後に洗い出した課題・弱点の克服が間に合わなかったことなども一要因として考えられるだろう。角界には目先の勝利のためではなく、その先の未来で大輪の花を咲かせるための稽古をすべきという意味合いの「三年先の稽古」という言葉があるが、新三役で負け越した場合も無理に翌場所でのリベンジは狙わず、長い目で見て自身の糧になるように稽古・調整に取り組むべきなのかもしれない。
■次場所以降へ向け取り組むべき課題は
名古屋場所で洗礼を浴びた欧勝馬は現在、8月3日~31日の日程で行われている夏巡業に参加中。同月4日に『スポーツ報知』(報知新聞社/電子版)が伝えたところによると「上位に行くとみんな相撲が速くて、考えている余裕がない。立ち合いから相手よりも先に攻めて、速い相撲を取りたい」と、攻めのスピードを課題と考え精力的に稽古に励んでいるという。
本人の言葉通り、名古屋場所では上位力士のスピードに苦戦を強いられる取組が散見された。6日目の関脇・若隆景戦では、立ち合いから動きよく攻めてくる相手をいなしきれず、最後はもろ差しを許して寄り切られているが、こうした一番をモノにできるようになりたいということだろう。
また、スピード感のある相撲を身に着けるのと同時に、すぐに引いてしまう癖を直すことにも力を入れたいところ。7日目の平幕・安青錦戦ではお互いに距離をとりつつ手を出し合う膠着状態の中、勝負を焦ったのか先に引いてしまったことで懐に入られ敗れている。引き癖は修正が簡単ではない上、ふとした拍子に再び顔を出すことも少なくないという非常に厄介な課題だが、今後のキャリアを左右すると思って腰を据えて取り組むべきではないだろうか。
欧勝馬は2024年夏場所から幕内で戦っているが、名古屋場所での3勝は幕内ではキャリアワーストの数字だった。この悔しさを乗り越え、力士として一皮むけることはできるだろうか。
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