最大の敵は己にアリ!? 名古屋場所10勝の小結・高安、悲願の大関復帰へ立ちはだかる難題は

柴田雅人 Masato Shibata

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時事

■優勝候補たちを下し大関復帰への扉開く

大相撲名古屋場所は7月13~27日にかけ、今年から新会場となったIGアリーナで行われた。千秋楽までもつれる大混戦となった優勝争いを盛り上げた1人が小結・高安だった。

今場所の高安は初日にいきなり横綱・豊昇龍に敗れたが、2日目からは5連勝をマーク。7日目以降は勝敗が一進一退しつつも、最後の2日間は優勝争いに加わっていた平幕の熱海富士、草野にそれぞれ土をつけ2ケタ10勝をマークした。

高安は東小結で臨んだ夏場所で6勝9敗と負け越しながら、他力士の成績も相まって今場所は小結に残留していた。奇跡的に三役を維持した上に2ケタもクリアしたことで、最大の目標と常々公言している大関復帰への扉が開かれることになった。

■通常復帰は史上2名しかいない偉業

大関は「三役で直近3場所33勝以上」という目安などをもとに、日本相撲協会の審判部らが昇進の可否を決める。高安は2017年初場所~夏場所にかけ11勝(小結)、12勝(関脇)、11勝(関脇)をそれぞれマークし大関の座を掴んだが、3度目のカド番として迎えた2019年九州場所で3勝5敗7休に沈み関脇へ転落。大関は関脇に落ちた直後の場所において、2ケタをクリアすれば特例で1場所での復帰ができるという規定があるが、翌2020年初場所は6勝9敗で負け越し特例復帰を逃した。

その大関への復帰を目指している高安だが、三役で2ケタをクリアしたのは小結だった2021年春場所で10勝をマークして以来約3年ぶりとなる。この時は翌夏場所でも10勝を挙げ可能性を感じさせたが、名古屋場所で7勝6敗2分と勝ち越せず機を逸する形となった。現在35歳という年齢を考えると残された時間は多くないだけに、今回のチャンスは何としてもモノにしたいところだろう。

角界では関脇に転落した大関が特例復帰に成功したケースは複数存在するが、通常の基準をクリアして再昇進を果たした力士は魁傑(元放駒親方)、照ノ富士(現伊勢ケ濱親方)の2名しかいない。魁傑は1974年秋場所~1975年初場所にかけ7勝(関脇)、12勝(小結、優勝)、11勝(関脇)をマークし、当時は3場所30勝が昇進目安とされていた大関の座をゲット。同年九州場所後に陥落したが、翌1976年秋場所~1977年初場所にかけ14勝(平幕、優勝)、11勝(関脇)、11勝(関脇)と好成績を残し再昇進を実現させた。

照ノ富士は2015年初場所~夏場所にかけ8勝(平幕)、13勝(関脇)、12勝(関脇、優勝)を記録し、起点が平幕1ケタでありながら大関の地位を手繰り寄せた。その後、怪我や病気もあり2017年秋場所後に大関の座を失うと、一時は序二段まで番付が降下した。だが、不屈の闘志で三役まで舞い戻ると、2020年九州場所から2021年春場所にかけ13勝(小結)、11勝(関脇)、12勝(関脇、優勝)を叩き出し堂々の再昇進。その勢いのまま、同年名古屋場所後には横綱まで辿り着いている。

■キャリアを狂わせ続ける難敵に打ち勝てるか

史上3人目の快挙に挑む高安だが、名古屋場所では前述の熱海富士や草野に加え、一山本や安青錦ら優勝争いに絡んだ力士を撃破している。実力がまだまだ錆びついていないことは一目瞭然だが、役力士相手には2勝3敗と負け越しているため、上位からどのように星をもぎ取っていくかが目安クリアを左右することになりそうだ。

ただ、それ以上に重要なポイントは、これまで何度も泣かされている腰痛をどこまでケアできるかに尽きる。大関の座を失った一要因でもある腰痛は近年も高安を苦しめており、昨年は初場所、夏場所で途中休場を余儀なくされた。今年も春巡業の前半を腰痛で欠場しており、これが響いたのか次の夏場所では6勝にとどまっている。

春巡業欠場に関する報道の中では、本人が春場所後に痛みが出てきたという旨を口にしたことが伝えられている。これを踏まえると。名古屋場所後も一定のケアが必要な状態になっていることは濃厚だろう。初日から参加予定の夏巡業(8月3~31日)では、腰の爆弾に配慮しながらコンディションを仕上げるという難しい調整が求められるが、難敵に打ち勝ち悲願実現へ歩みを進めることはできるだろうか。

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柴田雅人 Masato Shibata

スポーティングニュース日本版スポーツコンテンツライター。福岡県出身。幼少期から相撲、野球、サッカーを中心に幅広くスポーツを観戦。大学卒業後からライター活動を開始し、主にスポーツ記事の企画立案、取材、執筆などに携わる。現在もスポーツ観戦が一番の趣味で、複数競技を同時に視聴することもしばしば。