■名古屋場所では横綱・大の里戦に悪影響も
相撲の取組において、立ち合いは勝敗の8割以上を左右するとされるほど重要な要素である。ほんの僅かなタイミングでも、立ち遅れれば命取りになりかねない。そのため、年6場所ある本場所を戦う各力士は前夜から作戦を練ったり、取組直前までイメージトレーニングを繰り返すことに腐心している。
その大事な立ち合いに観客が水を差すような場面が、7月に行われた大相撲名古屋場所では少なからず目についた。初日の横綱・大の里対小結・欧勝馬戦では、両者手をつきいざ立ち合いというタイミングで、客席から突然「大の里ー!」と大きな声が。この直後、大の里が先につっかけ立ち合いが不成立になるなど、取組に悪影響を及ぼしたようなシーンもあった。
相撲観戦のマナーや禁止行為について定める『相撲競技観戦契約約款』には、「相撲場内外でみだりに気勢を上げ騒音を出す行為」、「相撲競技の円滑な進行または他の観客の観戦を妨げまたは妨げる虞のある行為」などは禁止行為であるとはっきり書かれている。また、違反した場合は主催者である日本相撲協会から退場処分を下される可能性があることも記されている。ただ、立ち合い前の“騒音問題”が続出していることを考えると、次場所以降は違ったアプローチを検討していくべきなのかもしれない。
■他競技には参考になりそうな策が?
立ち合い前に大声を飛ばす観客の考えは当人にしか分からない面もあるが、自身が応援する力士に何としても勝ってもらいたいという気持ちが行き過ぎてしまったり、そもそもマナー違反に該当することを知らなかったりというケースがほとんどだと推測される。そのため、場内で上手く周知や意識づけができれば、大声が飛ぶような場面も減らせる可能性はあるかもしれない。
他競技に目を向けると、ゴルフではショットを行うゴルファーの集中が乱されないよう、スタッフが周囲の観客へ向け「お静かに」、「QUIET PLEASE」などと書かれたボードを掲げ音を出さないよう促している。相撲でも各取組前に、土俵周りや客席に呼び出しらを配置しボードを掲げてもらうなどの形で応用ができるのではないか。
また、テニスでは試合中に騒ぐ観客がいた際、主審が場内アナウンスで静粛を呼び掛けたり、あまりにも酷い場合は退場処分にしたりしている。会場内にアナウンス設備が整っている相撲にとっては、これも参考にできそうな策の一つだといえそうだ。
■YouTubeやSNSを通じての啓発も一手か
他競技の案を参考にするのが難しいのであれば、日本相撲協会側からファン側へ観戦マナーを広く発信・周知していくことが重要になる。登録者が31.1万人(2025年8月13日午前0時時点)の公式YouTubeチャンネルや、フォロワー数43.6万人(同)の公式X(旧Twitter)アカウントを通じて、動画や文章で啓発していくことも一手かもしれない。
また、その際にはどれだけ立ち合いを大事にしてきたかや、立ち合いを大事にしていたことで勝てた相撲があったことなど、具体的なエピソードを盛り込めるとファン側にも響きやすくなるだろう。現役力士の中には作戦上の理由などからあまり明かしたくない力士もいることが予想されるため、親方衆の中から適役をピックアップする形が望ましいかもしれない。
9月14~28日にかけ開催が予定される秋場所は、一般販売が始まった8月9日時点で既に全日程・全席種のチケットが完売している。初日から千秋楽まで大盛況となることはほぼ確実な情勢だが、次場所では対策に本腰を入れないといけないような状況が発生しないことを願うばかりだ。
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