達成なら60%の確率で大関になれる!? 大相撲秋場所、4名の力士が王手をかける珍記録は

柴田雅人 Masato Shibata

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時事

■4名の力士が“三賞総なめ”を射程に

大相撲の本場所では、関脇以下で優秀な成績を残した幕内力士を対象に三賞が贈られる。三賞は殊勲賞、敢闘賞、技能賞の3つからなる賞で、日本相撲協会の審判委員らで構成される三賞選考委員会によって受賞力士が決定される。

今年は初場所で敢闘賞2名(霧島、金峰山)、技能賞1名(王鵬)、春場所で敢闘賞2名(美ノ海、安青錦)、技能賞1名(高安)、夏場所で敢闘賞2名(安青錦、佐田の海)、技能賞2名(霧島、若隆景)がそれぞれ選出された。殊勲賞については前半3場所は該当者なしが続いていたが、名古屋場所で2名(玉鷲、琴勝峰)が受賞。同場所は敢闘賞が3名(草野、藤ノ川、琴勝峰)、技能賞も2名(安青錦、草野)出ており、今年最多の三賞受賞人数となった。

名古屋場所終了時点での三賞受賞力士は延べ17名だが、この内霧島、安青錦、琴勝峰、草野の4名は年間での三賞コンプリートに王手をかけている。9月14日に初日を控える秋場所、11月に予定される九州場所での達成が期待されるところだが、実はそれほど達成例がない珍記録の一つだ。

■達成者の半数以上は後の大関

角界では21世紀初の場所である2001年初場所~2025年名古屋場所までの期間において、1年で三賞をコンプリートした力士は10名しかいない。その10名の内訳は以下の通りだ。

2003年:高見盛(春・技、名古屋・殊、秋・敢)
2007年:豊ノ島(初・敢技、秋・殊)
2010年:把瑠都(初・殊、春・敢技)
2012年:豪栄道(春・敢、夏・殊、九州・技)
2015年:嘉風(名古屋・敢、秋・殊技、九州・技)
2017年:高安(初・敢、春・殊、夏・技)
2018年:栃ノ心(初・殊技、春・殊、夏・敢技)
2019年:朝乃山(夏・殊敢、秋・殊、九州・技)
2024年:尊富士(春・殊敢技)、大の里(初・敢、春・敢技、夏・殊技、名古屋・殊、秋・敢技)

2000年~2010年代中盤までは数年に一度出るかどうかという頻度だったが、2017年~2019年にかけては3年連続で達成力士が誕生。2020年代はしばらくの間出ていなかったが、昨年は今世紀で初めて達成力士が2名出ている。

2000年代は貴乃花・武蔵丸の2横綱が最後の輝きを放つ傍らで、朝青龍・白鵬らモンゴル勢が台頭。白鵬は10年代後期ごろまで土俵を支配した。その影響で三賞、特に殊勲賞を獲得するハードルが跳ね上がっていた(2009年は年間で該当力士ゼロ)こともあり、この時期は頻度がまばらになっていた。一方、白鵬が衰えた後は現在まで群雄割拠の状況が続いているが、絶対的な存在がなかなか出てこない分、三賞コンプリート力士の出現頻度にもムラが出ているようだ。

三賞の中で敢闘賞、技能賞の2つは、勝ち星や相撲内容といった力士自身による要素が受賞を左右する。一方、殊勲賞は相手が横綱・大関であるか、優勝争いに絡んでいるかなど、自分では介入できない要素も絡む。それぞれ求められる要素が異なる賞を1年で総なめにすることは、どの時代でも類まれな実力の証明となっている。実際、前出の達成力士10名の内、把瑠都、豪栄道、高安、栃ノ心、朝乃山、大の里の6名は後に大関へ昇進。大の里についてはその先の横綱まで辿り着いている。

■記録達成には優勝争いが必須か

単純計算ではあるが、達成なら60%の確率で大関昇進が実現しているこの珍記録を、霧島、安青錦、草野は残り2場所で殊勲賞、琴勝峰は技能賞を獲得できれば達成となる。三賞の難易度は一般的に殊勲賞、技能賞、敢闘賞の順で難しいとされているため、琴勝峰については少しだけ有利かもしれない。

ただ、どの力士も選考委員会にインパクトを与えるため、優勝争いに絡むような好成績が必要なことは確かだ。霧島は先場所で白紙に戻った大関とりの仕切り直し、残り3名は千秋楽まで優勝争いを展開した先場所の勢いを維持できれば自ずと結果もついてくるだろう。

王手をかけた4名の中から達成者が出るのか、圏外にいる力士がここから三賞を総なめにするのか、それとも誰も達成できずに2025年が終わるのか。残り2場所の1場所目である秋場所はもう間もなくだ。

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柴田雅人 Masato Shibata

スポーティングニュース日本版スポーツコンテンツライター。福岡県出身。幼少期から相撲、野球、サッカーを中心に幅広くスポーツを観戦。大学卒業後からライター活動を開始し、主にスポーツ記事の企画立案、取材、執筆などに携わる。現在もスポーツ観戦が一番の趣味で、複数競技を同時に視聴することもしばしば。