「総合的な判断」で済ませるのは危険!? 横審、豊昇龍の“奇襲”への見解が懸念されるワケは

柴田雅人 Masato Shibata

「総合的な判断」で済ませるのは危険!? 横審、豊昇龍の“奇襲”への見解が懸念されるワケは image

時事

■立ち合い変化への見解に注目集まる

大相撲秋場所は28日に千秋楽の取組が行われ、東横綱・大の里が西横綱・豊昇龍との優勝決定戦を制し13勝2敗で優勝を果たした。一夜明けた29日、東京・両国国技館で定例会合を開いた横綱審議委員会(横審)が両横綱に言及したが、その中のある内容がファンの間で話題となっている。

注目が集まっているのは、豊昇龍が14日目の東関脇・若隆景戦で見せた立ち合い変化への見解。この日は星の差一つで追う大の里が東大関・琴櫻の休場により不戦勝となったため、豊昇龍は負ければ優勝の可能性が消滅する状況だった。これもあってか、豊昇龍は立ち合いで右に変化し、頭を低く下げて突っ込んきた若隆景をはたき込みで下した。

各報道によると、会合後に会見を開いた横審・大島理森委員長は豊昇龍の変化について、「横綱としての勝利への決断として、ああいう取り口になったのではないかという意見が(委員からは)あった。いろんなご意見があることは承知しているが、委員長の私の思いとしても、勝つということは勝負において大変大事な目標の一つ。加えて、優勝というものが目前にあった時に、総合的な判断として豊昇龍関が取られた結果ではなかったかと思っています」と理解を示すスタンスをとったという。ただ、これを受けた相撲ファンの間では、今後に影響を及ぼす発言になりかねないと懸念する声も少なからず見受けられる。

■横綱らしくない戦法に理解示した背景は

変化は相撲の取組における作戦の一つで、立ち合いぶつかる瞬間に左右どちらかに回避して相手の体勢を崩し、はたき込みや突き落としなどで勝利を狙う。ルールで禁止されているわけではないが、一般的には取組がつまらなくなるため好ましくはないとされており、特に格上が格下相手に用いた場合は強く批判されることも珍しくはない。

今回の豊昇龍対若隆景戦は、豊昇龍にとっては負ければV逸、若隆景も敗北なら負け越し決定という、状況は違うがお互いに生き残りをかけた大一番だった。手に汗握る熱戦が見られると期待するファンも多かっただけに、変化が決まった瞬間に場内は「あぁ~」と大きなため息に包まれ、SNS上にも落胆や失望の声が相次いだ。

一方、横審側は番付最高位として優勝争いが義務付けられる横綱の責任を果たすためには致し方無い判断だったという捉え方をしたようだ。14日目に不戦勝で優勝が決まるよりは、内容はどうあれ千秋楽まで優勝争いがもつれる方が望ましいという考えもあったかもしれない。また、結果として千秋楽は本割で豊昇龍が勝利し優勝決定戦が実現したこと、優勝決定戦も物言いがつく熱戦になったことも評価に影響した可能性はゼロではなさそうだ。

■次場所以降に悪影響が及ぶリスクも?

ただ、ファンの間では優勝争いを理由に横綱の“奇襲”を許容すると、次場所以降も同じようなケースが頻発するリスクがあるのではという指摘がある。目に余るとして釘を刺そうとしても、今回の見解との整合性が取れないことから、踏み込んだ指摘ができないという展開も考えられそうだ。

また、横綱は土俵内外で品格が求められる地位であり、土俵内ではただ勝つのではなく、格下の攻めを正面から受けて立った上で自分の型に持ち込んで勝利する「横綱相撲」が望ましいとされている。そうした品格も込みで昇進可否を判断する機関である横審が、シチュエーションはどうであれ、横綱に似つかわしくないような戦法を庇うような見解を出すのはどうなのかという見方もあるようだ。

秋場所は13勝2敗で優勝同点と成績自体は良かったが、終盤の相撲内容については不安定な面もあった豊昇龍。九州場所では自他ともに認めるような内容の相撲を見せ、今回逃した賜杯を手にすることはできるだろうか。

✍️この記事はいかがでしたか? 読後のご意見・ご感想をぜひお聞かせください

柴田雅人 Masato Shibata

スポーティングニュース日本版スポーツコンテンツライター。福岡県出身。幼少期から相撲、野球、サッカーを中心に幅広くスポーツを観戦。大学卒業後からライター活動を開始し、主にスポーツ記事の企画立案、取材、執筆などに携わる。現在もスポーツ観戦が一番の趣味で、複数競技を同時に視聴することもしばしば。