マラドーナの魔法のようなプレー、ロナウジーニョのリズミカルなテクニック、そしてリオネル・メッシという史上最高のプレーヤー。FCバルセロナの背番号10は、ただのユニフォーム番号ではない。それは、受け継がれてきた象徴であり、ピッチ上の王座のような存在である。
そして今、その伝説を引き継ごうとしているのがラミン・ヤマルだ。彼はまだ18歳になったばかりだが、この背番号に宿る風格をすでに備えている。果たして、13年間で672ゴールを決めたアルゼンチンの王を超える日が来るのだろうか。その王冠は彼には重すぎるのか。
ラ・マシア出身、10代でトップチームデビュー、19番から10番への変更、左利きのアタッカーといういくつもの共通点が彼らにはある。「メッシにはメッシの道があって、僕には僕の道がある」そう語るヤマルには自信があり、決して驕ってなどいない。信念と謙虚さのバランスこそが彼の最大の強みかもしれない。
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— FC Barcelona (@FCBarcelona) July 16, 2025
バルセロナで背番号10を背負った選手たち
バルサの10番は、長い歴史を持つ特別な番号だ。しかし、いつの時代もスーパースターが着けていたわけではない。ラ・リーガで固定番号制が導入されたのは1995年であり、それ以前の10番は単なるポジション番号に過ぎなかった。だがそれ以降、10番を託されてきた選手たちの顔ぶれは、まさにサッカー界の殿堂入りと言えるような名前が並んでいる。
2003年から2008年の間で観客を魅了してきたロナウジーニョ。あり得ない角度からゴールを決め続けたリバウド。決定力の塊だったロマーリオ。説明不要のマラドーナ。そして10番を”伝説の象徴”に変えてしまったメッシ。
メッシの退団後はアンス・ファティに10番を託されたが、怪我と不調に悩まされ期待に応えることができなかった。
そこに現れたのがラミン・ヤマルである。すでにトップチームで100試合以上に出場し、25ゴールを記録している。18歳という年齢で、これだけの記録を残しているのは驚異的だ。
ここで、バルセロナの歴史の中で背番号10を背負った選手を振り返る。
選手名 | 在籍期間(10番) | 出場試合数 |
---|---|---|
ラディスラオ・クバラ | 1950–1961 | 357 |
ルイス・スアレス | 1960/61 | 176 |
エヴァリスト・デ・マセド | 1957–1961 | 114 |
ファン・マヌエル・アセンシ | 1978/79 | 396 |
ディエゴ・マラドーナ | 1982–1984 | 58 |
ギャリー・リネカー | 1986–1989 | 138 |
ロベルト・フェルナンデス | 1989/90 | 58 |
ジョゼップ・グアルディオラ | 1991/92 | 47(10番を背負った期間) |
ギジェルモ・アモール | 1992/93 | 567 |
フリスト・ストイチコフ | 1993/94 | 48 (10番を背負った期間) |
ロマーリオ | 1993–1995 | 84 |
ゲオルゲ・ハジ | 1994/95 | 51 |
ジョルディ・クライフ | 1994–1996 | 54 |
アンヘル・クエジャル | 1995/96 | 15 |
エマニュエル・アムニケ | 1996/97 | 24 |
ジオヴァンニ・シウヴァ | 1996–1999 | 108 |
ヤリ・リトマネン | 1999/00 | 32 |
リバウド | 2000–2002 | 235 |
フアン・ロマン・リケルメ | 2002/03 | 42 |
ロナウジーニョ | 2003–2008 | 207 |
リオネル・メッシ | 2008–2021 | 778 |
アンス・ファティ | 2021–2023, 2024/25 | 112 |
ラミン・ヤマル | 2025/26(予定) | 106 (2025年7月時点) |
※出場試合数は、バルセロナでのキャリア全体の数字を記載している。
He made sure to record this moment too🤳 pic.twitter.com/C1Cp0MA7lN
— FC Barcelona (@FCBarcelona) July 17, 2025
ラミン・ヤマルは、メッシの記録を超えられるのか?
バルセロナは、この逸材を手放すつもりはない。ヤマルとは2031年までの長期契約を締結し、年俸は最大で2,000万ユーロとも言われている。さらに、契約解除金も10億ユーロという破格な価格に設定している。
すでに彼は、ラ・リーガ、コパ・デル・レイ、スーペルコパ、そしてスペイン代表としてユーロ制覇も経験済みだ。そして昨シーズンも、18ゴール25アシストという爆発的な数字を記録している。
CL準決勝のインテル戦と、ネーションズリーグ決勝のポルトガル戦ではいずれも敗北を喫してしまったが、その試合後の彼の姿勢は評価されるべきであった。怒ったりふてくされたりせずに、ただ静かに前を見据えていたのだ。
メッシのような冷静さと、ロナウドのような野心。この組み合わせは非常に危険であり、彼はどちらも備えている。
メディアに誕生日パーティーが取り上げられる騒動もあったが、本人は落ち着いていた。「僕はバルサの選手だ。クラブを離れたら、自分の時間を楽しんでいるだけ」
18歳でこれだけの注目とプレッシャーを受けながら、それに押しつぶされることなく立ち振る舞える選手は、そう多くない。だがヤマルには、厳格な父と、支えてくれる母と祖母という家族がいる。その原点が、彼のスパイクを地面にしっかりと固定してくれているかもしれない。ゴール後に見せる「304」のジェスチャーも、彼が生まれ育った町「ロカフォンダ」を表している。
ヤマルがメッシの記録を超えられるかは正直まだわからない。そもそも、ひとつのクラブで13年間プレーし続けること自体が、現代サッカーでは奇跡に近い。だが、才能・精神力・カリスマ性の、すべてを兼ね備えたヤマルなら、可能なのかもしれない。
彼はまだチャンピオンズリーグも、ワールドカップも手にしていない。それらを本気で欲していることは誰の目にも明らかだ。
そして何より、彼はメッシの幻影を追っているわけではなく、自分自身の物語を築こうとしている。バルセロナの歴史が教えてくれるように、「伝説」とは、足跡をなぞる者ではなく、自ら足跡を刻んだ者のことを言うのだ。
原文:Can Lamine Yamal break Lionel Messi’s record as Barcelona’s longest-serving No. 10?
翻訳:小山亮(スポーティングニュース日本版)
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