世界のサッカーにおける最も権威ある個人賞であるバロンドールは、毎シーズンの話題を独占する。
この賞は、前年8月から当年7月までのシーズンで最も優れたサッカー選手に対して、フランス・フットボール誌から秋に授与されるものだ。現在はUEFAも組織に関与しており、毎年開催される授賞式では、男女の年間最優秀選手と複数の賞が発表される。
2024年のロドリの受賞は物議を醸したが、彼が今季序盤で前十字靱帯断裂という大怪我を負ったことで、2025年のレースは完全に混戦となった。マンチェスター・シティのロドリに続いて高い評価を受けたレアル・マドリードのエムバペ、ベリンガム、ヴィニシウスらも有力視されていたが、新たな挑戦者たちも台頭している。
欧州トップリーグでの活躍も重要だが、最終的な受賞者は往々にしてUEFAチャンピオンズリーグでのパフォーマンスで評価される。
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バロンドールランキング2025
以下は、2025年5月31日時点での「The Sporting News」によるバロンドール候補トップ10のランキングだ。今シーズンがこの日で終了したと仮定した場合の評価に基づいている。
10位:マイケル・オリーズ(バイエルン/RW)
今季、マイケル・オリーズはほとんど注目されることがなかったが、バイエルン・ミュンヘンで国内外を問わず一貫して高いパフォーマンスを見せたことで、フロリアン・ヴィルツのような後半失速組を押しのけてランクインに値する存在となった。
セルティックとのCL戦やヴォルフスブルク戦などで決定的なゴールを挙げただけでなく、創造面でも卓越。ブンデスリーガではリーグ最多のアシスト(2位と3つ差)を記録し、90分あたり約1.0のxG+xA(ゴール期待値+アシスト期待値)を記録した。
セルジュ・ニャブリやレロイ・サネがシーズンを通してコンディションに苦しむ中、オリーズはブンデスリーガだけで約2400分、全大会で約3500分出場し、安定した貢献を果たした。
マイケル・オリーズ スタッツ2024/25
コンペティション | 試合 | ゴール | アシスト |
ブンデスリーガ | 34 | 12 | 18 |
チャンピオンズリーグ | 14 | 5 | 2 |
DFBポカール | 2 | 0 | 1 |
合計 | 50 | 17 | 21 |
9位:ジュード・ベリンガム (MF/レアル・マドリード)
ゴールやアシストの派手さは昨季より減少したが、レアル・マドリードの複数タイトル獲得への挑戦において依然として重要な存在だった。
キリアン・エムバペ加入により攻撃的な役割からやや後退し、8番と10番のハイブリッド的な中盤に配置されたが、その中でベリンガムは依然として欧州トップクラスの指標を記録。パス成功率、ドリブル成功、プログレッシブパス受け取り、キャリー、タックルと多岐に渡り、彼の万能性を証明した。
攻撃面での数字は少し物足りないが、それでも「14ゴール14アシスト」という数字は中盤の選手としては立派。しかし、レアル・マドリードが無冠に終わった点と、感情的な退場劇が複数回あった点は評価を下げている。
ジュード・ベリンガム スタッツ2024/25
コンペティション | 試合 | ゴール | アシスト |
ラ・リーガ | 31 | 9 | 9 |
チャンピオンズリーグ | 13 | 3 | 3 |
コパ・デル・レイ | 4 | 1 | 1 |
スーペルコパ | 2 | 1 | 0 |
UEFAスーパーカップ | 1 | 0 | 1 |
合計 | 51 | 14 | 14 |
8位:フリアン・アルバレス(FW/アトレティコ・マドリード)
アトレティコ移籍初年度で見事にフィットし、チームを複数タイトル争いに導いたアルバレス。プレミア王者マンチェスター・シティが彼を手放したことを後悔しているのも無理はない。
時に窮屈な戦術環境の中でも、全大会で29ゴール7アシスト。特にチャンピオンズリーグでは9試合7得点と際立った活躍を見せた。守備面での献身性も高く、攻守に渡って貢献できる万能型FWとして評価されている。
とはいえ、CL準々決勝でレアル・マドリードにPK戦で敗退し、ラ・リーガやコパ・デル・レイでもタイトルに届かなかったことで影が薄くなってしまったのは否めない。
フリアン・アルバレス スタッツ 2024/25
コンペティション | 試合 | ゴール | アシスト |
ラ・リーガ | 37 | 17 | 4 |
チャンピオンズリーグ | 10 | 7 | 1 |
コパ・デル・レイ | 7 | 5 | 2 |
合計 | 54 | 29 | 7 |
7位:ロベルト・レヴァンドフスキ(CF/バルセロナ)
2023/24シーズン終了時点で、35歳のロベルト・レヴァンドフスキは「終わった」と見なされていた。ラ・リーガで19ゴール8アシストという成績は決して悪くはないが、本人がこれまで積み重ねてきた水準には及ばなかった。
2022/23シーズンには90分あたり4.25本だったシュート数は、翌シーズンには2.98本に激減。危険なエリアでボールを受ける頻度が下がり、決定機でも決めきれない場面が増えた。
しかし2025年3月時点で、レヴァンドフスキの「終焉」説は大げさだったことが明らかになった。シュート数はかつての水準近くまで回復し、ペナルティエリア外でのボールタッチがほとんどないにも関わらず、高い決定率を誇っている。ハンジ・フリック監督の攻撃的スタイルの恩恵もあるが、その中で機能しているレヴァンドフスキの存在感は無視できない。
2024年後半には調子を落とした時期もあったが、最終的には前シーズンを大きく上回るゴール数を記録し、国内外でその実力を証明。バロンドール候補に名を連ねるにふさわしいシーズンを過ごした。ただし、伝統的なストライカーが創造性豊かな選手たちに勝るのは容易ではない。
残念ながら、シーズン終盤に負ったハムストリングのケガにより、欧州戦線が終わり、リーグ優勝も決まった後に復帰するという最悪のタイミングに。これがバロンドール争いにおける大きな痛手となった。
レヴァンドフスキ スタッツ 2024/25
コンペティション | 試合 | ゴール | アシスト |
ラ・リーガ | 34 | 27 | 2 |
チャンピオンズリーグ | 13 | 11 | 0 |
コパ・デル・レイ | 3 | 3 | 0 |
スーペルコパ | 2 | 1 | 1 |
合計 | 52 | 42 | 3 |
6位:ハリー・ケイン(CF/バイエルン・ミュンヘン)
31歳となり、ついに悲願のタイトルも手にしたハリー・ケインは、バイエルンでの2年目にして圧巻のパフォーマンスを披露した。
ストライカーとして理想的な資質を持つケインは、ブンデスリーガで31試合26ゴール、欧州でも11ゴールを挙げた。得点力はもちろん、ポストプレーやカウンターでのキープ力、ペナルティキックの精度と、攻撃面での万能性を見せた。
プレッシングには課題があるが、エネルギッシュなウィンガーや中盤陣がそれを補っており、チームとしてバランスが取れている。レヴァンドフスキと並び30ゴール超を達成したが、ケインのxG(ゴール期待値)は24.37と、レヴァンドフスキ(30.26)を下回っている。つまり、より少ないチャンスから得点していることになる。
さらにアシスト数でもケインは9を記録し、レヴァンドフスキの2を大きく上回った。
唯一のネックは、バイエルンがCLのベスト16でインテルに敗れ、ケインが欧州の舞台から姿を消した点だ。バルセロナが好調を維持したことで、レヴァンドフスキの方が話題性では有利な状況となっている。
ハリー・ケイン スタッツ 2024/25
コンペティション | 試合 | ゴール | アシスト |
ブンデスリーガ | 31 | 26 | 10 |
チャンピオンズリーグ | 13 | 11 | 2 |
DFBポカール | 2 | 1 | 1 |
合計 | 46 | 38 | 13 |
5位:キリアン・エムバペ(FW/レアル・マドリード)
レアル・マドリードでの初年度はスロースタートとなったが、それを過剰に批判する声も多かった。しかし、2024/25シーズン序盤を乗り越えたエムバペは一気に覚醒し、銀河系軍団の絶対的エースとなった。
序盤2〜3ヶ月間の得点不足が話題になったが、それでも最終的にはリーガ得点王(ピチーチ賞)を獲得。創造性の面ではやや物足りない数字だが、センターFWとしての起用が主になった今、それは当然とも言える。
ヴィニシウスやロドリゴとの連携不足から、序盤はポジションの重複が目立ったが、次第に息が合ってきた。しかし、CL準々決勝敗退という結果は、まだ成熟しきれていないことを示している。
レアル・マドリードが今季無冠で終わったこと、そして彼の加入後にヴィニシウスやベリンガムの数字が落ちたという批判もあり、バロンドール獲得の望みはほぼ絶たれた。それでも、リーグ終盤の爆発で評価を高めた。
キリアン・エムバペ スタッツ 2024/25
コンペティション | 試合 | ゴール | アシスト |
ラ・リーガ | 34 | 31 | 3 |
チャンピオンズリーグ | 14 | 7 | 1 |
コパ・デル・レイ | 4 | 2 | 0 |
スーペルコパ | 2 | 1 | 0 |
UEFAスーパーカップ | 1 | 1 | 0 |
合計 | 55 | 42 | 4 |
4位:ラミン・ヤマル(FW/バルセロナ)
2023/24シーズンに「世界最高の若手選手」としてコパ・トロフィーを受賞したラミン・ヤマルは、2024/25シーズンにさらに驚異的な飛躍を遂げた。シーズン中盤には統計的な停滞も見られたが、シーズンの締めくくりで爆発的な活躍を見せ、その低迷を払拭した。
まだわずか17歳という若さながら、シーズン序盤にはラ・リーガ最初の12試合で5得点・7アシストを記録し、チャンピオンズリーグ最初の3試合でも2つのゴール関与(得点またはアシスト)を記録した。さらに、UCLノックアウト4試合で3ゴール関与、アトレティコ・マドリード戦では重要な得点も挙げた。
シーズン後半の活躍により、ヤマルは一気にランキングを駆け上がった。得点やアシストがない試合でも、その自身に満ちたプレーや観客を魅了する動きは圧巻だ。
バルセロナの国内三冠達成においても大きな存在感を発揮したが、目を見張るような数字がやや足りないため、バロンドール争いでは「3位争いの有力候補」と見なされており、最終的には賞賛を得ても受賞には届かないという見方が強い。
ラミン・ヤマル スタッツ 2024/25
コンペティション | 試合 | ゴール | アシスト |
ラ・リーガ | 35 | 9 | 15 |
チャンピオンズリーグ | 13 | 5 | 4 |
コパ・デル・レイ | 5 | 2 | 6 |
スーペルコパ | 2 | 2 | 0 |
合計 | 55 | 18 | 25 |
3位:モハメド・サラー(RW/リヴァプール)
2024/25シーズン中盤までは、モハメド・サラーがバロンドール争いをリードしているように見えた。しかし、リヴァプールがPSGに敗れ、CLベスト16で敗退したことが流れを一変させてしまった。しかも、サラーは両試合でヌーノ・メンデスに封じ込められ、影が薄いままであった。
それでも、サラーの今季の成績はワールドクラス。34ゴール・23アシストという57のゴール関与数を記録している。特にプレミアリーグでは29試合で27ゴールを挙げ、ビッグクラブとの対戦でも重要な得点を重ねた。
しかし、現在のサラーの受賞の可能性を下げる2つの問題がある。まず、チャンピオンズリーグでの活躍が不足している。この大会は他のどの大会よりも重要な舞台であり、欧州のトップ大会として最も注目され、投票結果に大きな影響を与えるべきものだ。
第2に、サラーは夏に国際大会やクラブの大きな機会を得られないため、成績をさらに積み重ねる機会がない。アフリカ国際サッカーは夏後半に休止期間に入り、リヴァプールはクラブワールドカップ2025に参加しない。そのため、他の選手たちは国際大会での活躍によって票を伸ばすチャンスがある一方で、サラーはシーズン中の実績のみに頼ることになる。
また、CL敗退により、サラーには国内リーグで記録的な活躍を最後まで維持することが求められていた。3月以降のリーグ終盤8試合でわずか1ゴールと、ラストスパートに失敗。バロンドール争いからは脱落と見られている。
モハメド・サラー スタッツ 2024/25
コンペティション | 試合 | ゴール | アシスト |
プレミアリーグ | 38 | 29 | 18 |
チャンピオンズリーグ | 9 | 3 | 4 |
FAカップ | 0 | 0 | 0 |
カラバオカップ | 5 | 2 | 1 |
合計 | 52 | 34 | 23 |
2位:ウスマン・デンベレ(FW/PSG)
このシーズン、ウスマン・デンベレは静かにヨーロッパ屈指のパフォーマンスを見せていいた。しかし、リヴァプールを倒しサラーを退けたCLベスト16以降、世界の注目を集め始めることになった。
リーグ・アンのレベルに異論はあれど、デンベレは21ゴール・8アシストを記録し、特に12月中旬から3月中旬までの11試合16ゴールの爆発ぶりは圧巻だ。
CLでも後半戦から大爆発し、シーグフェーズの残り2試合とプレーオフの試合で6ゴールを記録。リヴァプール戦では得点こそなかったものの、ピッチ上で最高の選手として君臨しました。
CL決勝でも2アシスト+激しいプレスで存在感を見せたものの、若手ドゥエの2ゴールによりやや霞んでしまった。
それでも、PSGのCL制覇に大きく貢献したことは間違いなく、デンベレの価値を証明する結果となった。
ウスマン・デンベレ スタッツ 2024/25
コンペティション | 試合 | ゴール | アシスト |
リーグ・アン | 29 | 21 | 8 |
チャンピオンズリーグ | 15 | 8 | 6 |
クープ・ドゥ・フランス | 4 | 3 | 1 |
トロフェ・デ・シャンピオン | 1 | 1 | 0 |
合計 | 49 | 33 | 15 |
1位:ラフィーニャ(FW/バルセロナ)
ウスマン・デンベレと並び、今季最も過小評価されている存在がラフィーニャだ。自身のチーム内でも、レヴァンドフスキやヤマルの陰に隠れがちだが、実はこのブラジル人こそが世界最高レベルのプレイヤーのひとりだ。
バルサ加入後、常に一定の貢献を見せてきた彼だが、ハンジ・フリック監督の下でさらなる覚醒を遂げた。ラリーガでは18ゴール・11アシストでリーグ優勝に貢献し、チャンピオンズリーグでは13ゴール・9アシストという驚異的な成績を収めた。
欧州CLでは、バイエルン・ミュンヘン戦でのハットトリックが最も目立つが、ベンフィカ戦では2試合で3得点を挙げ、16強戦の第1戦で決勝点を決めるなど、リーグ戦ではボルシア・ドルトムント戦で1得点、アタランタ戦で2アシストを記録。これらを総合すると、ラフィーニャはビッグゲームでの活躍が評価されている。
モハメド・サラーの爆発的なアシスト数(21)に比べれば見劣りするかもしれないが、ラフィーニャはチャンス創出やxA(アシスト期待値)で上回っており、味方の決定力の違いが影響している。
ラフィーニャ スタッツ 2024/25
コンペティション | 試合 | ゴール | アシスト |
ラ・リーガ | 36 | 18 | 11 |
チャンピオンズリーグ | 14 | 13 | 9 |
コパ・デル・レイ | 5 | 1 | 4 |
スーペルコパ | 2 | 2 | 1 |
合計 | 57 | 34 | 25 |
次点
バロンドール候補としてわずか10人だけを選ぶというのは、実際には受賞の現実的な可能性がないとしても、今季素晴らしいシーズンを送った多くの選手たちを除外してしまうことになる。そうした選手たちにも、称賛に値する活躍があった。
昨年のバロンドールで最有力候補の一人だったヴィニシウス・ジュニオールは、レアル・マドリードが彼の2位に抗議して授賞式をボイコットするほど注目されていたが、今年はトップ10にも入っていないというのは驚きである。ブラジル人スターである彼は今なお世界トップクラスの選手であるが、昨シーズンのような英雄的活躍には程遠く、特にチャンピオンズリーグ準々決勝でのアーセナル戦では不調が目立った。レアル・マドリードが無冠に終わる可能性もあり、バロンドール争いからは大きく後退している。
もう一人、惜しくもリストから漏れたアタッカーがフロリアン・ヴィルツだ。彼は3月頃まで圧巻の活躍を見せていたが、負傷とともにレヴァークーゼンが国内外で敗退したことで、終盤戦で存在感を失った。今季がブンデスリーガでの最後のシーズンになるかもしれないが(ヨーロッパのビッグクラブが彼に注目しているため)、高額移籍に値するだけの活躍を見せた。
セール・ギラシ(ボルシア・ドルトムント)もゴールを量産し続けているが、チームのリーグ順位が低迷しているため、この議論の本流に乗ることは難しい。ヨーロッパでの大番狂わせでも起こさない限り、候補にはなりにくいだろう。
アデモラ・ルックマンとジャマル・ムシアラも素晴らしい活躍を見せているが、アタランタのCL敗退によりルックマンのバロンドール戦線も終焉を迎える可能性が高く、ムシアラは4月初旬にハムストリングを断裂し、シーズン終盤を戦うことができなかった。
理解すべき点として、ディフェンダーやミッドフィルダーがこのリストの上位に食い込むのは非常に難しいという現実がある。実際、The Sporting News のランキングには現在、そうしたポジションの選手は含まれていない。
しかし、称賛に値する守備陣の例外も存在する。リヴァプールのフィルジル・ファン・ダイクは、チームがCLで攻撃力不足により敗退したものの、守備では圧倒的なパフォーマンスを発揮してきた。
また、もう一人の優れた守備選手がアーセナルのガブリエウである。彼は守備職人であるだけでなく、攻撃時のセットプレーでも空中戦で大きな脅威となることを証明してきた。ただし、ムシアラ同様、シーズンを終えるケガにより評価の道が閉ざされた。
中盤では、ロドリの負傷が他の選手たちに注目を集めるチャンスを与えた。攻撃的ミッドフィールダーでは、ドミニク・ソボスライやブルーノ・フェルナンデスが傑出したシーズンを送っているが、守備的ミッドフィールダーには評価に値する選手が少ないのが現状である。フェデリコ・バルベルデも複数ポジションでの素晴らしいパフォーマンスを見せているが、世界的な視点ではあまり注目されていないというのが実情だ。
原文:Ballon d'Or rankings 2025: Potential winners, candidates for soccer award with Raphinha, Dembele favourites over Salah
抄訳:小鷹理人(スポーティングニュース日本版)