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【WRC】トヨタのセバスチャン・オジエが史上最多タイ9度目戴冠 「引退覚悟」が呼んだ奇跡

松永裕司 Matz Matsunaga

【WRC】トヨタのセバスチャン・オジエが史上最多タイ9度目戴冠 「引退覚悟」が呼んだ奇跡 image

Toyota Gazoo Racing

世界ラリー選手権史上最多タイとなる9度目の戴冠をはたしたオジエ

2025年、FIA世界ラリー選手権(WRC)の頂点を決める最終戦「ラリー・サウジアラビア」は29日、デイ4が行われ、モータースポーツ史に新たな伝説を刻む、あまりにもドラマティックな幕切れとなった。

舞台は灼熱のジッダ。最終日デイ4の合計距離はわずか65.86km。そして、この砂漠の最終ステージが、シーズンを通して続いてきたTOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)セバスチャン・オジエ、エルフィン・エバンス、カッレ・ロバンペラとチームメートによる三つ巴の緊迫したチャンピオン争いに終止符を打つこととなった。

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前日、総合3位に順位を上げ、最終戦優勝争いの権利をキープしていた勝田貴元は、デイ4の最長ステージSS16で高速コーナーを攻めきれず、まさかのコースアウトで、ロールオーバー。マシンに甚大なダメージを負いながらフィニッシュしたが、総合5位に後退。同時に、総合2位のマルティンシュ・セスクス、そして総合5位のロバンペラもタイヤトラブルで後退するという、上位陣総崩れが発生した。

この混乱を冷静に見極め、ベストタイムを叩き出し一気に総合3位へポジションアップを果たしたのが、オジエだった。

そして迎えた最終のパワーステージ(SS17)。エバンスが圧巻の最速タイムをマークし、自身初の王者へ可能性を最後まで示したが、時すでに遅し。オジエは2番手タイムでSSを走り切り、総合3位でフィニッシュ。この結果、シーズン3戦を欠場しながらも出場した11戦で6勝を含む10回の表彰台フィニッシュを達成したオジエが、ライバルたちをわずかながら上回り、通算9回目のドライバーズタイトル獲得を決めた。

これは、日本で初めてラリー・ジャパンが開催された2004年から、2012年にかけ9年連覇を果たしたセバスチャン・ローブと並ぶ、WRC最多タイ記録である。3つの異なるマニュファクチャラー(シトロエン、フォルクスワーゲン、トヨタ)でこの偉業を達成したオジエは、名実ともに「WRC史上最強」のドライバーの一角に名を連ねた。

この戴冠は、家族との時間を優先するために参戦体制を制限した「引退半ば」のオジエが、自身よりも若く、そしてフル参戦するライバルたちを打ち破った、いわば奇跡的な偉業達成だった。

王者の哲学:オジエの「限定参戦」が生んだ集中力

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Evans / Toyota Gazoo Racing

オジエは2021年に8度目のタイトルを獲得した後、フル参戦体制から身を引くと決断。「家族と過ごす時間を増やすため」という、アスリートとして最もシビアな選択の末、「限定参戦」というスタイルを選んだ。

誰もが、オジエの時代の終わりを予感した。フル参戦しないドライバーが、年間タイトルを獲ることなど、常識的には考えられない。路面や天候がめまぐるしく変わるWRCにおいて、経験値と走行感覚の維持は絶対条件であり、参戦機会の減少はそのまま競争力の低下につながる。

しかし、オジエはその常識を覆した。

彼が参戦した11戦での成績は驚異的だ。6勝、表彰台10回。出場したラリーでほぼ確実に勝利かポディウムフィニッシュを果たすという、驚異的な勝率と安定性を実現した。

逆にこの「限定参戦」が、オジエの集中力を極限まで高めたと見ることができる。一つ一つのラリーが彼にとって「最後のチャンス」であり、「特別な舞台」となった。その貪欲さ、勝利への渇望、そして「勝つために全てを出し尽くす」という覚悟が、フル参戦組を上回るパフォーマンスを引き出したと見るべきだろう。

最終戦サウジアラビアでの彼のレース運びは、その哲学を象徴している。ライバルたちがトラブルに巻き込まれ、次々と順位を落とす中、オジエは冷静かつアグレッシブにベストタイムを刻み、瞬く間に総合3位へ浮上。さらに土曜日のタイムのみで競われる「スーパーサタデー」でも1位となり、パワーステージと併せて9ポイントのボーナスを加算。このボーナスポイントが、最終的なタイトル獲得を決定づけた。

これはトラブルを避ける「リスクマネジメント」と、チャンスを逃さない「経験と判断力」が融合した、究極のラリー職人技と形容できよう。オジエは「偉大なチャンピオンには偉大な対戦相手が必要だ」とエバンスを称賛しつつも、自らのタイトル獲得を「夢にも思わなかった」と語る。この率直なコメントは、彼自身が、この奇跡的な戴冠に最も驚き、そして喜びを感じていることを示している。

トヨタの黄金時代:WRCの歴史を塗り替えたTGRの功績

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Toyota Gazoo Racing

オジエの9度目の戴冠は、彼自身の偉業であると同時に、今季のTGR-WRTの強さを改めて証明するものとなった。トヨタのドライバーは、過去7年間で6回もドライバーズタイトルを獲得。トヨタは既に第12戦セントラル・ヨーロピアン・ラリーで5年連続となるマニュファクチャラーズタイトルを手にしており、WRCにおけるトヨタの黄金時代は盤石とも言える。トヨタとしてのドライバーズタイトル獲得は今回で10回目となり、あの伝説的なランチアと並ぶ最多タイ記録となった。

オジエのタイトル獲得はもちろん、エバンスが年間2勝を含む8回の表彰台でシリーズ2位を獲得した「驚異的な安定感」も、チームにとって不可欠な要素だった。この強さの根源は、勝つために最適なツールを提供するチームの技術力と、それを支える豊田章男会長の情熱もあろう。豊田会長が「5度目のシルバーメダルにおめでとうとは言えないけれど、エルフィンの安定した走りはチームにとって本当に大切なもの」と語る通り、エバンスはWRCキャリア5回目となるシリーズ2位という、常にトップレベルで戦い続ける稀有な安定性を示した。

このトヨタという強力なファミリーの中で、オジエは最高の環境と最高のパートナーであるコ・ドライバー、ヴァンサン・ランデを得て、偉業を達成。オジエが「驚くべき仕事ぶりを見せ、私を鼓舞し、若返らせてくれた若いコ・ドライバーに出会えたことに感謝する」と称えるように、マシンの性能だけでなく、人と人との信頼関係こそが、WRCという極限の戦いを支える柱となっている。

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Evans/Ogier/Toyota Gazoo Racing

絶対エース・ロバンペラの離脱と勝田貴元の成長

今回のサウジアラビア・ラリーは、偉業の達成と共に「世代交代」と「新たな挑戦」の象徴的な舞台ともなった。

2022年、史上最年少でWRC王者となったロバンペラは、今シーズンをもってWRCを離脱、来季はTGRのサポートを受け、スーパーフォーミュラでのサーキットレースに転向する。

サウジでの最終戦は、SS16でのタイヤダメージにより総合7位に終わったが、彼は最後までフルスピードでのアタックを続けた。「自分たちが望んでいたような、最後のラリーにはなりませんでした」と語りつつも、「人生の大きな部分を占めてきたこのスポーツと仲間たちから離れるのは悲しいですが、それと同時に自分たちが成し遂げたことに誇りを感じています」と、未舗装路での戦いに別れを告げた。

豊田会長は「カッレと同じチームでいられて本当に楽しかった」と感謝を述べ、「来年は日本のサーキットで会いましょう」と、彼の新たな挑戦を力強く後押しした。ロバンペラが残した「最年少チャンピオン」という記録と、その若き才能の転身は、WRC、そしてモータースポーツ界全体に大きなインパクトを与えている。

勝田は、デイ2で2本のベストタイムを記録するなど一時首位争いに加わり、キャリア初の優勝に向けて期待が高まっていた。しかし、最終日を前に総合3位という好位置につけながら、SS16で痛恨のロールオーバー。

「少し楽観的なペースノートが原因でコースアウトするまでは表彰台を争っていました」と、ミスを率直に認める勝田。フロントウインドウを失うなど満身創痍のマシンでパワーステージに臨み、5番手タイムを記録して総合5位で完走した彼の姿は、彼の粘り強さとプロ意識を示している。

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Katsuta / Toyota Gazoo Racing

最終ステージ後、「もっともっと強くなって来シーズン帰ってくる」と語った勝田の言葉を、豊田会長も「信じてます!」と力強く受け止めた。フル参戦初シーズンをランキング6位で終えた勝田は、トップドライバーたちとの差を詰める確かな成長を見せている。来シーズン、彼が優勝争いの常連となり、トヨタのエースの一角を担うことになるのは間違いないだろう。

そして、このサウジでは、2026年シーズンに向けての大きな伏線も敷かれた。

Rally1フル参戦初シーズンのサミ・パヤリは、最終戦を総合4位でフィニッシュ。ラリージャパンでの表彰台を含め、若手ながら確かなスピードと安定感を見せ、来季への期待値を高めた。

さらに、2025年のWRC2王者であるオリバー・ソルベルグが、Rally2クラストップの総合10位でフィニッシュ。ソルベルグは、今季エストニア・ラリーでGR YARIS Rally1をドライブし、悲願のWRC初優勝を達成。この結果26年、TGR-WRTの一員としてトップカテゴリーのRally1車両でシーズンを戦うことが決定した。

チーム代表代行のユハ・カンクネンは、この若手たちの台頭に確信を持つ。「サミやオリバーといった若手の台頭もあり、2026年もまた力強い戦いができると確信しています」。

オジエは9冠という歴史的偉業を達成し、ロバンペラはWRCを去り、勝田は更なる飛躍を誓う。そして、次なる才能がトヨタというシートに座る。

25年シーズンは、セバスチャン・オジエの「偉大なるレガシー」が、次世代へと受け継がれていく、まさに「時代の転換点」となった。

来たる26年シーズン。オジエは前人未到となる10度目の戴冠に挑む。誰にも手が届かなかったその記録達成となるのか。あるいは、エバンス、勝田、そしてソルベルグら次世代の才能が、その王座を揺るがすのか。砂漠の最終決戦で幕を下ろしたWRCの興奮は、既に次なる戦いへと向かっている。

関連記事:最年少王者ロバンペラ不在の衝撃と新星「ソルベルグ」の鮮烈な復活 常勝トヨタ2026年の挑戦

ラリー・サウジアラビアの結果

  • 1 ティエリー・ヌービル/マーティン・ヴィーデガ (ヒョンデ i20 N Rally1) 3h21m17.3s

  • 2 アドリアン・フォルモー/アレクサンドレ・コリア (ヒョンデ i20 N Rally1) +54.7s

  • 3 セバスチャン・オジエ/ヴァンサン・ランデ (トヨタ GR YARIS Rally1) +1m03.3s

  • 4 サミ・パヤリ/マルコ・サルミネン (トヨタ GR YARIS Rally1) +1m51.7s

  • 5 勝田 貴元/アーロン・ジョンストン (トヨタ GR YARIS Rally1) +1m59.9s

  • 6 エルフィン・エバンス/スコット・マーティン (トヨタ GR YARIS Rally1) +3m43.9s

  • 7 カッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン (トヨタ GR YARIS Rally1) +5m31.5s

  • 8 グレゴワール・ミュンスター/ルイス・ルッカ (フォード Puma Rally1) +7m07.2s

  • 9 ジョシュ・マッカーリーン/オーエン・トレーシー (フォード Puma Rally1) +8m30.5s

  • 10 オリバー・ソルベルグ/エリオット・エドモンドソン (トヨタ GR Yaris Rally2) +10m00.6s


※現地時間11月29日14時30分時点のリザルトです。最新リザルトは www.wrc.com をご確認ください。

2025年WRCドライバー選手権順位

  • 1 セバスチャン・オジエ 293ポイント
  • 2 エルフィン・エバンス 289ポイント

  • 3 カッレ・ロバンペラ 256ポイント

  • 4 オィット・タナック 216ポイント

  • 5 ティエリー・ヌービル 194ポイント

  • 6 勝田 貴元 122ポイント

  • 7 アドリアン・フォルモー 115ポイント

  • 8 サミ・パヤリ 107ポイント

  • 9 オリバー・ソルベルグ 71ポイント

  • 10 グレゴワール・ミュンスター 40ポイント

2025年WRCマニュファクチャラー選手権順位

  • 1 TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team 735ポイント

  • 2 Hyundai Shell Mobis World Rally Team 511ポイント

  • 3 M-Sport Ford World Rally Team 205ポイント

  • 4 TOYOTA GAZOO Racing WRT2 158ポイント

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Staff Writer