■三役以上では唯一の休場力士に
9月に行われた大相撲秋場所では、三役以上の地位に7名の力士が名を連ねた。その中で唯一、千秋楽まで皆勤できなかったのが東大関・琴櫻だった。
同場所の琴櫻は初日から2連勝、1敗、3連勝、2連敗、3連勝、1敗と波があった中、13日目に優勝争いトップタイの西横綱・豊昇龍を撃破した。14日目の東横綱・大の里戦も好内容が期待されたが、日本相撲協会に「右膝内側側副靱帯損傷で全治3週間の見込み」との診断書を提出し休場。千秋楽に再出場はしなかったため、9勝5敗1休という成績で場所を終えることになった。
琴櫻は綱取りをかけた今年初場所で5勝10敗の負け越しを喫すると、翌春場所からは3場所連続で8勝7敗と苦戦が続いていた。秋場所ではようやく“ハチナナ地獄”からの脱出に成功したが、九州場所以降も苦難の道のりが続きそうな気配が漂っている。
■ファンを唸らせた豊昇龍戦が故障のきっかけに…
休場前最後の一番となった豊昇龍戦は秋場所はもちろん、それまでの4場所を含めても、今年一番の相撲と言っても過言ではないような会心の内容だった。立ち合い、左上手を取りにきた豊昇龍に合わせるように右を差すと、左ものぞかせながら一気に土俵際へ。劣勢の豊昇龍は琴櫻の右足に左足をかけながら突き落としを狙ったが、琴櫻は体勢を崩さずに寄り切った。
取組時間わずか4秒ほどで横綱を“瞬殺”した琴櫻の相撲は多くのファンを驚愕させたようで、日本相撲協会公式YouTubeチャンネルが13日目終了後に投稿した取組動画には「ここまで圧勝するとは思わなかった」、「冗談抜きで琴櫻史上最高の相撲では」、「こんな素晴らしい相撲を続けられれば横綱は見えるな」といったコメントが多数寄せられた。
ただ、故障休場を伝える報道によると、琴櫻はこの豊昇龍戦で右膝を痛めたという。長引く不振から脱出し強さを取り戻す可能性を感じさせた一番で怪我を負ったという点も、ファンの落胆が大きくなっている一要因になっていることは間違いないだろう、
■朝乃山のような苦難に襲われるリスクも
琴櫻は2021年秋場所で左膝内側側副靱帯、左膝半月板損傷の大怪我を負っており、今でも患部をテーピングで固めた状態で土俵に上がっている。今回、反対側の膝にも爆弾を抱える形になったわけだが、両膝不安により豊昇龍戦で見せたような出足の鋭さが今後鈍くなってしまう可能性は否定できない。
また、右膝故障が影響し、左膝をはじめとした他の箇所を故障してしまうリスクも考えられる。直近では朝乃山が2024年4月の春巡業で右膝を痛め、次の夏場所は「右膝関節内側側副靱帯損傷により、約3週間の安静加療を要する見込み」という診断書を提出し全休。翌名古屋場所で復帰したが、右膝故障で身体のバランスが崩れた面もあったのか、4日目の取組で左膝前十字靱帯断裂、左膝内側側副靱帯損傷、左大腿骨骨挫傷という大怪我を負った。翌5日目から2025年初場所まで3場所以上休場を強いられた朝乃山は、東小結から西三段目21枚目まで番付が下落。そこから徐々に番付を戻してはいるが、返り三役まではまだ先が長い状況だ。
琴櫻は2024年に優勝同点(初場所、13勝2敗)、大関昇進(初場所後)、初優勝(九州場所、14勝1敗)、年間最多勝(66勝24敗)と数々の実績を残し、2025年は綱取りをかけた状態で迎えた。綱取り失敗から思わぬ不振に陥り、ようやく復調の兆しが見えてきた中で新たな試練に見舞われた格好だが、苦難に打ち勝ち2024年のような姿を取り戻すことはできるだろうか。
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