■1年最後の九州場所は重要な場所に
大相撲九州場所は11月9日の初日まで1週間を切った。チケットは早々に完売しており、1年最後の本場所も大いに盛り上がりを見せることが予想される。
先の秋場所は千秋楽の結びで横綱・豊昇龍が横綱・大の里を破ったことで、両横綱が13勝2敗で並び優勝決定戦に突入。運命の一番は物言いもついた熱戦を大の里が制し自身5度目、今年に入ってからは3度目となる優勝を果たした。
九州場所でもこの両横綱を軸に優勝争いが展開されるとみられるが、大の里は前出の通り今年は優勝3回を記録していることに加え、既に年間最多勝も確定させているため、仮に今場所振るわずともそれほど評価は揺るがないだろう。一方、豊昇龍については横綱昇進5場所目となる今場所で優勝できなければ、来年以降もしばらくは茨の道が続くことになるかもしれない。
■昇進5場所目は今後を左右するデッドライン?
角界では平成以降現在までに、豊昇龍の他に12名の横綱が誕生している。彼らはいずれも「大関の地位で2場所連続優勝、またはそれに準ずる成績」という非常に厳しい条件をクリアして昇進を果たしているが、ハイレベルな実力の表れとも言うべきか、12名中10名は昇進5場所目までに横綱としての初優勝を記録している。
一方、昇進5場所目までに横綱初優勝を記録できなかったのは若乃花(三代目)、鶴竜(現音羽山親方)の2名だが、鶴竜は左肩故障により昇進6~7場所目まで休場を強いられた後、9場所目でようやく初優勝を記録。若乃花に至っては度重なる故障も響き、横綱として優勝することができないまま昇進11場所目の途中で現役を引退している。
横綱は番付最高位として常に結果を残し続けることが使命とされ、それが果たせなければ潔く身を引くことが求められる。そのため、若乃花、鶴竜の両名は優勝を逃がし続ける中で焦りや重圧が大きくなり、それが更なる不振や故障につながっていったものとみられている。実際、若乃花は当時睡眠薬を飲んでも寝られないほど精神的に追い込まれていたといい、鶴竜も横綱初優勝後の館内インタビューで「横綱になってからなかなか優勝できずに、すごく悩んで苦しかった」と吐露している。
豊昇龍は自身2度目の優勝(12勝3敗)を果たした今年初場所後に横綱へ昇進したが、平幕相手に3敗を喫したこと、直前の2024年九州場所で大関・琴櫻との千秋楽相星決戦に敗れ優勝を逃していたことなどから、昇進は時期尚早だったのではという見方が今なお根強い。昇進後に優勝できていないこともその一因となっているが、そろそろ自らの実力を証明しないと、今後ますます風当たりが強くなっていくことは想像に難くないだろう。
■得意の九州場所で逆襲なるか
横綱としての今後を左右するターニングポイントともいえる九州場所だが、豊昇龍は同場所では昨年まで3年連続で2ケタ勝利をクリアしている。これは全6場所の中では唯一の記録となっており、横綱初優勝へ向けた心強いデータといえるだろう。
また、今場所は10月にロンドン公演が行われた影響で秋巡業がなかったため、参加力士の多くがコンディション調整に苦慮しているとされている。豊昇龍も帰国からしばらくは時差ぼけが残っていたというが、ここを踏ん張ってきっちり状態を仕上げられれば、その分他力士を出し抜いて賜杯を手にする可能性も高くなるだろう。
前出のロンドン公演では千秋楽となった5日目に、大の里との全勝対決を制して優勝を果たしている豊昇龍。得意の九州場所で、真の横綱初優勝を掴むことはできるだろうか。
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