モータースポーツにおける日本人といえば、F1世界選手権に参戦している角田裕毅を思い浮かべる人がほとんどだろう。F1のテレビ放映がスタートした1987年以降、日本ではF1ブームを迎え、そして現在では文化として定着していると言っても過言ではない。年に一度の日本GPの盛り上がりを見ればそれは明らかだ。そこに才能があり個性豊かな日本人ドライバーの活躍があるのだから、日本のF1熱は当然と言える。
しかし、モータースポーツの世界でこれまで類を見ない活躍を見せている日本人がいる。それがAMAスーパーモトクロス250選手権でシリーズチャンピオンに輝くという歴史的な偉業を成し遂げた下田丈だ。
日本人初の快挙を更新し続ける23歳

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AMA(American Motorcyclist Association、アメリカン・モーターサイクリスト・アソシエーション)は、アメリカ合衆国におけるモーターサイクルの統括団体であり、モータースポーツイベントの認定やライディングの普及活動に尽力。特にモトクロスやロードレースといったプロフェッショナルな競技シリーズを主催・公認していることで世界的に知られている。
下田がタイトルを獲得したAMAスーパーモトクロス(SMX)選手権は、AMAが公認する最高峰のダートバイクレースシリーズである。これは、アリーナやスタジアムで行われる華やかなAMAスーパークロスと、自然の地形を利用した過酷なアウトドアレースであるAMAモトクロスの二大シリーズを統合し、年間チャンピオンを決める総合選手権だ。
アメリカの国内選手権と侮るなかれ。AMAプロ・モトクロス選手権は世界最高峰のレベルとされ、モトクロス世界選手権をも凌ぐレベルの高さと言われている。このハイレベルな選手権には世界中からトップライダーが集結。このAMAシリーズでのタイトル獲得は、モータースポーツ界における最も権威ある栄誉の一つと見なされている。
これまで優勝を飾った日本人ライダーがいなかった同シリーズにおいて、次々に記録を打ち破ったのが下田だった。2002年生まれの彼は、幼少期からモトクロスに情熱を注ぎ、2013年には全米アマチュアモトクロス選手権の65ccクラスで3位に入るなど、若くしてその才能の片鱗を見せていた。
彼のキャリアの転機となったのは、2016年に全米アマチュアモトクロス選手権(ロレッタリン)のスーパーミニ2でチャンピオンを獲得したこと。これを足がかりに、アメリカのプロアマチュアプログラムを順調にステップアップし、2019年にAMAプロモトクロスでプロデビューを果たした。
2021年、AMAスーパークロス第16戦ソルトレイクシティで日本人として初となるAMAスーパークロス優勝を達成。この勝利は、下田がアメリカのトップレベルで通用することを証明する決定的な瞬間であった。
さらに2022年には、AMAモトクロスで日本人初となるヒート優勝およびイベント総合優勝を果たすなど、着実に実績を積み重ねてきた。これらの日本人初の偉業は、すべて今回のスーパーモトクロス250選手権タイトル獲得という、最も大きな成果への布石となった。
日本人ライダーがAMAのプロカテゴリーで獲得した初の総合タイトルであり、その功績は計り知れない。
世界のトップライダーとしての地位

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アメリカンホンダは2025年11月12日、下田が所属するHonda HRC Progressiveとの契約を更新し、2026年シーズンもCRF250RWEを駆って戦い続けることを公式に発表した。
タイトルを獲得した現在、下田丈は世界のモトクロス界において、名実ともにトップライダーの一人として認められている。その証拠に、今回のHonda HRC Progressiveとの契約更新は、彼の現在の市場価値と、チームが彼に寄せる信頼の高さを物語っている。
下田の魅力は、その技術力の高さと、常に冷静なレース展開にある。モトクロスの本場であるアメリカで人種や文化の壁を乗り越え、結果で自らの実力を示し続けてきた。下田のライディングスタイルは、派手さよりも確実性を重視し、特にレース後半での粘り強さは他の追随を許さない。この総合力の高さこそが、AMAスーパーモトクロスというタフなシリーズ戦を制する鍵となった。
今回のHonda HRC Progressiveとの契約更新により、下田の2026年シーズンにおける明確な目標が定まった。それは、スーパーモトクロス250選手権のタイトル防衛である。彼はすでにAMAの頂点を経験したことで、更なる自信とモチベーションを持って次のシーズンに臨むことになる
2026年シーズンも、彼は引き続き250クラスのCRF250RWEで戦うことが決定している。しかし、その先の未来には、より排気量の大きい450クラスへのステップアップが視野に入ってくることは間違いない。450クラスはモトクロス界の最高峰であり、AMAのトップスターたちが激突する舞台である。
下田は2025年、250クラスのチャンピオンとして、自身の名前をモトクロス史に刻み込んだ。2026年以降、彼が250クラスでの連覇を達成し、満を持して450クラスへ挑戦する日が来ることを日本のファンは期待している。
日本人初のAMAプロタイトル獲得という偉業は、彼のキャリアのゴールではなく、新たな伝説の始まりである。契約更新は、その伝説が2026年もHonda HRC Progressiveと共に続いていくことを宣言するものだ。下田丈の挑戦は、これからもモータースポーツファンに大きな感動と期待を与え続けるだろう。
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