モータースポーツの最高峰、FIA世界ラリー選手権(WRC)が2026年シーズンの幕を開ける。舞台は、カジノの街モナコと険峻なフレンチ・アルプスを繋ぐ伝統の一戦「ラリー・モンテカルロ」。1月22日から25日にかけて開催されるこの開幕戦は、単なる1/14のレースではない。覇権のゆくえを可視化する、シーズン最初の分水嶺でもある。
昨シーズン、14戦中12勝という圧倒的な勝率で5年連続のマニュファクチャラーズタイトルを射止めたTOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)にとって2026年は、WRC参戦10年目という記念すべきアニバーサリーイヤーとなる。

TOYOTA GAZOO Racing
10年目の王者が示す、継続と革新のバランス
トヨタが今季送り込むは、必勝を期した布陣。2022年に最年少王者となったカッレ・ロバンペラを欠く今季、マニュファクチャラー登録された3台に加え、若手やサテライトチームを含む合計5台の「GR YARIS Rally1」を投入する。
注目すべきは、今シーズンが「Rally1」という現行規定車の最終年であるという点。規定の完成期にある今、トヨタは「ホモロゲーション・ジョーカー(開発凍結の例外規定)」を戦略的に投入。新型リヤウイングによる空力の最適化、そしてサスペンションシステムの刷新により、ミリ単位の精度が求められる山岳路での「セットアップの幅」を広げてきた。
これは、成熟した製品に対してさらなる磨きをかけ、限界を押し広げるというトヨタの「もっといいクルマづくり」の哲学を象徴していると言えよう。
王者オジエ、地元での「11度目」の栄冠へ

TOYOTA GAZOO Racing
モンテカルロの主役は、WRC史上最多タイとなる9度のドライバーズタイトルを獲得したセバスチャン・オジエに違いない。ホームタウンであるフランス南部のギャップを拠点とする今大会、オジエは自身の持つ通算10勝という金字塔をさらに塗り替えようとしている。
オジエは「昨年の成果を祝い、感謝する時間を持つことができたのは良かったですが、今は誰もがゼロからスタートする新しいシーズンに集中しています。ここ数シーズンと同様、全てのラリーに参戦するわけではありませんが、それでも非常にタイトなスケジュールになるでしょう。さらなる進化のために常に努力を続ける、この素晴らしいチームと共に今年もベストを尽くします。毎年そうであるように、ラリー・モンテカルロでの開幕戦は私にとってエキサイティングなものです。私にとって最も重要なラリーであり、夢を叶えたラリーでもあります。10回目の優勝を果たすことができた昨年は、本当に誇らしく感じられる瞬間でした。今回も目標は同じですが、決して簡単には行かないでしょう」と気を引き締めた。
トヨタは今大会、オジエの9度目のタイトルを記念した特別仕様のGR YARISをモナコで公開する予定だ。そこには、豊田章男会長(モリゾウ)が自ら開発に携わった「GR YARIS MORIZO RR」も並ぶ。
世代交代とグローバル戦略、ソルベルグと勝田の挑戦
チーム代表のヤリ-マティ・ラトバラが「ワクワクしている」と期待を寄せるのが、新加入のオリバー・ソルベルグだ。前年のWRC2王者である若き才能は、初めてトヨタのトップカテゴリーマシンを駆り、伝統の一戦に挑む。
ソルベルクは「トヨタのRally1ドライバーとして新しいシーズンをスタートできるなんて、夢のような瞬間です。今年については、結果に関して明確な期待を抱いていません。自分の能力を最大限に発揮して戦い、どうなるか見ていきたいと思っています。グラベルでは既にクルマを良く理解できていると思いますが、ターマックではまだ学ぶべき点があると感じています。ターマックではRally2とRally1のクルマのスピードの違いをより強く感じますが、良いテストを重ねてきてきた結果、フィーリングはとても良好です。ラリー・モンテカルロは非常にトリッキーで、おそらく一年でもっとも難しいラリーですが、愛さずにはいられないイベントです。毎回が特別な体験なので、心から楽しみにしています」と豊富を語った。
父ペター・ソルベルクは2003年のWRC王者であり、04年に日本初開催となったラリー・ジャパンの初代優勝ドライバー。否が応でも周囲の期待は膨らむ。
また、日本人ドライバーとして着実な成長を見せる勝田貴元も、4台目のRally1としてエントリー。昨年のラリー・スウェーデンやラリー・フィンランドで2位表彰台に立った勝田にとって、モンテカルロでのベストリザルト(6位)更新は、真のトップドライバーへと飛躍するための試金石。そして今季こそWRCでポディウムの真ん中に立つ姿を期待したい。
勝田は「モンテカルロで新しいシーズンをスタートするのは、いつだって特別なことです。シーズンを通して最もトリッキーなコンディションの一つに直面するため、スタート前は複雑な気持ちになります。楽しみであると同時に、何が起こるか予測不能だからです。コンディションが急速に変化するため、最新の情報を提供してくれるルートノートクルーと良好なコミュニケーションを取ることが重要です。プレイベントテストでは路面に氷と雪がありましたが、融けつつあったため、濡れたターマックでのクルマとタイヤの挙動も確認することができ、着実な進歩を感じました。より多くの良い結果を出すことが今年の目標ですが、そのために全力を尽くす準備はできています」と兜の緒を締めた。

WRC
さらに、TGR-WRT2から参戦するサミ・パヤリ、そしてWRCチャレンジプログラムの下で Rally2マシンを操る山本雄紀など、トヨタの育成ピラミッドは厚みを増している。
伝統とエンターテインメントの融合
2026年大会のハイライトの一つは、2008年以来となる「モナコ市街地ステージ」の復活だ。F1モナコGPのグランプリコースの一部を使用したスーパーSS(SS13)は、世界中の富裕層が集うラグジュアリーな空間に、WRCの咆哮を響かせる。実はモナコGPの初回は1929年、モンテカルロ・ラリーは1911年開始で、歴史としてはラリーのほうが先輩格でもある。
また、ラリー・モンテカルロが「世界一過酷なターマック(舗装路)ラリー」と呼ばれる理由は、その路面の多様性にある。基本は舗装路だが、アルプスの影にはアイスバーンや積雪が潜む。
ドライバーは、ドライ用、ウェット用、スタッドレス、そしてスパイク付きスノータイヤという、相反する特性のタイヤを状況に応じて選択しなければならない。時として「乾いた路面でスパイクタイヤを履き、雪道でスリックタイヤを耐え凌ぐ」といった極限の判断が求められる。この複雑なパズルを解く力こそが、モンテカルロでの勝者を決める。
最終日には、伝説の「チュリニ峠」を通過するパワーステージが待ち受ける。合計17ステージ、総走行距離1553.22kmの戦いの果てに、誰がモナコ湾のフィニッシュポディウム中央に立つのか。2024年の王者ティエリー・ヌービル擁するヒョンデ、Mスポーツ・フォードがどのようなトヨタ包囲網を敷いて来るのかも、見どころだ。
トヨタの10年目の挑戦は、単なるモータースポーツの記録ではなく、変化の著しい自動車産業において情熱と技術が、いかに企業を牽引するか壮大なドキュメンタリーでもある。2026年シーズン、「GAZOO Racing」は、どんなドラマを見せるのだろうか。
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