小田凱人が語った“哲学”と「世界を変える」という野望 「誰の言うことも聞かずに自由にやれ」

松永裕司 Matz Matsunaga

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12月22日、TOYOTA ARENA TOKYOで開催されたDAZN Awards 2025において「DAZN Athlete of Style Award presented by ZOZOTOWN」を獲得したのは、車いすテニスの小田凱人。この賞は、プレーのみならず、ファッションやライフスタイルを通じて自分らしさを表現、あらゆる面で人々を魅了した方を表彰。

周囲が示し合わせたようにシックな黒の装いで決める中、19歳の世界王者はシックな「赤」を纏って壇上に現れた。「今日は黒のドレスコードと聞いていたんですが、気まずく赤で来ました」 とマイクを握り、ニヤリと笑う。しかし、その赤は、誰よりも小田に似合っていた。それは単なる反骨心ではない。彼の言葉を借りれば、それは明確な意思表示だ。

「1位であり続けながら、ファッショナブルな存在でありたい」

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DAZN

なぜ、小田はこれほどまでにスタイルにこだわるのか。その原点は、かつて憧れたサッカー選手たちにある。「憧れたサッカー選手たちは、みんな私服がかっこよかった。私服がかっこよくないと、スポーツ選手としてアイコンになれない」。勝利だけでは足りない。最強であることは大前提、その上でどう魅せるか。その哲学を隠さない。「でも、2位じゃ意味がない。1位であり続けながら、ファッショナブルな存在でありたい」と壇上でコメント。

その後の囲み取材で、今回のアワード受賞について問われた際も、小田は真っ先に「表現」という言葉を使った。「選んで頂けたのは個人的にはすごく嬉しい。自分を表現する上で、もちろん車いすテニスというスポーツで自分を表現するのもそうですし、服だったり、自分のライフスタイルだったりでも、自分を表現できる場はある」。コート上のプレーも、この日の赤のスーツも、彼にとっては等しく「小田凱人」という表現の一部なのだ。

「モチベーションは勝手に湧き出てくる」

小田は17歳1ヵ月の史上最年少でランキング1位に輝いた日本のエース。だが、国民栄誉賞を受け、車いすテニスの先駆者として知られる国枝慎吾さんが、生涯グランドスラムを達成したのは38歳の時。大会スケジュールの変更などはあれども、2025年の全米オープンを勝ち取り、すでに19歳3ヵ月に足らずして、小田は生涯グランドスラムを達成している。

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早すぎる偉業達成は、アスリートからハングリー精神を奪いかねない。「すべてを成し遂げた今、どうやってモチベーションを保つのか」、直球の問いに対し、小田は冷徹な持論を展開した。

「まず一つは、モチベーションは保つもんじゃなくて、勝手に出てくるものだと思う。モチベーションが単純に続かなければそれまでで、終わればいいと思う」。努力を保つ必要などない。湧き上がらなくなれば、それが終わり。「僕は満足したら終わるつもりですし、それが来年来たら辞めますし、それが50歳までまだやりたいと思えばやります」。小田のテニス人生に、惰性という文字はない。あるのは、内側から溢れ出る衝動なのだろう。「保つものでもないし、戦うものでもないし、出てくる分だけやるだけだとは思うんで。自分が満足いくとこまでやるだけ」と力強く語った。

「世界を変えるために力を注ぎたい」

「今のところ、モチベーションに困ったことはない」と言い切る。「1位とかランキングとかは関係なしに、やっぱもっといろんな……なんだろうな、世界を変えたいっていう思いもありますし、そういうとこに向けて力を注ぎたい」。小田を突き動かしているのは、記録への欲求ではなく、世界を変えるという渇望だ。

小田はこれに先立ち、受賞の壇上でも、その潔い引き際の美学について、詩的に表現している。「花は一回しか咲かない、そして枯れなければ、偽物。だからこそ、引退までずっと咲き続けたい」。19歳にして、彼は「花の命」の儚さを知っている。永遠に咲き続ける花などない。枯れるという自然の摂理を知っているからこそ、今この瞬間に咲き誇ることへの執着が生まれる。

「誰の言うことも聞かずに自由にやってろ」

かつて国枝さんの背中を追い、ラケットを握った少年時代の自分に、今ならどんな言葉をかけるか。その問いへの答えこそが、小田凱人という人間の本質を最も端的に表していた。

「そのまま、誰の言うことも聞かずに自由にやってろ!と言いたいですね」。

誰かのレールには乗らない。常識には縛られない。その確固たる自信が、今の小田を作りあげた。そして彼は、その視線を自分自身から、同世代の若者たちへと広げている。「若い世代でもっと盛り上がって、ギラついて、みんなで上へあがっていこう」。壇上で口にした「ギラついて」という言葉。それは、予定調和を嫌い、己の感性だけで世界と対峙してきた男の実感そのものだろう。

黒一色の会場で、あえてシックな赤を纏った小田は「誰の言うことも聞かず」突き進んできたその道は、いつか必ず枯れると知っているからこそ、今、誰よりも鮮やかに咲き誇っている。

車いすテニスの枠を超えた、小田の今後には、勝手に期待を寄せるばかりだ。

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Yoshiteru Nagahama

News Correspondent