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【詳細解説】FIFAクラブワールドカップ2025で導入されるサッカーの新たなテクノロジーとルール

Kyle Bonn

石山修二 Shuji Ishiyama

【詳細解説】FIFAクラブワールドカップ2025で導入されるサッカーの新たなテクノロジーとルール image

新テクノロジーとルールはFIFAクラブワールドカップ2025で最初に導入

サッカーには1世紀以上の歴史があるが、このゲームはその間も年月を経て進化し続けている。その進化の中にはピッチ上のプレーだけでなく、スタジアムや自宅での観戦体験を向上させるための変革が模索されている。

国際サッカー評議会(IFAB)は、サッカーのルールを定める"Laws of the Game"(サッカーの競技規則)を発行する機関だ。このルールは、試合の開始から終了までサッカーがどのように審判されるかを規定している。IFABは毎年、世界中のリーグで採用される新ルールを発表し、サッカーをグローバルで現代的なスポーツとして維持している。

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2025-2026シーズン版のルールは、日本時間6月16日(日)開幕のFIFAクラブワールドカップ2025で最初に導入され、最新バージョンのルールをテストする場となる。

FIFA(国際サッカー連盟)の審判部門責任者であるピエルルイジ・コリーナ氏はメディア関係者との会合で、クラブワールドカップで初導入される新技術の概要とその変更がどのように実施されるかについて説明した。

FIFAは審判のジャッジの正確性を高めるとともに、遠隔地で試合を観戦するファンの視聴体験を向上させるため、新たな技術的革新を導入する。

ここでは、新たな映像角度、オフサイド技術のアップデート、試合の審判に関するさまざまなルール変更など、クラブワールドカップで初導入される変更点を解説していく。

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レフェリーのボディカメラの着用

クラブワールドカップのレフェリーは、試合を通じてボディカメラを着用し、試合のの流れ、プレーのインサイトを新しい形で知ることができるようになる。

小型カメラはレフェリーの通信用イヤピースにつながれ、その映像はテレビ放送と審判団に共有される。

この技術はクラブワールドカップで使用される6つのNFLのスタジアムではリプレイ、即時の活用が可能となる。ただ、ネットワーク的に動画の即時送信と確認に対応できない他のスタジアムでは録画され、後ほど利用される形となる。

この技術の導入は主にエンターテインメント目的で、ファンがより臨場感を持って試合を楽しめるようにするものだが、FIFAは審判のボディカメラの映像が利用可能な場合、VARの判断プロセスに採用することができるとしている。ピエルルイジ・コリーナ氏もカンファレンスでそのことを認めている。ただし、コリーナ氏はこの用途での使用が頻繁になることはなく、そもそも使用されることもないかもしれないとしている。

「視聴者が見ることのできるすべての映像は、ビデオマッチオフィシャルにも利用可能でなければなりません。そうでなければシステムは機能しません」とコリーナ氏は語っている。

「公開されるすべてのものは、VARにも利用可能でなければなならないというのは原則的にはそうですが、実際には審判の目のすぐ横に設置されたカメラが審判の目で捉えられないものを捉えられると思いますか? 正直なところ、それは難しいと思います。ですので、答えはイエス、そしてノーです」

FIFAはこの技術がクラブワールドカップで試験的な形式で導入されることを明確にしており、現時点では他の今後の大会で大規模に導入されないとしている。

高度な半自動オフサイド判定システム

半自動オフサイドテクノロジー(SAOT)はこれまでにも長年存在してきたが、新技術や機能開発により継続的に進化を遂げてプロセスを効率化し、判断の精度を向上させてきた。

数年前にはAIを活用したSAOTの新バージョンを採用し、オフサイドラインの必要性をなくし、レフェリーに迅速かつ正確な判断を提供するとともにその判断をテレビ放送にも容易に伝達可能なものとしている。

今回のクラブワールドカップでは、審判がイヤピースを通じてリアルタイムの判断を受け取ることができるようになった。これにより、アシスタントレフェリーはオフサイドの判定をほぼリアルタイムに知ることができるようになり、テクノロジーの判断に応じて旗を上げるか下げるかを決定できる。

現在、アシスタントレフェリーは審判の判定がテクノロジーによって覆される場合にも対応できるよう、プレーが終了するまでオフサイドの判定を遅らせるよう指示されている(オフサイドディレイ)。

今回の改善により、アシスタントレフェリーはテクノロジーを活用した判定を踏まえて即座にオフサイド判定を下すことが可能となり、不要な怪我のリスクを避けることができるようになる。これによって、プレミアリーグのシーズン終盤にノッティンガム・フォレストのストライカー、タイウォ・アウォニイがオフサイド判定を受けたプレーでゴールポストに激突して重傷を負ったような事象は避けることができるようになる。

ただし、この機能はすべての状況で利用可能ではなく、FIFAは極めて微妙な判断の場合、審判に最終的な判定を提示せず、レビューを継続することとしている。アシスタントレフェリーがシステムから「判定が微妙だ」と通知されるのか、また判定を与えられないのかは明示されていない。

VARのオフサイドレビュー映像は、判定を下す間にスタジアム内のファンにライブで提供され、テレビでも放送される。これまでは、判定が確定するまでの間は映像は公開されていなかった。

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クラブワールドカップで導入されるその他の新技術

大きな変更点は以上の二つとなるが、今回のクラブワールドカップで初めてサッカー界に導入される新技術はこれだけではない。

試合中の選手交代を効率化するため、各チームにはタブレットが配布され、これを使って選手交代を入力することになる。

これによりミスの確率を低減するとともに、試合中に多忙な役割を担う第4審判とのコミュニケーションプロセスの迅速化が期待されている。

クラブワールドカップにおけるその他のルール変更

今回のクラブワールドカップで、いくつかのルール変更も導入される。

これらのルール変更は、特定の反則に対する過酷な処分の軽減、時間稼ぎの減少など、複数の目的を兼ねている。

ゴールキーパーの8秒ルール

最も大きなルール変更と言えるのは、ゴールキーパーがボールを手に保持できる時間だ。今回のルール変更では、ゴールキーパーがボールを保持できる時間が6秒から8秒に延長され、罰則も変更された。以前は違反した場合、間接フリーキックが与えられていたが、今回から相手チームにコーナーキックが与えられることになった。

この変更の目的はゴールキーパーを罰することではなく、レフェリーが明らかな時間稼ぎに対してペナルティを出しやすくすることにある。違反の罰則が緩和されたことで、審判は攻撃側に有利な判定をしていると感じることなく、ペナルティを宣告しやすくなる。

このルール変更はすでに南米最大のクラブ大会であるコパ・リベルタドーレスとコパ・スダメリカーナで適用されている。この二つの大会では160試合以上が行われた中、このペナルティが認められたのはわずか2件だけだった。

ピエルルイジ・コリーナ氏は「ゴールキーパーが過酷なセーブから回復するために時間が必要な場合には審判は柔軟に対応する」と語った。しかし、そう認められない場合には「ボールの上に倒れる必要はない」とされ、適切なタイミングでカウントが開始される。

ペナルティキックでの『ダブルタッチ』

UEFAチャンピオンズリーグのノックアウトステージでジュリアン・アルバレスが起こした事象に直接対応する形で、IFABはペナルティキッカーがシュート時にボールを誤って2度触れた場合の罰則を軽減する新ルールを導入した。

アルバレスは踏み込んだ足が滑ったことでボールに「2度触れた」と判定され、違法なペナルティキックと判定された。従来のルールではこの行為はペナルティキックの失敗と判定されるため、アトレティコ・マドリードはレアル・マドリードとのPK戦に敗北し、大会から敗退する結果となった。

ルールの本来の目的は、ペナルティキックの精神に反するフェイントやトリックを排除することであり、選手が偶発的に2度触れるという極めて稀な可能性を考慮していなかった。現在ではビデオリプレイやボールに搭載された接触センサーといったテクノロジーの導入により、微妙な接触でも検出可能となったため、アルバレスのような事象が発生することとなった。

新ルールでは、審判団がペナルティキック時に発生した『ダブルタッチ』が偶然によるものと判断した場合、蹴り直しとなる。一方、故意によるものと判断された場合、ペナルティキックは失敗となる。

タッチライン上での妨害

今回のルール変更では、タッチライン上で意図せずプレーエリアに干渉した個人に対する罰則も若干緩和された。

例として挙げられたのは、アーセナルのミケル・アルテタ監督がインテル・ミラノとのチャンピオンズリーグの試合中、まだプレーエリアから出ていないボールに触れた事象だった。IFABの審査結果では、単にボールがプレーエリアから出る前にアルテタ監督がタッチラインを割ると判断したのであって、妨害の意図はなかったと判断され、不注意なミスだったとされた。

実際の試合ではアルテタ監督はイエローカードを受けたが、これはルール上は誤った適用だった。これまでの規則では、タッチライン上の個人が意図的にプレーの進行を妨げることを防ぐため、この違反は直接レッドカードの対象となっていた。しかし、『ダブルタッチ』のペナルティ同様、偶然の違反に対する例外規定はなかった。

今回のルール変更で、偶然または試合を妨げる意図がないと判断された場合、審判はフリーキックのみを付与し、その他の処分は行わないことになった。一方、意図が試合を止めるための故意の行為(例えば、カウンター攻撃を阻止するためにフィールドに走り込むなど)と判断された場合には、レッドカードが提示される可能性がある。

レフェリーへの抗議は『キャプテンのみ』

FIFAは試合中の重要な事象においては『キャプテンのみ』がレフェリーと会話できるという明確な指針を示している。これは、選手たちがレフェリーを囲む行為を防止するためのルールの明確化になる。

レフェリーを囲む行為や判定に対する過度な抗議に対しては厳正な処分が科せられ、イエローカードが提示されることになる。

ただし、試合中における『通常のやり取り』に関しては、選手とレフェリーの間での会話は依然として認められている。IFABは、このコミュニケーションは通常かつ重要なものとして位置付けている。

結局、このルール変更はそれほどのインパクトはないと考えられる。審判はすでに反則に対してイエローカードを比較的頻繁に提示しており、試合を変えるような重要な判定後に審判を取り囲んだ半数の選手にイエローカードを提示する状況は想像しにくいからだ。そのような措置はより緊張感を高め、ピッチ上の混乱を招くことにしかならない。

原文:Referee body cams and 'advanced' semi-automated offsides: The new FIFA 'innovations' in play at the Club World Cup
翻訳・編集:石山修二(スポーティングニュース日本版編集部)


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Kyle Bonn

Kyle Bonn is a Syracuse University broadcast journalism graduate with over a decade of experience covering soccer globally. Kyle specializes in soccer tactics and betting, with a degree in data analytics. Kyle also does TV broadcasts for Wake Forest soccer, and has had previous stops with NBC Soccer and IMG College. When not covering the game, he has long enjoyed loyalty to the New York Giants, Yankees, and Fulham. Kyle enjoys playing racquetball and video games when not watching or covering sports.

石山修二 Shuji Ishiyama

スポーティングニュース日本版アシスタントエディター。生まれも育ちも東京。幼い頃、王貞治に魅せられたのがスポーツに興味を持ったきっかけ。大学在学時に交換留学でアメリカ生活を経験し、すっかりフットボールファンに。大学卒業後、アメリカンフットボール専門誌で企画立案・取材・執筆・撮影・編集・広告営業まで多方面に携わり、最終的には副編集長を務めた。98年長野五輪でボランティア参加。以降は、PR会社勤務・フリーランスとして外資系企業を中心に企業や団体のPR活動をサポートする一方で、現職を含めたライティングも継続中。学生時代の運動経験は弓道。現在は趣味のランニングで1シーズンに数度フルマラソンに出場し、サブ4達成。