マンチェスター・ユナイテッドが若手育成を重視する姿勢は、伝統あるクラブの成功を支える礎となってきた。
レッド・デビルズは第二次世界大戦前から、常にユースアカデミー出身者を男子トップチームに含めてきたという長年の伝統を持つ。
ボビー・チャールトンからデイビッド・ベッカム、ジョージ・ベストからライアン・ギグス、ジャック・シルコックからマーカス・ラッシュフォード、そしてポール・スコールズからコビー・メイヌーに至るまで、ユナイテッドでは250人を超える選手がアカデミー出身としてトップチームでプレーしてきた。
しかし、この誇るべき記録が、2025-2026シーズンにルベン・アモリム監督のもとで脅かされる可能性が出ている。アモリム監督は、クラブを再び世界有数の強豪に戻そうとしているが、その過程で伝統が揺らぐかもしれない。
マンチェスター・ユナイテッドのアカデミー選手に関する記録とは?
ユナイテッドは、1937年10月30日以来、全ての試合でアカデミー出身選手を試合当日のトップチームの登録メンバーに含めてきたという誇るべき記録を持っている。
その日、トム・マンリーがユナイテッドで161試合目の出場を果たし、ジャック・ワッサルも15試合目をプレーした。それ以来、ユナイテッドは実に4000試合以上にわたって、アカデミー出身者をメンバーに入れ続けてきた。
2025年11月8日のトッテナム戦時点で、この記録は公式戦4333試合に達している。
この驚異的な88年に及ぶ記録を発見したのは、ユナイテッドのファンであり歴史家のトニー・パーク氏だ。彼は2013年に出版した著書『Sons of United』の調査過程でこの事実を突き止めた。
パーク氏は、2025年8月の『The Athletic』の取材で、「この記録はしばらく続くだろうとは思うが、クラブやオーナーであるグレイザー家がどれほど重要視しているかには疑問がある」と述べている。
彼は、さらに「今の経営陣の多くは、この記録の持つ意味をいくつもの面で理解していないようだ」と付け加えた。
これまでに何人のアカデミー出身者がトップチームでプレーしたのか?
これまでに合計254人の男子選手がユナイテッドのアカデミーを経てトップチームの公式戦に出場している。
最も最近の例は、タイラー・フレドリクソンで、彼は2025年4月、オールド・トラフォードで行われたプレミアリーグのウォルバーハンプトン戦(0-1で敗戦)でトップデビューを飾った。
An impressive first-team debut for Tyler Fredricson 💪#MUFC || #PL
— Manchester United (@ManUtd) April 21, 2025
ルベン・アモリム監督は記録を途切れさせてしまうのか?
アモリム監督は以前から、このアカデミーの伝統を守りたいという意向を明言してきた。
2025年9月、ユース出身のメイヌーがローン移籍を希望して却下された直後、アモリム監督は次のように語っている。
「この伝統を維持したい。ユナイテッドの歴史は、若者によって築かれてきた。自分がその伝統を壊す人物にはなりたくない。」
しかし現実には、この記録は少なくともプレミアリーグ時代において、これまでになく危機にさらされている。
近年、アカデミー出身でレギュラーとして定着している選手は、大幅に減っている。アモリム監督は、マーカス・ラッシュフォードを構想外とし、今夏バルセロナにレンタル移籍をした。アレハンドロ・ガルナチョもチェルシーへ売却され、ベテランのジョニー・エヴァンスは引退した。

1年前には、スコット・マクトミネイがナポリへ、重大な刑事告発が取り下げられたメイソン・グリーンウッドはマルセイユへ移籍。さらにアルバロ・カレラス、オマリ・フォーソン、ブランドン・ウィリアムズも退団している。
現在、トビー・コリアーとハリー・アマスはローン中で、トップチームで定期的に出場しているアカデミー出身者はメイヌーのみとなっている。ただし、彼自身も思うように出場機会を得られていない。
11月8日のトッテナム戦の前にメイヌーが軽傷を負った際には、この長い記録が途絶えるのではないかと懸念された。しかしジャック・フレッチャーが帯同したことにより、記録は辛うじて維持された。
とはいえ、アモリム監督とスポーツ運営を担うINEOSは、ユナイテッドを再び世界屈指のクラブに戻すことを最優先としており、アカデミーの伝統維持は彼らにとって優先事項ではないだろう。
株主のジム・ラトクリフ氏は最近、プレミアリーグの「利益と持続可能性」時代において、アカデミーの経済的価値を強調した。アカデミー出身選手は「純利益」で売却でき、財務規制を守るうえで重要だという。この発言は、今後若手がトップチームの人数合わせではなく、利益確保のために売却される可能性が高いことを示唆している。
ユナイテッドのアカデミー記録はなぜ重要なのか?
実際、このアカデミーの伝統は、プレミアリーグの規定遵守にも貢献している。
リーグ規定では、各クラブが登録する25人の選手のうち、少なくとも8人は「ホームグロウン・プレーヤー」でなければならないと定められている。
ただし「ホームグロウン」という言葉は少し誤解を招く。というのも、特定のクラブのアカデミー出身でなくても条件を満たすことができるからだ。プレミアリーグ規則ではこう定義されている。
「『ホームグロウン・プレーヤー』とは、国籍や年齢に関係なく、21歳の誕生日(またはそのシーズン終了時)までに、イングランドまたはウェールズの協会に所属するいずれかのクラブに通算3シーズン、または36か月登録されていた選手を指す」
また、21歳未満の選手はリーグ登録の25人枠に含まれなくても試合に出場できる。
したがって、ユナイテッドのアカデミー記録は実際の規定よりも「伝統」としての意味が大きい。ファンは、地元出身の選手とスター選手の融合によるチーム作りこそがユナイテッドの真髄だと考えている。1950〜60年代の「バスビー・ベイブス」から、1990年代のアレックス・ファーガソン氏が率いる三冠チームまで、その哲学が成功の礎となってきた。

困難な時代においても、ユナイテッドが若手を信頼し続ける姿勢は実を結んできた。2024年のFAカップ決勝では、メイヌーとガルナチョがゴールを挙げ、マンチェスター・シティに2-1で勝利し、優勝を果たした。
しかし、トップチームの主力としてアカデミー出身者が占める割合は、確実に減少している。
元アカデミーディレクターのニック・コックス氏は『The Athletic』にこう語っている。
「これは宣伝目的のギミックでも、PR戦略でもない。我々のやり方の副産物なんだ。クラブは若手育成の伝統を非常に誇りに思っている。ファンもまた、若く地元出身の選手がトップチームでプレーすることを期待している。それはクラブの歴史の一部であり、最も苦しい時期にも変わらない。」
原文:Man Utd academy players in first team record: Could Ruben Amorim break Red Devils' proud tradition?
翻訳:小鷹理人(スポーティングニュース日本版)
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