FIFAワールドカップ2026は、アメリカがこれまでに開催したスポーツイベントの中でも最大級になることが予想されている。
世界中のサッカーファンが北米に集結し、世界で最も有名なサッカーの祭典が6月11日から7月19日まで開催される。
アメリカのドナルド・トランプ大統領は、FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長と親しい関係を築いている。2025年にアメリカで開催されたクラブワールドカップの際も密接に協力する姿が見られていた。
しかし、トランプが一部の地域に政治的圧力をかけるための道具として「ワールドカップの試合会場の移動」をほのめかした。しかし、これは影響力を持たない可能性が高い。
ここでは、トランプ大統領に試合の会場を移す権限があるのか、そして過去にそのような前例があったのかを解説する。
トランプ大統領はワールドカップの試合について何を言ったのか?
9月下旬、ワールドカップの抽選会を前にした演説で、トランプ大統領は、訪問者にとって「安全ではない」と判断した都市を2026年大会の開催地から移すことを検討していると発言した。
「もし安全でないと思えば、その都市から試合会場を移すつもりだ」とトランプ大統領は述べ、さらにイリノイ州の犯罪率について州知事を批判する形で言及した。
「ワールドカップや(2028年ロサンゼルス開催の)オリンピックにとって少しでも危険だと感じる都市があれば、我々はそれを許さない。多くの都市で試合が行われるのだから、少し調整するだけだ。そうならないことを願っている。」
トランプ大統領が「犯罪」を理由に「ブルー(民主党系)都市」からワールドカップの開催地を移すと脅す様子の映像も拡散された。
Trump threatens to move World Cup games out of blue cities due to "crime" pic.twitter.com/zXKyjL2Jx0
— Aaron Rupar (@atrupar) September 25, 2025
さらに10月中旬、トランプ大統領はボストンについても同様の発言をした。
「取り上げることもできる」と彼は、ボストンのミシェル・ウー市長とワールドカップの安全対策で協力するつもりがあるかを尋ねられた際に答えた。
「ボストンの人々は大好きだ。試合のチケットが完売しているのも知っている。だが、市長は良くない。彼女より悪い人もいるが、少なくとも彼女は賢い。中には非常に低いIQの人もいる。そういう人の方が私を苛立たせる。彼女は賢いが、極左だ」
FIFAは会場変更について何と言ったのか?
トランプ大統領の「開催都市を移す可能性」発言の直後、FIFAは声明を出し、アメリカ政府が一方的に試合を別の都市へ移動させることはできないと明言した。
「これはFIFAの大会であり、FIFAの管轄下にある。決定を下すのはFIFAだ」と、FIFAのヴィクター・モンタリアーニ副会長は数日後、ロンドンで行われたスポーツビジネス会議で記者に語った。
モンタリアーニ副会長は北中米カリブ海サッカー連盟(CONCACAF)の会長でもあり、3つの開催国すべてが同連盟の加盟国であることから、大会の運営体制に深く関与している人物だ。
「現職の世界の指導者たちに最大限の敬意を払うが、サッカーは彼らよりも大きな存在であり、彼らの政権やスローガンを超えて存続していく」と彼は壇上で語った。「サッカーの美しさとは、それがどんな個人や国家よりも大きな存在であるということだ」
Kicking off The Summit at #LeadersWeekLondon:@FIFAcom Vice President Victor Montagliani on stage, tackling questions around the 2026 World Cup in the US. pic.twitter.com/B8FKID788p
— Leaders Business (@LeadersBiz) October 1, 2025
ESPNによると、開催都市およびスタジアムはすでにFIFAと契約を結んでおり、試合を他の場所に移すことは極めて複雑で法的にも困難な作業になるという。
米政府はワールドカップ2026に関して権限を持つのか?
モンタリアーニ副会長が述べたように、ワールドカップはFIFAの大会であり、試合会場やスケジュール変更に関する権限はFIFAにある。
すでにFIFAと開催都市との間で法的拘束力を持つ契約が結ばれているため、トランプ政権が一方的に変更を強行することは極めて困難で現実的ではない。
ワールドカップの開催契約について
FIFAワールドカップの開催契約は、すべての関係者によって正式に批准された時点で法的拘束力を持つ。
開催を希望する国(または複数国)は、まずFIFAに公式な招致申請書を提出する。その後、FIFAは申請内容を精査し、申請国と直接協議を行う。FIFAは入札の実現可能性について正式な評価報告を発表する。
FIFAの開催要件を満たした場合、その入札は正式に審査対象となり、最終的にどの国が開催するかはFIFA総会で決定される。
(FIFAの開催プロセスに関する詳細はFIFA公式サイトで確認できる。)
ワールドカップ2026の開催都市
2026年大会の招致段階では、全16都市が開催地として選ばれており、そのうち12都市がアメリカである。
アメリカの開催都市
- メットライフスタジアム(ニュージャージー州イーストラザフォード)
- AT&Tスタジアム(テキサス州アーリントン)
- NRGスタジアム(テキサス州ヒューストン)
- メルセデス・ベンツ・スタジアム(ジョージア州アトランタ)
- SoFiスタジアム(カリフォルニア州イングルウッド)
- ルーメン・フィールド(ワシントン州シアトル)
- リーバイス・スタジアム(カリフォルニア州サンタクララ)
- リンカーン・フィナンシャル・フィールド(ペンシルベニア州フィラデルフィア)
- ハードロック・スタジアム(フロリダ州マイアミ)
- ジレット・スタジアム(マサチューセッツ州フォックスボロ)
カナダ・メキシコの開催都市
- エスタディオ・アステカ(メキシコシティ、メキシコ)
- エスタディオBBVA(グアダルーペ、メキシコ)
- BCプレイス(バンクーバー、カナダ)
- BMOフィールド(トロント、カナダ)
FIFAが過去に開催地を変更したことはあるのか?
ワールドカップ開催中に試合が移動した例はあるが、主に運営上の理由によるものだ。
1962年のチリ大会では、史上最大の地震「バルディビア地震」(1960年)の影響で、予定されていたスケジュールが全面的に見直された。いくつかのスタジアムが深刻な被害を受け、開催地から外し、最終的に4会場のみで大会が行われた。
1966年のイングランド大会では、ウルグアイvsフランスのグループリーグ戦が、ウェンブリー・スタジアムからホワイトシティ・スタジアム(1908年ロンドン五輪のために建設されたが現在は取り壊されている)に移された。理由は、ウェンブリーの所有者が同日に予定されていたグレイハウンドレースを中止することを拒否したためだった。
1990年のイタリア大会では、イングランド代表がグループステージの会場を特定の場所にするよう求めるという異例の要請を行った。これは特別待遇ではなく、フーリガン問題を懸念してのものだった。イタリア本土での暴動を避けるため、彼らの試合はサルデーニャ島で行われた。
このように、過去にも特定の事情で会場変更が行われた例はあるものの、政治的意図によって開催地を移すことはFIFAの歴史上存在しない。
原文:Can Donald Trump move World Cup games? What FIFA rules say about U.S. president relocating 2026 matches
翻訳:小鷹理人(スポーティングニュース日本版)
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