バロンドール2025が過去20年で最も注目される理由とは?

Kyle Bonn

小鷹理人 Masato Odaka

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バロンドールは、世界サッカーにおける個人としての最高の栄誉とされ、前シーズン全体を通じて最も優れた選手を称える賞である。

この授賞式では、毎年のようにスターが生まれ、伝説が刻まれる。2025年も例外ではない。

実際、9月22日にパリで行われる授賞式を前に、近年にはない高揚感が広がっている。これまでのように、候補者が少数に偏ることはなく、今年は多くの人が「この選手こそふさわしい」と思える実力者たちが並んでいる。

予想が極めて困難な今回のバロンドール争いにおいて、わずかに他の候補を上回る選手が一人いるとスポーティングニュースは考えている。

なぜバロンドール2025は過去20年で最も注目されているのか?

誰がトロフィーを手にするかという応援の立場に関わらず、今回のようなバロンドール争いはここ20年で見られなかった。

2008年以降、個人賞の頂点は基本的に2人のスーパースターによって支配されてきた。本来であれば「偉大な選手とは何か」を問うべき場が、いつしか同じ2人を比較し続けるだけの儀式のようになっていた。

メッシとクリスティアーノ・ロナウドが話題の中心でなかった数年間でさえ、最終的な受賞は予想通りの結末か、せいぜい2~3人の間の争いにすぎなかった。昨年のロドリの受賞は一部では驚きをもって迎えられたが、実際のところ唯一の対抗馬はヴィニシウス・ジュニオールだった。2018年にはモドリッチが圧勝し、2007年にはカカが2位のロナウドに倍近いポイント差をつけていた。

これほど多くの実力者が揃った年は、2006年以来と言っていいだろう。当時は、カンナバーロがディフェンスとして最後にバロンドールを受賞した年であり、ブッフォン、アンリ、ロナウジーニョ、ジダン、エトーといった名手たちを抑えての栄冠だった。

2025年は、少なくとも6人の選手が正当な候補者とみなされている。パリ・サンジェルマンのデンベレとヴィティーニャ、バルセロナのラフィーニャとラミン・ヤマル、リヴァプールのサラー、そしてレアル・マドリードのエムバペだ。

こうした混戦になれば当然、欠点の比較や、どの舞台での活躍を重視するかといった評価軸の見直しが必要になる。これは、ファンも投票者も長らく経験してこなかったプロセスだ。6人のいずれも、「フランス・フットボール」が示す選考基準3項目をすべて満たす“完璧な選手像”には当てはまらない。それぞれが、ストーリー性・個人・チームの実績など、異なる形での「偉大さ」を持っている。

だからこそ、最終的に誰が受賞するのかは、この賞において何が最も重要視され、何が妥協できるのかを如実に物語ることになる。

世界最高のチームにおけるベストプレーヤーこそ選ばれるのか。それとも、CLとクラブW杯の決勝で無得点に終わったデンベレがその点で評価を落とすのか。チャンピオンズリーグで結果を残せなかったサラーとエムバペの華々しいスタッツは、どこまで評価されるのか。バルセロナで主役になりきれなかったラフィーニャは不利なのか。数字的には平凡なヤマルだが、彼の魅力あるプレースタイルが優先される可能性はあるのか。あるいは、フランスリーグの競争力の低さは決定的な減点要素になるのか。

こうした疑問の多くは、バロンドールの候補者30名が最終的に3人、そして1人へと絞られていく中で明らかになるだろう。

ここまで多くの問いが生まれ、それに対する明確な答えがなかなか見つからない状況は、近年では極めて珍しい。

ラフィーニャがバロンドール2025を受賞すべき理由とは?

今年のバロンドール候補リストには、数多くの疑問と優先事項が並んでおり、すべての投票者がそれぞれ独自の判断基準を持って臨むことになる。

最終的には、完璧な選択は存在しない。どの有力候補にも何らかの欠点があり、投票者はそれぞれの成功と同様に、失敗や不足点も天秤にかけなければならない。

その観点から見ると、2025年のバロンドールに最もふさわしい「欠点の少ない履歴書」を持つのは、ラフィーニャである。

まず、このような名誉ある賞にふさわしい選手であることを示すために、2024-2025シーズンにおけるラフィーニャの功績を整理しておきたい。28歳の彼は、バルセロナで国内三冠を達成した。ラ・リーガ、コパ・デル・レイ、スーペルコパ・デ・エスパーニャの三大会でタイトルを獲得し、チャンピオンズリーグでは決勝進出まであと一歩というところまで進んだ。インテル戦でのハイリスクなスタイルが裏目に出たものの、準決勝進出という実績は、他の候補者たちと比べても見劣りしない。

その中で、ラフィーニャはアタッキングサードにおいて圧巻のパフォーマンスを見せた。ラ・リーガという世界で2番目に競争の激しいリーグにおいて、18ゴール9アシストを記録。ゴール関与数ではエムバペとレヴァンドフスキに次ぐ3位となった。アシストがあと1つあれば、ゴール・アシストともに二桁という記録を達成していたことになる。

だが、最も注目すべきは、多くの人が「最も重要」と考えるチャンピオンズリーグにおける活躍だ。ラフィーニャはこの舞台で13ゴール9アシストを記録し、クリスティアーノ・ロナウドが保持していた「1シーズンにおける最多ゴール関与記録」に並んだ。14試合中、得点かアシストのいずれも記録しなかったのはわずか3試合のみだった。

ハンジ・フリック監督の超攻撃的スタイルのもと、ラフィーニャは少ないリソースで最大限の成果を上げた選手だった。右サイドではラミン・ヤマルが多くの役割を担い、1試合平均タッチ数でラフィーニャを上回っていた(ヤマル65、ラフィーニャ58)。それでもラフィーニャは、欧州のほぼすべての選手を生産性で上回った。

FBRefによると、世界中の攻撃的MFおよびウイングの中で、ラフィーニャは以下の項目において91パーセンタイル以上を記録している。シュート(96位)、PKを除く期待ゴール(98位)、期待アシスト(99位)、シュート創出アクション(91位)、枠内シュートあたりの得点率(93位)、シュートアシスト(96位)であり、90分あたりの「npxG+xA(PKを除くゴール期待値+アシスト期待値)」は0.97で、これは99パーセンタイルという驚異的な数字だ。

さらに注目すべきは、この世界最高レベルの攻撃力を、タッチ数では全体の80パーセンタイル、攻撃サードで91パーセンタイル、ペナルティエリア内では78パーセンタイルという比較的少ないボール関与の中で成し遂げたという点である。

比較として、「npxG+xA」で1.12という驚異的な数値を記録し、世界一の数値を出したウスマン・デンベレは、1試合あたり平均66回以上のタッチを記録しており、これはフォワードとして世界最多であった。

なぜデンベレやその他の選手はバロンドールを受賞すべきではないのか?

こうした実績により、ラフィーニャは昨シーズンの中でも特別な存在となった。しかし、偉大な選手が揃う今回のバロンドールにおいて、最終的な決め手となるのは成功ではなく「弱点」である。したがって、ラフィーニャを受賞者と見なすためには、他の候補を除外していく必要がある。

言うまでもなく、これは世界的な名選手たちを相対的に語ることになるため、比較の中での評価であり、ここに名前が挙がるすべての選手が世界最高レベルであることに疑いの余地はない。

まずは最も除外しやすい2人から見ていく。モハメド・サラーとキリアン・エムバペは、国内リーグでは素晴らしいシーズンを過ごしたが、欧州を含めた「チームとしての成果」が欠けていた。

エムバペはラ・リーガの得点王に輝いたが、その存在がヴィニシウス・ジュニオールやロドリゴといったレアル・マドリードの他のスターたちに悪影響を及ぼしたように見え、最終的にクラブはUEFAスーパーカップ以外無冠に終わった。サラーはリバプールをプレミアリーグ制覇に導き、世界最高のリーグで最高の選手であったが、チャンピオンズリーグではPSGに早期敗退を喫し、存在感を示せなかった。このように、少数の失望に終わった試合が致命的な要素となるのがこの賞の性質である。よって、両者とも最終候補3人には残らない可能性が高い。

次に、非フォワード選手にありがちな難しさを抱えるのがヴィティーニャである。PSGの中盤を支えたエンジンとして、最終候補入りを推す声もあるだろう。しかし、それでも他の候補者たちと比べて際立った存在感があったとは言い難い。25歳の彼は、現在世界最高の6番/8番の選手であり、ポゼッションの達人ではあるが、2024年に受賞したロドリのような絶対的な存在ではなかった。ヴィティーニャは、ジョアン・ネヴェスとファビアン・ルイスという優れた同僚に支えられてこそのパフォーマンスであり、彼ら抜きで同じ水準を保てたかは疑問である。

ラミン・ヤマルも評価が難しいケースである。サラーやエムバペとは逆に、18歳のスーパースターはすべての舞台で観客を魅了し続けたが、実は「数字」がそれほど伴っていなかった点に驚く人も多いだろう。

シーズン中盤に3カ月近く調子を落とした影響もあり、ヤマルの最終成績は全コンペティションで18ゴール25アシスト。CLでも9ゴール関与を記録したが、11月から3月までの間にリーグと欧州でわずか1得点というスランプが響いた。将来的には頂点に立つ資質を持つが、「今季全体を通じたアウトプットの物足りなさ」が否めない。

そして最終的に、ラフィーニャの最大のライバルと呼べるのはウスマン・デンベレだけである。彼は、2024-2025シーズンにおいて「世界で最も成功したクラブにおける最高の選手」として位置づけられている。CL制覇を含むシーズンで、全大会通算35ゴール16アシストを記録し、バロンドール受賞者にふさわしい実績を残した。仮に受賞しても、それは納得のいく結果と言えるだろう。

Ousmane Dembele of PSG

しかし、デンベレには3つの重大な弱点がある。

まず第一に、彼が所属するフランスリーグは、欧州五大リーグの中でも最も競争力が低いと見なされており、デンベレのゴール関与の約3分の2がこの国内大会でのものである点は、微差を争うバロンドールの議論においては不利に働く。

次に、ラフィーニャとは異なり、デンベレが「バロンドール級」のパフォーマンスを見せたのは、シーズンの約半分だけだったという点だ。51のゴール関与のうち、実に39は2025年に入ってから記録されたものであり、ヨーロッパの大会での成果のほとんどもこの時期に集中している。一方で、彼の総出場時間の38%は2024年中に記録されたものである。リーグ前半では出場機会が安定せず、最初の16試合のうち5試合はベンチスタートだった。さらにCLグループステージのアーセナル戦を懲戒処分で欠場したこともあり、彼のキャリア履歴には明らかな空白がある。

最後に、彼は出場した2つの決勝戦で他の選手に輝きを奪われた。CL決勝では2アシストを記録したものの、主役はゴールを決めた若手デジレ・ドゥエであり、デンベレは印象に残りにくいものとなった。クラブW杯決勝では、PSG全体が崩壊し、チェルシーに大敗。バロンドール候補であるはずの彼の存在感は皆無だった。大舞台で物語をつかむ力がこの賞では問われるが、デンベレはその点でやや劣った。

こうした候補者たちの「相対的な弱点」が浮き彫りになる中で、ラフィーニャの受賞理由はより強固に見えてくる。もちろん彼にも完璧でない部分はあるが、他の候補に比べれば些細なものである。彼はタイトルを獲得し、CLで輝き、シーズン全体を通じてスーパースター級のパフォーマンスを維持し、賞賛を集め続けた。

さらにブラジル代表でも、他の選手が沈黙する中でラフィーニャは貢献を続け、W杯予選で7試合4ゴール1アシストを記録した。最も重要だったアルゼンチン戦(1-4敗戦)では沈黙したが、それは他の候補者も同様である。ヤマルはUEFAネーションズリーグで活躍したが、スペインは決勝でPK戦の末に敗れた。デンベレは1得点したが、フランスは準決勝で敗退。ヴィティーニャのポルトガルは優勝したものの、彼自身はゴール関与ゼロであり、その成績だけで他を凌ぐには足りない。

最終的に、ラフィーニャに対する最大の障壁は「世間的なイメージ」である。元リーズ所属の彼は、世界的なスーパースターとしての認知度が低く、所属クラブ内でもラミン・ヤマルのような華やかな若手に注目が集まりがちだ。しかし、これまで挙げた候補者の弱点と比べれば、この点は最も「目をつぶれる」ものだ。

シーズンを通じてすべての大会において、ラフィーニャは世界最高の選手であった。彼はスーパースター級のパフォーマンスを安定して維持し、過酷な長いシーズンの中でパフォーマンスを落とすことがなかった。

記憶に残るバロンドール争いの中でも、今回のレースは極めて魅力的であり、受賞すべき選手はラフィーニャであると考える。とはいえ、このレースの美しさは、受賞者の名前がパリ・シャトレ座のステージ上で読み上げられる瞬間まで、勝敗がまったく読めない点にある。

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原文:Why the 2025 Ballon d'Or vote is the most intriguing in 20 years
翻訳:小鷹理人(スポーティングニュース日本版)

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Kyle Bonn

Kyle Bonn is a Syracuse University broadcast journalism graduate with over a decade of experience covering soccer globally. Kyle specializes in soccer tactics and betting, with a degree in data analytics. Kyle also does TV broadcasts for Wake Forest soccer, and has had previous stops with NBC Soccer and IMG College. When not covering the game, he has long enjoyed loyalty to the New York Giants, Yankees, and Fulham. Kyle enjoys playing racquetball and video games when not watching or covering sports.

小鷹理人 Masato Odaka

スポーティングニュース日本版アシスタントエディター。埼玉県出身。南アフリカW杯を機にサッカーに魅了され、欧州サッカーを中心に幅広く観戦。大学・大学院でスポーツマネジメントを専攻し、理論と実践の両面からスポーツを追求。フットサル部では全国大会出場経験あり。趣味はスポーツ観戦でサッカー、格闘技、MLBなど幅広く観戦。NBAは現在勉強中。