アメリカンフットボールの最高峰であるNFLが、いま世界に向けて大きな一歩を踏み出している。2025年シーズンのインターナショナルゲームは、ロンドンで3試合、さらにアイルランド、ドイツ、スペイン、ブラジルでそれぞれ1試合ずつが予定されている。これまでヨーロッパの中心はロンドン、近年はドイツが加わっていたが、今年はダブリン、そしてマドリードにまで拡大。まさに「NFLの国際戦略」が新たな段階に入ったことを示している。
ロンドンから始まった「インターナショナルゲーム」
NFLの海外進出といえば、まず思い浮かぶのはロンドンだ。2007年にウェンブリー・スタジアムでニューヨーク・ジャイアンツ対マイアミ・ドルフィンズが行われたのを皮切りに、以降は毎年のように公式戦が開催されてきた。近年ではトッテナム・ホットスパースタジアムも使用され、複数試合開催が定着。いまやロンドンのNFLゲームは秋の恒例行事となり、イギリス国内だけでなくヨーロッパ各地からファンが詰めかける。
ロンドン開催の成功は、NFLが海外市場でも十分な需要を掘り起こせることを証明した。テレビ放送、グッズ販売、ファンクラブ組織、そして観戦ツアーと、NFLビジネスの裾野は着実に広がっている。
ドイツでの熱狂と新市場の開拓
次なるターゲットとなったのがドイツだ。2022年にミュンヘンで開催されたシアトル・シーホークス対タンパベイ・バッカニアーズ戦は、チケットが発売開始から数分で完売。スタジアムにはサッカー代表戦に匹敵する熱狂が広がり、「星条旗」と「カントリーロード」を大合唱する観客の姿は、世界中のNFLファンを驚かせた。その後もフランクフルトでの試合が続き、ドイツはすでにNFLのヨーロッパ戦略における重要拠点となっている。

(NFL)
そしてアイルランド初開催──ルーニー家とダブリンの熱狂
2025年9月28日、ダブリンのクロークパークでピッツバーグ・スティーラーズ対ミネソタ・バイキングスが行われ、74,512人の大観衆が詰めかけた。アイルランドで初めてNFLの公式戦が開催された瞬間は、歴史的な節目となった。スティーラーズが“ホスト”に選ばれた背景には、球団を所有するルーニー家のルーツがある。ルーニー家は北アイルランド・ニューリー出身で、19世紀にアメリカへ渡った。創設者アート・ルーニーが1933年に球団を立ち上げて以来、ルーニー家はスティーラーズとともに歩み、アイルランドとの縁も深く保ち続けてきた。ダン・ルーニー元オーナーが駐アイルランド米国大使を務めたことも、その象徴だ。
かたやホーム扱いのスティーラーズは大歓声!
— スポーティングニュース (@sportingnewsjp) September 28, 2025
グリーンが象徴のスタジアムが、テリブルタオルのイエローに染まっています pic.twitter.com/bon5e1B9Sm
市内に設けられたスティーラーズの期間限定ショップには元選手のサイン会を目当てに長蛇の列ができ、試合当日のクロークパークのオフィシャルショップにも開場2時間前から行列ができた。観客席にはスティーラーズやバイキングスのユニフォームだけでなく、シーホークスやパッカーズなど様々なチームのジャージ姿があふれ、アイルランドに根付くNFL人気の広がりを示していた。

注目すべきはチケット価格だ。NFLが発表した一般販売の価格帯は、プレミアム中央席が495ユーロ(約8万円)、サイドラインやエンドゾーンのプレミアム席は475〜485ユーロと高額に設定されている。一方で最安のカテゴリーは85ユーロ(約1万4000円)と幅が広く、子ども料金(Category 5=75ユーロ、Category 7=42.50ユーロ)も設けられている。発売直後からアクセスが殺到し、一部の高価格帯は早期に在庫が少なくなったとの報道もある。こうした状況は、アイルランド市場におけるNFLへの高い需要を示す好例といえるだろう。
スペインでの挑戦──マドリードへ
さらにNFLは今年、スペイン・マドリードでも初めてのレギュラーシーズンゲームを行う。サッカー大国であり、バスケットボール人気も根強いスペインは、アメリカスポーツへの関心が高い市場だ。欧州サッカーの象徴ともいえる都市マドリードでNFLが試合を行うことは、ブランド拡大の象徴的な意味合いを持つ。
南米にも広がるフロンティア
2024年にはブラジルのサンパウロでNFL史上初の南米公式戦が実施された。フィラデルフィア・イーグルス対グリーンベイ・パッカーズの開幕戦はチケットが数時間で完売し、約4万7000人を動員。さらに2025年もカンザスシティ・チーフス対サンディエゴ・チャージャース戦で47,627人がサンパウロに集まり、NFL人気の根強さを示した。NFLはすでに2026年のサンパウロ開催も決定している。
拡大するNFLの国際戦略──アジアも視野に
NFLの国際戦略は年々スケールを増している。昨年(2024年)は3カ国5試合だったが、今年(2025年)はアイルランド、スペインを加えた5カ国で史上最多の7試合が組まれた。さらに2026年には南米での定着に加えて、オーストラリアでも初めての試合が開催される予定だ。
NFLのロジャー・グッデル・コミッショナーは、ダブリンでの会見で「かつてはチームを国際試合に説得する必要があったが、いまは各チームが積極的に参加を望んでいる」と語り、「理想は16試合を海外で行い、全チームが年に1度は国際ゲームを経験すること」とビジョンを示した。そして次の一手として「おそらくアジアでの開催になるだろう」と言及。アメリカンフットボールを真にグローバルな競技にするというリーグの覚悟を強調した。
実際、NFLファンは世界中で約3,600万人にのぼるとされる。北米にとどまらず、南米、ヨーロッパ、そして今後はアジアへ──NFLは着実に“世界のスポーツ”へと歩みを進めている。
日本でのNFL──2005年が最後の開催
ここで忘れてはならないのが日本での歴史だ。NFLは1970年代から2005年まで、東京ドームなどで「アメリカンボウル」と呼ばれるプレシーズンゲームを繰り返し開催してきた。最盛期には毎年のように試合が行われ、NFLのスター選手が来日するたびに話題となった。
しかし、あくまでもチーム主導のプレシーズンゲームであり、公式戦としてのレギュラーシーズンゲームが日本で開催されたことはない。最後の開催は2005年、アトランタ・ファルコンズ対インディアナポリス・コルツの一戦だった。それから20年、日本のファンは待ち続けている。
日本再上陸の可能性
プレシーズンゲームと違い、いまNFLが推進しているのはリーグ主導によるレギュラーシーズンゲームの海外開催だ。これは単なるエキシビションではなく、シーズンの成績に直結する「本気の勝負」である。だからこそ、ロンドンやドイツ、アイルランドでの盛り上がりは本物であり、現地ファンを熱狂させている。
アイルランド初開催で示されたように、NFLは新しい市場を積極的に開拓している。ダブリンでの成功、マドリードでの挑戦、そして来年のオーストラリア開催──その先に見据えられるのはアジアだ。
スティーラーズのベテランDTキャメロン・ヘイワードも、ダブリンでの試合後に次のインターナショナルゲームについてこう語った。
「行ける場所はいろいろあるんだ。ハワイにも行けるし、そこでいい日焼けができそうだ。オーストラリアにも行けるし、日本にも行ける。日本には『山の中にスタジアムがある』って聞いたんだ。すごくクールだろうね。もしかしたら、そこでカッコいい服も手に入れられるかもしれない。」
選手自身の言葉が示すように、日本はアジア展開の有力候補のひとつとして現実的に意識されているのだ。20年前に途絶えたNFL日本開催は、再び現実味を帯びつつある。東京ドームが再び“アメフトの聖地”となる日を、ファンは心待ちにしている。
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