シェイ・ギルジャス・アレクサンダー(SGA)が、オクラホマシティ・サンダーをNBAファイナル第7戦での劇的勝利と、球団初の優勝へと導いてから約3時間後、カナダの放送局『The Sports Network』のアナリストであり、長年の友人でもあるジェボーン・シェパードは彼のもとを訪れ、その偉業を祝福した。
シェパードは、SGAがその瞬間を祝い、興奮の渦中にいるものだと思っていた。しかし、目の前にいたスーパースターの表情は、歓喜ではなく真剣そのものだった。
「僕はまだ、もっと良くなれる」と、ギルジャス・アレクサンダーはシェパードに言った。
「伸びしろがまだまだたくさんある」
レギュラーシーズンMVP、ファイナルMVP、得点王のすべてを同一シーズンで獲得した選手としては大胆な発言だった。それは、マイケル・ジョーダン、カリーム・アブドゥル・ジャバー、シャキール・オニールに続いて史上4人目の偉業。加えて、オールスター選出、オールNBAファーストチーム、ウェスタン・カンファレンス・ファイナルMVP、さらにESPY賞の男子年間最優秀アスリートも受賞している。
そして今回、新たにスポーティングニュース(AllSportsPeople)年間最優秀アスリートの称号も加わることになった。これほどのシーズンを、誰がどうやって超えられるというのだろうか。
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シェイ・ギルジャス・アレクサンダーが2025年スポーティングニュース年間最優秀アスリート賞受賞
しかし、シェパードにとってその言葉はいかにもシェイらしいものだった。彼は、著名なトレーナーであるナサニエル・ミッチェルのもとで共にトレーニングをしていた頃から、ギルジャス・アレクサンダーを知っている。当時、シェパードは国際的な選手としてのキャリアの終盤に差し掛かり、ギルジャス・アレクサンダーは17歳の高校生として頭角を現し始めた頃だった。
その執拗な行動、常に向上を求める飽くなき欲求、休むべき水分補給の休憩中にも練習を続けるその姿勢をシェパードは間近で見ていた。そして、ケンタッキー大学でベンチから出場していた頃から現在に至るまで、その急成長を追い続けてきた。
約10年前の最初のトレーニングを振り返り、シェパードは「彼は本当に何でもスムーズに吸収していた」と語る。
「僕がコンセプトの理解に苦しむような時もあったが、彼のバスケットボールIQは遥かに先を行っていた。高校生なのに、逆に僕にいろいろなムーブを教えてくるような存在だった」
その吸収力の原点は、トロントで育った幼少期にまで遡る。父親のボーン・アレクサンダーは長男に特別な何かを感じていた。SGAは2歳半の時には鉛筆を持ち、文字の読み書きができたという。
ボーンは、「"cat" や "dog" や他の単語を書いていたよ。医者は『この子はほぼ天才の域だ』と言っていた」と話す。
SGAはあらゆることにおいて覚えが早く、最初に好きになったサッカーもそのひとつだった。運動能力の遺伝子も受け継いでいた。母親のシャーメイン・ギルジャスは、アンティグア・バーブーダ代表のオリンピック陸上選手で、父親のボーンは高校時代にバスケットボールのスター選手だった。
シェイと、弟のトマシ、そしていとこのニキール・アレクサンダー・ウォーカーは、成長期をともに過ごした存在だ。特にニキールとシェイは、いとこというよりも双子のような関係だったという。
ボーンは彼らを指導しながら、『NBA博士号』とでもいうべき知識を叩き込んだ。彼は2人にアレン・アイバーソンのジャージを着せ、2001年のトロント・ラプターズ対フィラデルフィア・76ersのプレイオフ第2ラウンドにも連れて行った。シェイとニキールがまだ2歳の時で、地元トロントのファンからは不満の声も上がった。
「みんなが、『おい、なんだよ、ビンス・カーターのジャージを着せてやれよ』って言われたよ」と、ボーンは笑いながら当時を振り返る。
TSN年間最優秀アスリート歴代受賞者
| 2021年 | 大谷翔平 |
| 2022年 | リオネル・メッシ |
| 2023年 | ケイトリン・クラーク/エンジェル・リース |
| 2024年 | 大谷翔平 (男子)/ケイトリン・クラーク(女子) |
| 2025年 | シェイ・ギルジャス・アレクサンダー(男子)/エイジャ・ウィルソン(女子) |
ボーンは、シェイと二キールとトマシの3人にビデオゲームよりもNBAを見ることを勧めた。シェイは、アイバーソン、コービー・ブライアント、クリス・ポール、ポール・ピアースなどの2000年代のスター選手たちを見て育った。
「その時代の最高の選手たちのゲームやその支配力の根源を自分のものとして取り入れていたんだ」と、ボーンは語る。
「だから、彼のプレイがオールドスクールと言われるのは自然なことだよ。多くの人が『彼をスピードアップさせるのは無理だ』と言うが、それは彼のプレイスタイルから来ている。月まで届くほどの高さのダンクやジャンプをする選手たちとは対照的な、オールドスクールなプレイヤーのスタイルだからね」
その偉大な選手たちへの敬意は、今も失われていない。ギルジャス・アレクサンダーは派手に遊ぶタイプではなく、クラブにも行かない。親友の1人であるビンセント・チュウが、オフの過ごし方をこう明かしている。
「一緒に座って、食事をして、ハイライト映像を見る。やるのはそれくらいだよ。ステフィン・カリーやコービー・ブライアントの同じ映像を何度見たかわからない」
映像を見るのは単なる純粋な娯楽ではない。ギルジャス・アレクサンダーは、それを自分のトレーナーに送り、偉大な選手たちのムーブを自分のプレイのレパートリーとして取り入れることはできるか相談することも多いのだという。

偉大な選手たちを手本にするSGAのプレイ
トレーナーのミッチェルとギルジャス・アレクサンダーは、多様なものを取り入れてきている。それは明白なものから意外なものまで様々だ。マイケル・ジョーダンやコービー・ブライアントのフェイダウェイ、カーメロ・アンソニーのフェイスアップからのノードリブルでの得点、アキーム・オラジュワンのドリブルムーブ、トレイシー・マグレディの特定のジャンプショットでの跳躍、さらにはアル・ジェファーソンのローポストでのベースラインスピンと幅広い。
技術を研究したギルジャス・アレクサンダーは、夏の間に自身の『実験室』へと向かう。そのトレーニング環境は非常に独特だ。多くのNBA選手が集団でトレーニングする中、彼は幼なじみを中心とした限られたグループとトレーニングを重ねる。彼らは自らを『サンライズ・ワークアウト・クラブ』と呼んでいる。
「日の出前にワークアウトをして、日の出までに終えるんだ」と、チュウは言う。彼は、トロントから約40マイル離れたSGAの故郷ハミルトンで行われるこのワークアウトに、7年連続で参加している。
このクラブはギルジャス・アレクサンダーの幼なじみで構成され、彼らはオフシーズン中、毎朝60〜75分のトレーニングを共にする。モーリス・モントーヤとマーク・カスティラネスは小学6年生の時にギルジャス・アレクサンダーと出会い、サンデー・コング、デバンテ・キャンベルとチュウは高校時代に出会っている。誰一人プロ選手ではないが、世界最高の選手を磨き上げる役割を担っている。
チュウは高校最初の授業でSGAの隣に座り、シェイが外履きにしていたKD4のシューズをきっかけに仲良くなった。
「高価だから外で履くなんてありえないと思った。でも、それが逆にカッコよかったんだ」と、チュウは語る。
「靴にはすごく金を使ったよ」と、ボーンは笑う。
「クリスマスのたびに本当に大変だったんだ」
クラブでの2年目から3年目にかけて、チュウはギルジャス・アレクサンダーのディフェンダー役を任された。
「ディフェンスを覚えないといけなかった。自分は守れると思ってたけど、全然だったと思い知らされたよ」と、彼は笑う。
そのワークアウトの中でギルジャス・アレクサンダーはポストプレイを磨き、決して手加減しなかった。
「彼がポストアップを覚え始めた最初の数年は、家に帰ると自分の胸が真っ赤だったことを覚えているよ」と、チュウは話す。
その2年間で彼は体重が20ポンド(約9kg)落ち、のちにより大きなディフェンダーに交代することになった。
それは、シェイ自身の肉体強化とも関係がある。ストレングスコーチのネム・イリッチはハミルトン出身で、自宅の2台分のガレージをジムに改造している。イリッチの家の前の通りでは、ギルジャス・アレクサンダーが重りの付いたソリを押している姿を近所の子どもたちが目にすることも珍しくない。
イリッチはSGAのインナーサークルに最後に参加した1人であり、そのグループはSGAが限定している。
ミッチェルは、「シェイはとても秘密主義なんだ」と語る。
「彼のワークアウトのハイライトがネットに出回ることはほとんどない」
彼がグループを開放する唯一の例外は高校生に対してだ。時折、彼は地元の子供を招いて一緒に活動することがある。
そこには複数の理由がある。かつてシェパードらベテランがしてくれたように、次世代へ自分の知識を還元したいという思いがひとつ。そしてもうひとつが、彼にとって練習は単なるバスケットボール技術の向上ではなく、リーダーシップやコミュニケーション能力を磨く場でもあるからだ。
「ジムで高校生を相手に、自分のワークアウトについてこさせ、コミュニケーションを取ることができれば、チームメイトとの意思疎通も自然と良くなるというわけさ」と、シェパードは話す。
「ほとんどの選手はそこまで考えていないよね」
その全面的な成長への献身が、シェイが2025年スポーティングニュース年間最優秀アスリートに選ばれた理由だ。そして2026年、彼はさらに良くなるはずだ。
今季のサンダーは勝率を伸ばし、彼自身もフィールドゴールと3ポイントの精度を向上させながら、得点力は依然としてエリート水準を維持している。
SGA has gotten tangibly better, my goodness pic.twitter.com/FVT0xJ88UD
— buddhaball🏀 🍉🇺🇦☸️ (@SiddharthNBA) December 8, 2025
シェパードに驚きはない。これはSGAにとって初めての受賞ラッシュに過ぎない。これが最後ではないのだ。
「史上最高の一人を目指している選手の話だ」と、シェパードは言う。
「彼はキャリアが終わった時、人々が別格として語るような存在になることに焦点を当てているんだ」
ギルジャス・アレクサンダーはすでに世代を代表する選手の1人となった。しかし、彼の基準は、何度も何度も見返してきたヒーローたち――コービー・ブライアント、ステフィン・カリー、マイケル・ジョーダン、そのほかNBA史に名を刻む偉大なガードたちなのだ。
そのレジェンドたちを追い求めながら、彼はYouTubeに自身のハイライト映像を積み重ねている。満足してそれを眺められるのは、引退してからになることだろう。
原文:Shai Gilgeous-Alexander is AllSportsPeople 2025 Male Athlete of the Year
翻訳:YOKO B
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