NBAファイナル2025の初戦を前に行われた6月4日(日本時間5日)の公開練習の日、オクラホマシティ・サンダーのマーク・デイグノート・ヘッドコーチは、ペイコム・センターでインディアナ・ペイサーズのスタッフの1人に声をかけられた。
声をかけたのは、ペイサーズでアスレチックトレーナー兼理学療法士として働く日本人の佐藤絢美だ。2人は軽くハグをして挨拶を交わしたという。それはここ数年、サンダーとペイサーズが対戦するたびに繰り広げられる光景でもある。
『自分でいられること』の大切さと自分でいることが武器になるとデイグノートHCから学ぶ
2人の出会いは今から6年前のことだ。理学療法士の資格を取るために大学院で学んでいた佐藤は2019年の春、サンダー傘下のGリーグチームであるオクラホマシティ・ブルーでインターンとして働いた。そして、その当時ブルーのヘッドコーチを務めていたのがデイグノートだった。
「私の夢は昔からバスケット(に関わること)だったんですけど、ブルーのインターンが一番バスケットに近づけたときだったんですよね」と、佐藤はインターン時代を振り返る。
「それで本当に緊張しすぎてしまって、普段話したり行動したりする際に、周りからジャッジされてるんじゃないかと気になってしゃべれなくなってしまった時があったんです」
そんな彼女を見たデイグノートHCは、「誰かみたいになろうとするんじゃなくて、アメリカ人みたいにするんじゃなくて、自分ならではの個性を出せばいいんだよって言ってくれた」という。佐藤は続ける。
「ほかにも、自分では失敗したと思ったことが実際には意外と好感度を与えていたエピソードとかも教えてもらえて。コーチ・マークがそのままでいいって言ってくれたことで、『自分でいられること』の大切さを理解して、自分でいることが武器になるんだってことを学びましたね」
GリーグがNBAの入り口になるスタッフは多い
その後、デイグノートHCと佐藤はそれぞれNBA入りを果たす。デイグノートHCは2019-20シーズンからアシスタントコーチとしてサンダーに加わり、2020年にヘッドコーチに就任。一方の佐藤は博士課程を修了した2019年にペイサーズと契約。傘下のインディアナ・マッドアンツで経験を積んだ後、2023年からペイサーズで働き始めた。
2人はブルー時代から6年の時を経て、NBAファイナルという大舞台に立っているわけだ。
「彼女の活躍をとても嬉しく思っているよ」
佐藤について尋ねると、デイグノートHCは満面の笑みを浮かべながらこう続けた。
「まず第一に、彼女はとても仕事ができて有能だったし、ブルーで一緒に働く機会をすごく感謝していた。どんな仕事であれ、一緒に働く人には環境を良くしてくれる人であってほしいものだが、彼女はまさにそういう人だったんだ。彼女は信じられないほどプロフェッショナルで、本当に貢献してくれていた」
「素晴らしいことだと思うんだ。彼女は男性優位の業界で働く異国出身の女性で、そのことに焦点が当てられがちだが、彼女は実際とても優秀で、そのことを認識することが重要だと思っている」
「GリーグがNBAの入り口になるスタッフは多い。私にとってもそうだった。NBAでアシスタントコーチをしている人の多くは、あの当時Gリーグで私と一緒にコーチをしていた。うちのスタッフのほとんどがGリーグのプログラムを経験している。この組織で働く人の中でGリーグに関わらない人はほとんどいない。彼女はその良い例だね」
短期間ながらもGリーグでデイグノートHCと一緒に働き、さまざまなアドバイスももらった佐藤は、サンダーとペイサーズがこうして同時期にNBAファイナルまでたどり着いたことを「単純に嬉しい」と話す。と同時に、両チームを知る彼女ならではの見解も示している。
「インターン時代にサンダーがどれだけ素晴らしい組織かを目の当たりにしました。そして今ペイサーズで働いていて、ペイサーズもものすごく人を大事にする組織だと感じています」
「両チームともに人を大切にする点とリーダーシップがすごくしっかりしているという点から考えても、決勝で当たっていることに驚きはないですね」