日本において「クリスマス」とは、やたらと商魂たくましいお祭り騒ぎではあるものの、キリスト教国においては「聖夜」と呼ばれる通り本来、日本の元旦のように厳かな夜が待つ。そんな静寂に包まれる日、NBAのコートだけは熱き対決の炎がたぎる。NBA創設2年目、1947年に始まった「クリスマスゲーム」は、「聖なる戦場」とも言えよう。

2025年、この伝統は78回目を迎え、全5試合、13時間にわたる連続放送は215の国と地域、50以上の言語で届けられ、世界中のファンが同時体験するグローバルな祭典へとなる。
不滅の金字塔——数字が証明するレジェンドたちの活躍
クリスマスゲームを記録という観点から眺めると、レギュラーシーズンの一試合でありながら、NBAの歴史を通した輝きを見てとることができる。

Allan Henry-Imagn Images
まずは多くの最多記録を保持するのは現在のNBAの象徴“キング”レブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)だ。キングは出場試合数(19試合)、通算得点(507点)、通算勝利数(11勝)、3ポイントシュート成功数(31本)、フィールドゴール成功数(180本)のすべてで歴代単独首位。また、アシスト(137)、スティール(28)でも歴代2位となっており、聖夜のレブロンは、もはやひとつの「現象」と形容できよう。
レブロンは、オスカー・ロバートソンが持つ通算145アシストという記録まで、あとわずか「8」に迫っている 。今季の試合で、8アシスト以上を記録すれば、彼は得点・勝利数・アシストの主要三部門でクリスマスの頂点に立つことになる。

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ただし、クリスマスに50得点以上を記録した選手は、長い歴史でわずか4人しかおらず、レブロンは含まれていない。そこには、もうひとりのキングの名が燦然と輝く。
もっとも新しくクリスマスに50得点を記録したのは、今となってはキングのチームメイトとなったルカ・ドンチッチ。2023年、当時ダラス・マーベリクスに所属していたドンチッチは、フェニックス・サンズを相手にちょうど50得点を記録。
これに並ぶのがサンフランシスコ・ウォリアーズ時代(現ゴールデンステート)のリック・バリー。1966年、シンシナティ・ロイヤルズ(現サクラメント・キングス)を相手に50得点している。新しいNBAファンにとって馴染みの薄い選手かもしれないが、マンガ『スラム・ダンク』の主人公・桜木花道が下手投げのフリースローを見せるのは、バリーのスタイルがモデルとなっている。彼の三男であるブレント・バリーもサンアントニオ・スパーズで2004年、07年とNBAを制覇。親子二代にわたり頂点を極めている。
これを上回るのがレジェンド、ウィルト・チェンバレン。NBAにおける単一試合100得点という最多記録を保持することで知られる彼は1961年、フィラデルフィア・ウォリアーズ時代、ニューヨーク・ニックスを相手に59得点。リバウンドでも36を奪取。ただし、これはダブル・オーバータイムにおける記録となっている。
チェンバレンは、クリスマスデビューとなった1959年にも45得点、34リバウンドというルーキー記録を叩き出し、NBAにその名を轟かせた。
そして、クリスマスの最多得点記録を保持するのは、やはり「キング」。と言ってもレブロンではない。ニックスのバーナード・キングが1984年にニュージャージー・ネッツ(現ブルックリン)を相手に60得点しており、40年以上経った現在も塗り替えられていない。
なお、一試合平均最多記録はトレイシー・マグレディの43.3得点。はたして25年のクリスマス・ゲーム、キングやTマックを上回る爆発力を見せる選手は現れるのか。注目したい。
レジェンドたちが積み重ねて来た伝説的スタッツ

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他スタッツにも注目してみよう。
さきほど取り上げたチェンバレンの36リバウンドは、クリスマスにおける一試合最多記録でもある。現代のNBAでは、一試合におけるチーム全体のリバウンド数をも上回るようなこの数字は、レジェンドにふさわしい。
だが、リバウンド最多記録はボストン・セルティクスをNBAの頂点に11度導いた伝説のセンター、ビル・ラッセルの通算176リバウンドにその座を譲る。ラッセルはこれを8試合の出場で達成。一試合平均で22リバウンドを誇る。もっとも一試合あたりの平均リバウンド数は、ここでもチェンバレンが25.3の数字を残しており、ラッセルを2位に追いやっている。
「シャック・アタック」と呼ばれ豪快なダンクが印象的だったシャキール・オーニールは聖夜において、むしろディフェンスで貢献。25ブロックの通算最多記録を残しクリスマスのリングを鉄壁の守りで守り抜いた 。
クリスマスの記憶に残る数々の名場面
もちろん、記録だけではなく記憶に残る試合も多い。

ニックスは、チームとして最多の58試合に出場、クリスマスゲームの「主役」でもあるが特に1985年、ルーキーだったパトリック・ユーイングがチームをけん引。35得点11リバウンドの活躍で王者セルティックスを相手に25点差からの逆転劇を演じた 。 翌86年には、マイケル・ジョーダンがクリスマスデビュー戦で30得点するものの、ユーイングが試合終了と同時にプットバック・シュートを沈め、86対85とブルズを1点差で撃破 。ガーデンの熱狂は、今もファンの間で伝説として語られている。
95年には前年のファイナルの組み合わせでもあるヒューストン・ロケッツとオークランド・マジックが対戦。ロケッツのアキーム・オラジュワンが30得点12リバウンド6アシストの活躍を見せるも、マジックはシャックが22得点18リバウンド5アシスト、アンファニー“ペニー”ハーダウェイが残り3秒からのウイニングショットを含む22得点と奮闘し、ファイナルでの雪辱を果たした。
2003年、高卒ルーキーとして全米の注目を集めていたクリーブランド・キャバリアーズのレブロンがクリスマスに初参戦し、マグレディ率いるマジックと対戦。対するは当時最高の得点能力を誇ったトレイシー・マグレディだ。マグレディが41得点するも、レブロンも34得点と奮闘。延長の末、キャブスが113対1001で試合をものにし、新時代の到来を予感させた。

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2004年には、2000年から三連覇を果たしロサンゼルス・レイカーズの黄金期を築いたデュオ、シャックとコービー・ブライアントが、それぞれシャック率いるマイアミ・ヒートとコービーのレイカーズに分かれ、激闘。コービーが42得点と爆発を見せたが、ドウェイン・ウェイドが29得点10アシスト、シャックが24得点11リバウンドと躍動。延長の末、104対102でコービーに苦杯をなめさせた。
クリスマスに生まれる新たな伝説
クリスマスに新しい伝説は生まれるのか
注目ポイントは、どこにあるのか。
まずは今季、NBAカップ制覇を果たしたニックス対カブスの対戦はクリスマス初顔合わせ。50回目のクリスマスを戦うニックス、一方2027年以来の参戦となるキャブス。特にキャブスはこの日、敵地では1勝7敗と分が悪い。ニックスのミカル・ブリッジズは昨季、41得点を上げており、これはニックスのメンバーとしてキングに次ぐ記録。爆発は期待できるのか。

スパーズ対オクラホマシティ・サンダーは、昨季クリスマスデビューで42得点したビクター・ウエンバンヤマと昨季シーズンMVPとなったシェイ・ギルジャス・アレクサンダーの対決に期待した。スパーズは、NBAカップ準決勝のように、サンダーに待ったをかけることができるのか。
ミネソタ・ティンバーウルブズとデンバー・ナゲッツの対戦では、022年に41得点、15リバウンド、15アシストという「怪物級トリプルダブル」を達成したニコラ・ヨキッチが、若きエース、アンソニー・エドワーズと激突する 。
もちろん、ケビン・デュラント、レブロン、ドンチッチとNBAの顔がそろうロケッツ対レイカーズも、見逃せない。
さて、2025年のクリスマス、NBAとそのスターたちは、我々ファンにどんな至高のプレゼントを授けてくれるのだろうか。
【データ提供】 NBA 2025 Christmas Day Media Guide / Elias Sports Bureau