ニックスのトム・シボドー解任という決断は誤りだったのか? シボドーのキャリアから検証

Stephen Noh

小野春稀 Haruki Ono

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過去25年間で最高のシーズンを終えたばかりのニューヨーク・ニックスは、衝撃的な決断を下した。彼らはカンファレンス決勝で敗退した直後、トム・シボドー監督と袂を分かつ道を選んだのだ。新しいコーチこそがニックスを次のレベルに押し上げると信じての決断であろう。

シボドーのキャリアを追ってきた人なら、以前にも似たような状況を目にしたことがあるだろう。それは、シボドーがシカゴ・ブルズから解雇されたときと現状が限りなく近しいものであるということだ。

トム・シボドーのコーチングキャリア

チーム勝利敗戦勝率
ブルズ25513964.7%
ティンバーウルブズ9710747.5%
ニックス22617456.5%

シボドーはブルズで5シーズン指揮をとり、65%の勝率をあげ、チームを1度のカンファレンスファイナル進出に導いた。途中、彼の頑固さとオフェンスシステムの欠如がチームの足を引っ張っていると考えた経営陣と対立した。

その後、ブルズはフレッド・ホイバーグというオフェンスの名手を雇ったが、50勝から42勝と勝ち星は減り、同じロスターを揃えたにもかかわらず、プレイオフに進出することさえできなかった。シボドーが去って以来、ブルズまだ1回戦を突破したことがない。

シボドーはウルブズでも同じような状況を経験した。就任2年目にチームを47勝に導いた後、3年目のシーズン途中で解雇された。ジミー・バトラーのトレード要求による混乱で、19勝21敗のスタートダッシュとなり、それを克服することはできなかった。

結果的に、シボドーは解雇され、後任のライアン・サンダースも43勝94敗という散々な結果に終わった。

その後ウルブズは、アンソニー・エドワーズをドラフトで指名するという幸運に恵まれた。

現在、ニックスも同じ立場に立たされている。シボドーはニックスでの5シーズンで57%の勝率をあげた。彼は32%の勝率だったチームを、1年目には41勝31敗の成績にまで引き上げた。その結果、彼は2度目の最優秀コーチ賞を獲得した。ニックスは着実に成長を続け、今シーズンは51勝を挙げ、ファイナルまであと2勝と迫った。しかし、それでも彼は解任された。

シボドーは完璧なコーチではない。出場時間が長すぎるという批判は当然だし、彼の頑固さは否定できない。しかし、少し前に彼の元同僚が私に言ったように、彼が頑固なのは、彼が天才だからであり、彼がたいてい正しいからなのだ。

ニューヨーカーで、ナゲッツの元チャンピオンコーチであるマイケル・マローンは、シボドーの後任になる可能性がある。昨年リーグ5位という好成績を収めたニックスのオフェンスをさらに洗練できるかもしれないという期待もあるだろう。

ただ、マローンがニックスをチャンピオンに引き上げる絶対的な選択肢なのだろうか?ニックスにとって大切なのは、単なるオフェンス・ディフェンスなのだろうか?

リーグのどのコーチも、ファンが思っているよりもはるかに戦略に長けている。マローンは、何よりも大切なのは 「選手の個性やエゴを管理し、ビジョンを持ち、選手たちを納得させ、それにコミットさせること 」だと考えている。

シボドーは彼の評判以上に、戦略も舞台裏のマネジメントも上手だった。プレイオフ第2ラウンドでは、前年王者のセルティックス相手にディフェンス・プランを見事に調整して、シリーズを突破して見せた。

カンファレンスファイナル第3戦のハーフタイムショーで、TNTのケニー・スミスが 「シボドーは野球の試合でも9人をプレイさせないだろう」というジョークを言い放ったが、まったくの事実無根だった。スミスがそのジョークを言った時点で、シボドーはすでに9人の選手を試合に出場させていた。

シボドーはそのペイサーズとのシリーズの大半で、9人をプレーさせ続けた。タウンズがディフェンス面で効果的でなかったとき、シボドーは彼をベンチに下げることを厭わなかった。彼はできる限りの手を打った。最終的には、より良いチームが勝っただけのことなのだ。

試合で実際に起こったことよりも、スミスのセリフを覚えている人の方が多いというのは皮肉なものだ。

シボドーはオフェンス面で創造性に欠けるという評判がある。彼の下でプレイした選手やリーグの上級スカウトに聞けば、彼はリーグで最も幅広い戦術を持っていると言うだろう。またカンファレンス・ファイナルを通してのオフェンスのセットプレイは見事で、キャブスやバックスよりもペイサーズのディフェンスを相手にオフェンスで多くの成功を収めた。

ファンがそのような事情に気づかないのは、ゲームの動きが速すぎて、リアルタイムでそのような戦略的な変化に気づかないからだ。シボドーは、質問に対する不機嫌な受け答え、選手起用の方法、そして最終的に負けるという、人々の目に入りやすい事柄だけで悪評を買っている。

シボドーがまだコーチを続けるべき理由は確実に存在していて、それはファンの目にも明らかだろう。ニックスがハードにプレイするチームであることを非難することはできるだろうか?それはマローンがコーチングの最も難しい側面と呼んだ選手のコミットの現れであり、シボドーは選手のコミットという点で多くの成功を収めてきた。

ニックスが他のチームと一線を画していたのは、その執念である。ジョシュ・ハートは血を流しながら不可能なリバウンドにダイブし、ミケル・ブリッジズはプレイオフの51分目にジェイレン・ブラウンからボールをもぎ取り、試合を決定づけた。ニックスは"ハードワーク"と呼ばれるものをやり尽くした。その姿勢は、選手たちにも多くを求めるが、それ以上に自分自身にも妥協しないシボドーのコーチングからきているのだ。

シボドーにとって勝利は常に最も重要なものだった。結局、それがまた彼の運命を決定づけた。彼はパフォーマンスではなく、フロントの満足いく結果を出せず解任された。以前のブルズやティンバーウルブズのように、チームを引き上げた優秀なコーチを解任したニックスの選択は大きな過ちなのかもしれない。

原文:Firing Tom Thibodeau was a mistake: Knicks doomed to repeat history after getting rid of overachieving coach

抄訳:小野春稀(スポーティングニュース日本版)

Stephen Noh

Stephen Noh started writing about the NBA as one of the first members of The Athletic in 2016. He covered the Chicago Bulls, both through big outlets and independent newsletters, for six years before joining The Sporting News in 2022. Stephen is also an avid poker player and wrote for PokerNews while covering the World Series of Poker from 2006-2008.

小野春稀 Haruki Ono

スポーティングニュース日本版アシスタントエディター。大学生。元はスポーティングニュースのNBAニュースを毎日楽しみにしていた読者であったが、今では縁あってライターとして活動している。小学生の時にカイリー・アービングのドリブルに魅了されNBAの虜に。その影響で中高6年間はバスケに熱中した。主にNBAの記事を執筆している。