5月上旬、クリーブランドで行われた試合でのことだ。
ガーディアンズのクローザー、エマニュエル・クラセがインサイド低めの球を投げたとき、プログレッシブ・フィールドのホームプレートの後ろにはオンライン賭博サービスの広告が映し出されていた。
この画像は、メジャーリーグベースボール(MLB)が公正で、ギャンブルとは無縁の競技を行うことを目指しながら、スポーツ賭博業者からの広告を受け入れているという明らかな偽善を指摘する目的でX (旧Twitter)上に投稿された。
そしてこの投稿は、最高裁判所が『マーフィー対NCAA』の訴訟に判決を下し、各州でスポーツ賭博が合法化される可能性を開いてから7年も経った今でも、アメリカのスポーツ界やスポーツメディアの多くの人々が不必要なまでに純潔主義を維持し続けていることを示す証拠とも言える。
リーグの声明によると、クラセはメジャーリーグベースボール選手会(MLBPA)との合意に基づき、「MLB がスポーツ賭博に関する調査を継続している間」、8月の間は「懲戒処分ではない有給休職」処分とされた。ガーディアンズでは、ルイス・オルティーズに続き、 2人目の処分を受けた投手となる。
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最高裁判所が「プロ・アマスポーツ保護法」を覆してから数年の間に、ネバダ州に続く形で38 州がスポーツ賭博を合法化している。クリーブランドのあるオハイオ州も2023年の元旦にこの中に加わっている。
プロスポーツチームがギャンブル関連企業からのスポンサーシップを受け入れることで、選手たちによる賭博行為を事実上支持しているという論理(の欠如)に従うなら、MLBの選手たちは第1球目から最後のアウトまでビールを飲み、チキンウィングを食べ、スマートフォンを取り出して自撮りする時間を過ごすことになるだろう。
テレビ中継される野球の試合のほとんどで、それらの企業の広告が流れているからだ。
もし、合法化されたスポーツ賭博の存在によって、あらゆるスポーツの選手たちがポイントシェービングなど少なくとも74年にわたりアメリカの法執行機関が起訴してきた不正行為に必然的に関与するという論理(の欠如)に従うなら、株式取引に携わる人々も同様に違法行為である内部情報を利用した優位性を求めることに不可避的に引き込まれることになる。
スポーツ選手による賭博関与とブックメーカーのスポンサーシップに因果関係はあるのか
スポーツ賭博がアメリカの多くの州で合法化され、ごく一部の州で例外となっている現在、あらゆるスポーツの選手たちは、そのスポーツにおける賭博に関する規則について指導を受けている。野球、バスケットボール、アメリカンフットボール、サッカーなどスポーツの種類を問わず、最も明白な規則は「このスポーツに賭けてはならない。絶対に」というものだ。
MLBでは、選手はあらゆるレベルでの野球に対する賭博行為が禁止されており、その対象にはリトルリーグ・ワールドシリーズまで含まれる。これは過酷な制限ではない。合法的な手段を通じてであれば、野球選手はNFLの試合やマーチ・マッドネスでの賭けを楽しむことができる。野球に関するこの禁止事項は秘密ではない。ケビン・ガーネットやジェイミー・フォックス、ケビン・ハートがテレビ画面に登場してスポーツ賭博をどれだけ宣伝しようとも、賭けに勝つために試合の結果に影響を与える行為に及んだ場合にどうなるかは火を見るより明らかだ。
『ブラックソックス事件』は1世紀以上も前のことだ。だが、『シューレス』ジョー・ジャクソンを含む8人の選手は永久追放処分を受けたため、二度とMLBの試合に再び出場することはなかった。最近ではわずか1年前にパドレスのトゥクピタ・マルカーノが74万6000ドル(1ドル148円換算で約1億1040万円、以下同)の1年契約を結んだ後、メジャーリーグの試合に含む約400件の賭けに関与したとしてMLBにより永久追放処分を受けた。
クラセは2022年に締結した5年2000万ドル(約29億6000万円)の契約の3年目で、今シーズンは490万ドル(約7億2520万円)を受け取る予定だ。この契約では2026年は640万ドルに増加し、その後2年間はクラブオプション(各1000万ドル、約14億8000万円)が設定されている。
クラセには過去に学ぶべき警告がいくらもあったし、結果として今、多くのものがリスクに晒されている。
現時点でクラセが問題のある行動をしていたという公になった証拠はない。ただあるのは、彼が休職処分を受けたという事実だけだ。
『ESPN』のジェフ・パッサン氏は、ガーディアンズのオルティーズの行動が調査対象となり、その後、一時的に出場停止処分を受けたことを報じた。これは、賭博市場の異常な活動を監視するサービスが、彼がマリナーズとカーディナルスとの試合で投げた特定の投球において通常とは異なる行動を検出したためだった。
オルティーズ、クラセのどちらの場合についても、リーグやテレビネットワーク、『スポーティングニュース』を含むオンラインメディアなど、スポーツベッティング業者のスポンサーを受け入れた外部要因に責任を転嫁することは馬鹿げている。
法定年齢に達していれば飲酒は合法だ。酒に酔った状態で自動車を運転することは違法だ。スポーツ賭博は合法だ。この分野では、法律の境界線や特定のスポーツのルールが明確に定められている。
ギャンブルの合法化に対する継続的な批判の中であまり認識されていないのは、すべてのスポーツに対して莫大な利益がもたらされていることだ。また2021年のNetflixドキュメンタリー「Hoop Schemes」でも詳細に描かれた1994年のアリゾナ州立大学によるポイントシェービングのスキャンダルにおいて、それに関わる不審な賭博のパターンを特定したのはネバダ州の合法的なブックメーカーだった。
スポーツの健全性に関して、リーグと同等か、場合によってはそれ以上の投資を行っている唯一の企業は合法的なスポーツブックメーカーだ。MLBコミッショナーのロブ・マンフレッド氏は、この価値を認めている数少ない人物の一人だ。ブックメーカーにとっては、不要な損失を避けるためにもスポーツがクリーンである必要がある。一方リーグも、ファンが投資するお金、時間、情熱を維持するために、スポーツがクリーンである必要がある。
あらゆる分野において、成功を確実なものにするため、確率を上げるためにルールや法律を破る者は存在する。ただ合法化されたギャンブルがプロ・スポーツの内部にそうした人間を増やすという考えは誤りだ。スマートフォンで容易に賭けられるようになったことで誘惑が増えた可能性はあるが、捕まることもかつてないほど容易になっている。
原文:The Emmanuel Clase sports betting investigation is not the result of MLB's partnerships with gambling sites
翻訳・編集:石山修二(スポーティングニュース日本版編集部)
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