ファイトマネーだけじゃない、アンソニー・ジョシュアが今ジェイク・ポールと戦うワケ

Dom Farrell

石山修二 Shuji Ishiyama

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モハメド・アリ、イベンダー・ホリフィールド、レノックス・ルイス。

アンソニー・ジョシュア が肩を並べたいと願う3人のヘビー級チャンピオンたちだ。

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少なくとも表向きは、ジョシュアは3度目のヘビー級チャンピオンになるための戦略を練る上で、YouTubeからボクシング界に乗り込んできたジェイク・ポールと戦うことは賢明な行動には思えない。

2016年4月にチャールズ・マーティンを相手にIBFタイトルを獲得して以来、2022年8月にオレクサンドル・ウシクとのりマッチに敗れるまで、ジョシュアは12戦連続で世界タイトル戦を戦ってきた。一方のポールはこれまでのキャリアで12勝を挙げているが、その大半は現役ボクサーとの対戦ではない。

ポールがこの巨大な壁に挑戦することでどれほどのリスクを負っているかについては多くの議論がされているが、ジョシュアにとってこのファイトのメリットとは一体何だろうか?

彼はすでに 3 度目のチャンピオンになるために2度のトライをしている。一度はウシクの前に勇敢に敗れ、ダニエル・デュボアには屈辱的な敗北を喫した。昨年9月、かつての拠点であったウェンブリースタジアムで4回もキャンバスに沈んだ、この痛ましい敗戦以来ジョシュアはボクシングをしていない。

36歳となった今、待望のタイソン・フューリー戦も噂される中、三度目の王座獲得を目指すジョシュアはなぜ今週マイアミにいるのだろうか?『スポーティングニュース』イギリス版のシニア・コンテンツ・プロデューサーであるドム・ファレル氏がその理由を紐解く。

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ジョシュアがジェイク・ポールと戦うワケ

時間を節約するのであれば、この記事には大金の袋の写真をつけておけば済んだかもしれない。現地19日(金)の夜にジョシュアが手にすると予想される額には様々な報道がされている。9200万ドル(1ドル154円換算で約141億6800万円)を手にすると言われる彼に失うものは何もないだろう。

「俺は金を稼ぐことが好きだ。率直に言うが、これは賞金稼ぎのスポーツだ」とジョシュアは 2023 年 4 月、ジャーメイン・フランクリンに敗れた後の復帰戦前にこう語っている。

「俺は金に困ったことがある。家族も金に困ったことがある。金というものの意味はよく分かっている。俺は金儲けが得意だし、そのために懸命に努力する。引退したら誰も俺のことなんか気にかけちゃくれない。だから、今のうちに目一杯稼いでおかないと」

このコメントこそ、今週末のジョシュアが掲げるミッションだろう。もし彼が試合後半にスコア上で不利になったり、試合途中でポールから強烈なパンチを受けることがあれば、彼の評判に傷がつくことは間違いない。だが実際のところ、2019年のアンディ・ルイスJr.戦で衝撃的な敗戦を喫して以来、ジョシュアの名は何度となく泥まみれてきた。極めてローリスクで見返りが途方もなく大きいこの試合において、最悪のシナリオになった場合に何を言われるかなど、彼が気にするとは到底思えない。

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怪我からの復帰、そして新たなトレーニングチーム

ジョシュアのプロモーターであるエディ・ハーン氏は、ジョシュアがリヤドで開催された「リングIV:ナイト・オブ・チャンピオンズ」で、中堅クラスのボクサー(ヘビー級のアメリカ人カシアス・チェイニーと推測されている)との控えめな8回戦を予定していたことを明かした。 

これはジョシュアにとって異例の選択だった。彼は2015年12月のディリアン・ホワイトとの英国・コモンウェルス王座決定戦以来、常にメインイベント級のタイトルマッチに出場してきたからだ。しかしデュボア戦での衝撃的な敗北を喫し、その後に肘を手術した。さらにトレーニングキャンプの変更が重なったことで、チーム・ジョシュアはこの方針を選択したのだった。

Oleksandr Usyk - Anthony Joshua
(Saudi Ministry of Sport)

ジョシュアは初めてオレクサンドル・ウシクのトレーニングキャンプでボクシングをしている。長期のブランクの後、こうした大きな変化を経験しつつ、準備のためのルーティンや試合前の一週間のイベント、そしてスポットライトを浴びる夜にまた自分を慣らしていくことは理にかなっていると言える。

ボクシング的には、ジョシュアがポールとの試合で学ぶことはほぼないだろう。だがそれはチェイニーと試合をしたとしても同じだったはずだ。ジョシュアにとってポールとの試合は、若手の8回戦ボクサーと戦うのと同じようなものだ。しかもその試合で途方もない額の報酬まで手にできると言うわけだ。

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アメリカでの評判

ジョシュアは引退の日を迎えるまでボクシング界では世界屈指のスターの一人として英国のスタジアムを満員にし続けるだろう。だが米国での彼の立場は微妙だ。6年半前にマディソン・スクエア・ガーデンでアンディ・ルイスJr.に衝撃的な敗北を喫して以来、その評価は回復していない。

1990年代から2000年代にかけてレノックス・ルイスが君臨し、タイソン・フューリーが活躍した時代があったにもかかわらず、ジョシュアの世界が崩壊したあの夜、アメリカのボクシングファンは「ノックアウトされる英国ヘビー級ボクサー」という昔からの固定観念を思い出した。ジョシュアは統一王者であり、オリンピック金メダルを獲得し、ウラジミール・クリチコやジョセフ・パーカーを破る見事な勝利を収めてきたかもしれない。しかしニューヨークで驚愕の表情で試合を見守った者たちにとって、彼はその正体を暴かれた、誇大広告で祭り上げられた存在でしかなかった。

半年後、ジョシュアがジェッダで体調不良のルイスを圧倒したことは問題ではなかった。アメリカは新たな王者が何者かを見抜き、タイソン・フューリーとデオンテイ・ワイルダーの魅惑的なトリロジーの第2戦、第3戦を楽しんだのだった。

ジョシュアは大西洋の向こう側から来た、蚊帳の外の存在だった。今回ジェイク・ポールをノックアウトしたところで何の証明にもならない。ただ、2026年の展開を期待させるような派手なノックアウト劇を見せられれば、ルイス戦での失態を多少なりとも償うことができるだろう。

原文:Why is Anthony Joshua fighting Jake Paul? $92m and the other reasons for professional heavyweight boxing mismatch
翻訳・編集:石山修二(スポーティングニュース日本版編集部)

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