「鳥谷がスタートしている」劇的走塁で決勝ラウンド進出…第3回(2013年)WBCを振り返る|国内組だけの侍ジャパン、3連覇の夢は叶わず

永塚和志 Kaz Nagatsuka

「鳥谷がスタートしている」劇的走塁で決勝ラウンド進出…第3回(2013年)WBCを振り返る|国内組だけの侍ジャパン、3連覇の夢は叶わず image

2009年の第2回大会から4年。2013年、第3回のワールド・ベースボール・クラシックが開催された。

イチロー(ニューヨーク・ヤンキース)や松坂大輔(ボストン・レッドソックス)といったメジャーで活躍する選手の力もあって連覇を果たした日本代表だったが、この大会は監督および選手選考の段階から難航。紆余曲折の末、2012年10月、元広島東洋カープの名選手かつ指揮官だった山本浩二氏が監督就任となった。

選手のほうでは、イチロー、ダルビッシュ(テキサス・レンジャーズ)、岩隈久志(マリナーズ)、青木宣親(ミルウォーキー・ブルワーズ)といったメジャー組がことごとく辞退を表明。松井稼頭央はメジャー経験があったものの、全員がプロ野球(NPB)球団からの選出となった。

それでも日本はアメリカでの決勝ラウンドまで進んだが、準決勝で敗れ、3連覇を逃している。

大会序盤から苦戦続き… 土壇場で鳥谷が劇的走塁

福岡ヤクオク!ドームでの開催となった1次ラウンドから、日本は遥かに格下の相手に思わぬ苦戦を強いられた。初戦のブラジル戦は5-3、次戦の中国戦は5-2と僅差での勝利となり、3戦目のキューバ戦では9回に3点を挙げるまで無得点に抑えられ、3-6で破れてしまう。

東京ドームへ舞台を移した2次ラウンド初戦のチャイニーズタイペイ戦でも、日本は苦しんだ。このラウンドは2度破れた時点で敗退のダブルエリミネーション方式が採用(1次ラウンドは前回大会からの変更で総当り制となった)されたため、必勝の試合だったが、日本はニューヨーク・ヤンキースで最多勝となったこともあるチャイニーズタイペイの先発、ワン・ジエンミン(トロント・ブルージェイズ)の巧みな投球術のまえに7回まで無得点に抑えられる。

0-2とリードされた日本は8回表に安打を集中し同点とするが、その裏、チャイニーズタイペイに1点を奪われ、再び勝ち越されてしまう。

そして、あとがなくなった日本に9回表、ドラマが訪れたのだった。

日本は一死から鳥谷敬(阪神タイガース)が四球で出塁。その後、二死となったところで、打席にはブラジル戦で同点適時打を放っている井端弘和(中日ドラゴンズ)が立つ。ここで相手の抑え、チェン・ホンウェン(中信兄弟)のクイックモーションが早くないことが頭に入っていた一塁走者の鳥谷はスタートを切り、盗塁に成功。単打でも本塁に帰還できる状況を作り出す。

井端はカウント2-2と追い込まれるも、チェンの甘く入った直球を中前にはじき返して同点とし、超満員の観客からは地鳴りのような歓声が沸き起こった。試合は延長に突入したが、延長10回に中田翔(北海道日本ハム)の犠飛で勝ち越した日本は4-3で、劇的かつ薄氷の勝利を収めた。

息を呑むような展開のチャイニーズタイペイ戦を制した日本は、次戦のオランダ戦では、呪縛から解き放たれたかのように打線を爆発させる。初回先頭打者の鳥谷によるソロを皮切りに5回までに4本の本塁打を放ち、7回には坂本勇人(巨人)による満塁弾が出て、16-4のコールドゲーム勝利。3大会連続で決勝トーナメント進出を決めた。

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準決勝で致命的なミス 日本の3連覇は叶わず

準決勝は米カリフォルニア州・サンフランシスコのAT&Tパークで行われ、日本はプエルトリコとの戦いに臨んだ。日本の先発はこの大会好調の前田健太(広島東洋カープ)。その前田は初回に1点を献上してしまうも、その後は粘りの投球で互いに点の入らない展開となる。だが7回表、前田の降板後、マウンドを引き継いだ能見篤史(阪神)がアレックス・リオス(シカゴ・ホワイトソックス)に2点本塁打を許し、0-3とされてしまう。

8回裏。日本は鳥谷の三塁打と続く井端による適時打で1点を返し、内川も安打で出るし、1死で一、二塁と同点の好機を作る。ところが、ここで2人の走者はスタートを切るも、二塁走者の井端はストップ。一塁走者の内川はそれに気づかずそのまま二塁へ走り続けたが、二塁上には井端がいるため行き場を失い、プエルトリコの捕手、ヤディアー・モリーナ(セントルイス・カージナルス)にタッチされてアウトに。続く4番、阿部慎之助(巨人)も凡退。痛恨のミスで試合終盤の追加点の機会を逸してしまった。

内川は「すべて自分の責任」と責めを負ったが、だと重盗失敗の場面は彼だけのミスというよりも、必ず走るのか行けたら走るという、選手たちと首脳陣の微妙な認識の差異によって生まれたところもあったようだ。いずれにしても、緻密な野球が信条の日本としてはやってはいけない失策が重要なところで出てしまった。

日本は1-3で破れ、3連覇の目標は絶たれた。決勝ではプエルトリコを3-0で破ったドミニカ共和国が、8戦全勝で新たな王者となった。大会MVPにはドミニカ共和国のロビンソン・カノ(シアトル・マリナーズ)が選ばれ、ベストナインは井端と前田が日本から選出された。

編成・監督人事の難航で準備不足に

メジャーリーガーの出場のなかった日本チームのなかで光ったのが、大会前は先発陣の柱になると目されながら調子の上がらなかった田中将大(東北楽天)に代わってエース的役割をになった前田だった。当時まだ24歳だった右腕は、大会で2勝1敗、防御率0.60と安定。準決勝では敗戦投手にはなったものの、失点後は粘り強い投球で、試合を作った。

メジャー球団の多くのスカウトが、日本チームでは田中に注目していたが、このWBCで前田も評価を上げ、2016年からの渡米の足がかりとした。

また、メジャーリーガーの多い国々に比べるとパワーで劣る日本は足技なども使いながらつないで得点する“スモール・ベースボール”を標榜してきたが、井端や内川といった熟練の技術を持った打者たちが相手の投手の球筋を最後まで見極めつつ逆方向に安打を重ねたことでそれを体現し、相手のデータが少ない国際大会での戦いかたや、緊迫する場面での強さを示したことも印象的だった。

とはいえ、監督や選手選考で難航したことも苦戦、そして最終的な準決勝敗退という結果につながった面も否めず、日本にとっては課題が浮き彫りとなった大会にもなった。

第3回大会WBCの侍ジャパンメンバー

位置背番号氏名所属投 打生年月日
投手11涌井 秀章埼玉西武ライオンズ右 右1986. 6.21
投手14能見 篤史阪神タイガース左 左1979. 5.28
投手15澤村 拓一読売ジャイアンツ右 右1988. 4. 3
投手16今村 猛広島東洋カープ右 右1991. 4.17
投手17田中 将大東北楽天ゴールデンイーグルス右 右1988.11. 1
投手18杉内 俊哉読売ジャイアンツ左 左1980.10.30
投手20前田 健太広島東洋カープ右 右1988. 4.11
投手21森福 允彦福岡ソフトバンクホークス左 左1986. 7.29
投手26内海 哲也読売ジャイアンツ左 左1982. 4.29
投手28大隣 憲司福岡ソフトバンクホークス左 左1984.11.19
投手35牧田 和久埼玉西武ライオンズ右 右1984.11.10
投手47山口 鉄也読売ジャイアンツ左 左1983.11.11
投手50攝津 正福岡ソフトバンクホークス右 右1982. 6. 1
捕手2相川 亮二東京ヤクルトスワローズ右 右1976. 7.11
捕手10阿部 慎之助読売ジャイアンツ右 左1979. 3.20
捕手27炭谷 銀仁朗埼玉西武ライオンズ右 右1987. 7.19
内野手1鳥谷 敬阪神タイガース右 左1981. 6.26
内野手3井端 弘和中日ドラゴンズ右 右1975. 5.12
内野手5松田 宣浩福岡ソフトバンクホークス右 右1983. 5.17
内野手6坂本 勇人読売ジャイアンツ右 右1988.12.14
内野手7松井 稼頭央東北楽天ゴールデンイーグルス右 両1975.10.23
内野手41稲葉 篤紀北海道日本ハムファイターズ左 左1972. 8. 3
内野手46本多 雄一福岡ソフトバンクホークス右 左1984.11.19
外野手9糸井 嘉男オリックス・バファローズ右 左1981. 7.31
外野手13中田 翔北海道日本ハムファイターズ右 右1989. 4.22
外野手24内川 聖一福岡ソフトバンクホークス右 右1982. 8. 4
外野手34長野 久義読売ジャイアンツ右 右1984.12. 6
外野手61角中 勝也千葉ロッテマリーンズ右 左1987. 5.25

*所属は大会時のもの


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永塚和志 Kaz Nagatsuka

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール、陸上など多岐にわたる競技を担当。現在はフリーランスライターとして活動している。日本シリーズやワールド・ベースボール・クラシック(WBC)、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある。