箱根駅伝(正式名称:東京箱根間往復大学駅伝競走)の最も注目の区間といえばやはり往路の5区だろう。「山登り」と呼ばれる箱根駅伝初日の最終区かつ最も過酷な区間とされている5区は、往路の順位はもちろんのこと、翌日の復路及び総合順位にも大きな影響を及ぼす、最重要区間のひとつと言っていい。
ここでは、箱根駅伝最大の難所である往路5区のコースの特徴と、これまで5区を制してきた歴代の『山の神』と呼ばれた選手たちについてまとめる。
■箱根駅伝の5区とは? コースの特徴
箱根駅伝の第5区は全長20.8km、神奈川県の箱根登山線風祭駅前、鈴廣かまぼこの里の駐車場を利用した小田原中継所(第4中継所/各校4区の選手から5区の選手に襷を渡す場所)からレース初日の往路のフィニッシュ地点となる箱根・芦ノ湖駐車場までのコースである。
5区はそのコース特徴から、往路の中でも最も過酷なコースと言われる。
地形図によると、スタートから1.5km近辺までは比較的平坦だが、その後は厳しい道のりとなる。標高50m前後の1.5km手前を起点にすると、標高874mの16.3km付近(国道1号線の最高地点)まで上り坂が続く。そしてそこから標高710m前後の芦ノ湖まで約4.5m下り基調となるコースとなる。つまり『高低差820m・約15kmの上り』、『高低差160m近く・4.5kmの下り』という極端なアップダウン、ほぼ山中のコースゆえ蛇行するコースも多いこと、木陰で覆われるエリアが多く寒暖差の激しくなる傾向があるため低体温症などの危険性が高いことなど、厳しい条件下のコースだ。
そのため、5区(および復路の6区)は『特殊区間』と呼ばれている。また、登りコースが苦手な選手は平地以上にタイムをロスする危険性をはらんでおり、選手間の差がどの区間よりも開きやすい特徴がある。
■初代・山の神:今井正人(順天堂大)
近年、その特殊性が広くチーム戦略に反映されるきっかけになったのは、順天堂大学の今井正人(卒業後はトヨタ自動車九州で活躍)の登場だった。
2005年、当時2年生の今井はトップに6分57秒差の15番手でタスキを受けて出走。すると、次々と前を行く走者を捕らえ、気づけば11人抜き。当時の区間新記録で区間賞を獲得し、周囲を驚かせた。
2006年はトップに2分26秒差の6番手で襷を受けると5人抜きで往路優勝に貢献。そして2007年は2年前の区間記録を更新する走りでトップに4分9秒差の5番手から往路優勝を奪取し、チームを総合優勝に導いた。
このとき、テレビの実況中継のアナウンサーが今井を『山の神』と表現したことで、そのフレーズが浸透し始めるきっかけになったと推測されている(諸説あり)。
■二代目・山の神:柏原竜二(東洋大)
今井に続いて『箱根駅伝といえば5区』という概念を決定づけたのが、東洋大学の柏原竜二(卒業後は富士通で活躍)である。
柏原は今井が卒業した2年後の2009年に1年生で5区を任されると、いきなり区間新記録&区間賞で衝撃の箱根デビューを飾る。すると、2012年まで4年連続5区区間賞を獲得し、うち3回で区間新記録をマーク。チームも4年連続往路優勝、うち3回は総合優勝という王朝を築いた。
この柏原選手の活躍によって、『山の神』は普段陸上競技を見ない一般層にも浸透する箱根駅伝を物語るパワーワードになった。
■三代目・山の神:神野大地(青山学院大)
柏原の活躍から3年後の2015年、青山学院大学の神野大地が登場した。46秒差の2番手から快調なリズムで5区を走り切って逆転劇を演じ、チーム初の往路優勝、そして総合優勝に貢献した。
翌年も青学大は箱根駅伝2連覇を果たし、神野はそのときは区間2位だった。今井と柏原ほど個人成績が目立つわけではないが、それでも『山の神』として強く印象に残るのは、悲壮感なく強さを発揮した青学大の清々しさ、『神野』という苗字と『山の神』というフレーズがマッチングした結果ともいえる。
箱根駅伝の『山の神』にまつわる選手としては、初代が今井、二代目が柏原、そして三代目が神野とされることが多い。これは決してオフィシャルな呼称ではないものの、各校のチームづくり、大会本番での区間配置戦略において、5区がエース区間の2区と並ぶ重要区間として認識されていることは間違いない。
■元祖・山の神:大久保初男(大東文化大)
20世紀の箱根駅伝では、大久保初男(大東文化大)が柏原に匹敵する成績を残しており、『元祖・山の神』と言っていい存在だ。
大久保は1974年から4年連続5区区間賞を獲得し(うち2回区間新記録)、1975~1976年のチームの総合2連覇に大きく貢献。当時そのような呼称はなかったものの、まさに『元祖・山の神』といっても過言ではない。
■『山の神』ならぬ『山の名探偵』工藤慎作(早稲田大)
2023年の箱根駅伝に登場したのが『山の神』ならぬ、通称『山の名探偵』こと早稲田大の工藤慎作だ。
工藤は名前が人気漫画『名探偵コナン』の主人公・江戸川コナンこと工藤新一に似ていること、コナンと同様にメガネが特徴となっていることから『山の名探偵』の愛称で注目の選手に。
1年時の2024年には5区を走って区間6位、翌2025年にも5区を走って区間2位と活躍。3年の2026年は『新・山の神』となった黒田朝日に終盤逆転されたものの、区間3位と健闘した。
■新・山の神:黒田朝日
2026年大会の往路で青山学院大4年の5区・黒田朝日が同大の3年連続・通算8度目の往路優勝に貢献。レース後、原晋監督が初の山登りで驚異的な走りを見せた黒田について「新・山の神、誕生です!」と黒田を激賞すると、黒田も「僕が新・山の神です!」と宣言した。
黒田は同大の先輩・若林宏樹が2025年大会で記録した1時間9分11秒の区間記録を2分近く上回る1時間7分16秒という驚愕の新記録を叩き出し、中継時5位から首位に立った。
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■箱根駅伝のコース
往路
- 1区 大手町・読売新聞社前~鶴見(21.3km)
- 2区 鶴見~戸塚(23.1km)
- 3区 戸塚~平塚(21.4km)
- 4区 平塚~小田原(20.9km)
- 5区 小田原~芦ノ湖駐車場入り口(20.8km)
復路
- 6区 芦ノ湖駐車場入り口~小田原(20.8km)
- 7区 小田原~平塚(21.3km)
- 8区 平塚~戸塚(21.4km)
- 9区 戸塚~鶴見(23.1km)
- 10区 鶴見~大手町・読売新聞社前(23.0km)
