第102回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)は、青山学院大学が2度目の3連覇となる、9回目の総合優勝を達成した。タイムは10時間37分34秒で、昨年マークした大会記録を3分45秒も更新する圧巻の走りだった。
戦前、筆者は青山学院大が苦戦するとみていた。101回大会で好走した太田蒼生、野村昭夢らエース級6人が抜けた一方、ライバルである駒澤大、國學院大、中央大は4年生を中心に戦力が充実していたからだ。
ところが、ふたを開けてみれば往路・復路ともに制しての完全優勝だった。自らの分析の甘さを反省するとともに、青山学院大の総合優勝の要因、4連覇の可能性について触れたい。
勝因①奇襲作戦の成功
周知のとおり、一番の勝因は5区に黒田朝日(4年)を起用し、歴史的な快走を見せたことだろう。黒田は過去2回の箱根はいずれも2区で、5区は初めて。ただ、「もともと走りが上りに適している」(原監督)というように、山上りのタイムはチーム内で群を抜いていた。原監督は、初出走のリスクはあるものの他校とのタイム差がつきやすい5区の起用を決断した。
これに黒田が応えた。5区スタート時はトップ中央大と3分24秒差の5位だったが、城西大、國學院大、中央大、早稲田大を抜き去り、大逆転で往路優勝のテープを切った。区間タイムは、昨年若林宏樹がマークした区間記録を約2分更新する1時間7分16秒。空前絶後の新記録だった。
レース後、原監督は「夏合宿以降、他の選手が急成長したので、5区黒田が実現した」と話した。ただ、この発言には疑問が残った。他の選手が急成長しているのであれば、黒田を2区に起用して、正攻法で戦えばよかったはずだ。
おそらく、成長しているものの、昨年のレベルにまで達していない。2区に黒田を起用しても、そこでの“貯金”は1分から1分半程度で、5区で抜かされるおそれがある。それならば前半は辛抱して、5区黒田で大逆転を狙おうとしたのではないか。
5区でのタイム差を見てみると、青山学院大と國學院大との差は2分49秒、青山学院大と中央大は5分だった。黒田ひとりでこれだけのタイム差を稼いだことになる。5区起用の奇襲は大成功だった。

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5区出走前の黒田朝日
チームを救った4区平松の好走
往路優勝の陰には、4区平松亨祐(3年)の好走もあった。じつは平松は12月29日の区間エントリーで4区に登録されたものの、本番は外れる予定だった。本人も「悔しさから夜は眠れず、モチベーションも低下した」という。
だが、大みそかにレギュラー選手が体調を崩し、急遽平松が出走することに。気持ちを立て直し、区間3位の好走。8位で受け取った襷を5位に押し上げた。
4区では早稲田大の鈴木琉胤(1年)、中央大の岡田開成(2年)が期待通りの走りを見せただけに、両大学としては青山学院大に決定的な差をつけたかったところだ。平松の踏ん張りが黒田の快走を呼び、往路優勝へとつながった。
勝因②選手層の厚さとピーキング
1区や3区で苦しんだ青山学院大だったが、4区以降は安定し、特に復路の5区間は全員が高い走力を見せた。区間順位は6区3位、7区3位、8区1位(区間新)、9区1位、10区2位。4位以下は一人もいない上、区間賞を2人が獲得する完璧な内容だった。
昨年の復路メンバーから野村昭夢、田中悠登らが抜けたが、残った選手全員が危機感を持ち、高いレベルで競い合った。選手層も厚くなり、他大がうらやむ復路の体制を組む事ができた。
特に目を見張るのは、初出走の選手の活躍だ。過去に箱根の出走経験があったのは8区塩出翔太(4年)のみ。6区石川浩輝(1年)、7区佐藤愛斗(2年)、9区佐藤有一(4年)、10区折田壮太(2年)は初めて箱根路だった。
6区石井は「さすがに緊張した」というが、区間3位の走りで早稲田、中央、國學院との差を広げた。ほかの折田ら3選手も、実力通りのパフォーマンスを見せた。
状態の良さを箱根に合わせるピーキングのうまさも見逃せない。青山学院大は、昨年11月9日の宮古サーモン・ハーフマラソン、世田谷246ハーフマラソン、11月22日のMARCH対抗戦などの結果をもとに、箱根のエントリーメンバー16人を選考したが、当落線上の選手は当然、これらのレースにベストの状態を合わせるため、その後ピークアウトしてしまうリスクがあった。
ただそこは、長年の経験で確立させた“原メソッド”で対応。選手一人一人の状態に合った練習メニューを組み、いったん下がった状態を再び上昇させ、箱根にピークを合わせた。復路5区間の安定した成績は、それが見事に成功した証だろう。

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勝因③ライバル大学で相次いだ故障
優勝候補と目された駒澤大、中央大に故障者が出たことも、青山学院大優勝の遠因になった。
優勝候補の本命だった駒澤大は、昨年12月、主力の山川拓馬(4年)、佐藤圭汰(4年)、谷中晴(2年)に疲労骨折やぎっくり腰などが相次いだ。当初、藤田敦史監督は佐藤と谷中を2区3区か、3区2区に配置し、5区は山川で黒田朝日に対抗する予定だったが、3人とも本調子には遠く、復路に起用せざるを得なかった。結果、往路で主導権を握れず、復路は後手後手の展開になってしまった。
中央大も、過去2回箱根で区間賞を取っているエースの吉居駿恭(4年)が、本番10日ほど前にアキレス腱などを痛め、万全の状態で臨めなかった。10区出走予定のスーパールーキー濱口大和も、調整が上手くいかずに出場できないなど、誤算が相次いだ。中央大は1万メートル27分台の記録を持つランナーが、吉居、濱口含めて6人いるが、2人を除く4人は箱根で好走しただけに、2人が本調子でなかったことは痛恨だった。
青山学院大の4連覇の可能性
大エースの黒田が抜けて挑む次の103回大会。青山学院大4連覇のカギは、2区と5区だろう。今回2区は飯田翔大(2年)が走り、1時間6分29秒の区間10位と善戦したが、往路で主導権を握るためには5分台が求められる。飯田について原監督は「ポテンシャルの高さはチーム内でも上位。エース格の一人」としており、今後、順調に成長していけるかがポイントになる。
5区は、今大会でいったんエントリーされた松田祐真(1年)、上野山拳四朗(1年)らを中心に競い合っていくだろう。
青山学院大は典型的な「先行逃げ切りタイプ」。往路優勝したときは、勢いそのままに総合優勝している。2区と5区をきっちり攻略し、往路優勝できるかが4連覇のポイントになる。
対抗は國學院大と早稲田大か
青山学院大に対抗する筆頭は、今大会2位の國學院大と4位の早稲田大か。
國學院は主力の4年生3人が抜けるものの、エース格の野中恒亨(3年)、辻原輝(3年)が残り、5区には今回好走した髙石樹(1年)がいる。選手層の厚さも青山学院大に匹敵するだけに、来年も優勝争いに加わるだろう。
早稲田は4区区間賞の鈴木琉胤(1年)、5区で区間3位の工藤慎作(3年)ら、箱根出走した10人中8人が残るのが強み。今春には、全国高校駅伝のエース区間1区でハイレベルな争いをした1位から3位の3人(増子陽太、新妻遼己、本田桜二郎)が入学予定で、距離への対応次第では、優勝候補に名乗り出るだろう。

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