戦術的な繊細さ、ポゼッションの支配、そして細部へのこだわりが重視される現代サッカーにおいて、時に最上位のレベルでは欠けがちな要素がある ―― それは「楽しさ」だ。
しかし、ハンジ・フリック監督が率いるバルセロナには、その「楽しさ」がしっかりとある。
今季のドイツ人監督による戦術のおかげで、バルセロナは「世界で最も楽しいチーム」となっており、他と比べるまでもない。
「君がそう言うのは自由だが、私にとってはいつも楽しいとは限らない。時には本当にストレスがたまる。でも、結局はたいてい幸せな気持ちになるよ、了解だ、ハンジ。でも、観ている我々にとってはとにかく最高に楽しい。
「得点を重ねる」どころではない。このバルサは波のように、いや津波のようにゴールを量産するチームなのだ。あのインテルのシモーネ・インザーギの本来の守備的戦術を破ってしまったほどだ。
確かに、バルセロナの名物である「ハイライン」はチャンピオンズリーグ準決勝で致命的になった。しかし国内戦ではライバルを打ち倒す最大の武器となっている。日曜のクラシコでもそのハイラインが勝因となり、今季4度目のレアル・マドリード撃破となった。
これで、すでにコパ・デル・レイとスーペルコパのタイトルを獲得しているバルセロナは事実上ラ・リーガを制したことになる。

今季最後のクラシコは、フリックの「狂気的」とも「倒錯的」とも言える戦術がどのように展開されるべきかを完璧に示した試合だった。「先に点を取られても、こっちはもっと取る。2点取られても、覚悟しろ」とでも言わんばかりだ。
予想通り、レアルはその罠にはまった。キリアン・エムバペが前半15分以内に2ゴールを挙げたが、それがバルサの闘志に火をつけた。わずか25分後には逆転に成功し、前半終了時にはなんと4-2とリードしていたのだ。
レアルはバルサのハイラインを2度破って得点したが、モンジュイックのスタジアムでホームのバルサは全く慌てなかった。むしろ目の覚めるような多様なゴールで一気に試合をひっくり返した。
「うちのチームのメンタリティは信じられないほど素晴らしい。本当に見ていて気持ちがいいよ」とフリックは語る。バルサの精神力は試合をひっくり返す原動力だが、それだけではない。フリックの戦術は選手に自信を与え、相手には恐怖を植えつける。
ハンジ・フリックのバルサにおける戦術とは?
フリックは今季バルセロナで主に4-2-3-1フォーメーションを使用しているが、それだけでは実際のプレースタイルを語り尽くせない。
このチームの際立った特徴は、「ボールの有無に関わらず超高いディフェンスライン」だ。CB(センターバック)であるパウ・クバルシとイニゴ・マルティネスは、しばしばセンターラインを越えて配置される。これはハイリスクだが、その分見返りも大きい。
当然、守備面では背後を突かれやすいが、バルセロナはあまり気にしない。相手がカウンターを狙ってきても、見事なオフサイドトラップで封じる。今季欧州五大リーグで、バルサは相手を169回オフサイドにかけており、2位のパルマ(115回)を大きく上回る。これはバルサがボール支配率68.7%を誇る中での記録であり、驚異的だ。
オフサイドを破られて決定機を作られることもあるが、フリックはCBのスピードを信頼しており、特にクバルシのリカバリーの力に頼っている。それでも点を取られることがあれば、それは「覚悟の上」なのだ。
「リスクを取る価値は十分ある」
「この哲学を導入し始めたとき、もちろん疑念もあった。なぜならこれまで選手たちがやってきたスタイルとはまったく違うからだ」と、フリックはシーズン最後のクラシコ前の会見で語っている。
「最初の数試合は不安もあったが、今では素晴らしいパフォーマンスを見せてくれている。自分たちが求めていることにしっかり適応してくれているんだ。」
ボール保持時のバルサは、ピッチを極端に圧縮し、相手にパニックを強いるような守備をさせる。ボールを失っても、バルサは全ライン総出で強烈なカウンタープレスをかける。

バルセロナのカウンタープレスはあらゆる方向から非常に積極的に行われる。なぜなら、相手にボールを長く保持させてはならないと分かっているからだ。その上、ハイラインによってピッチが極端に圧縮されているため、相手が人数をかけてカウンターに出るのは非常にリスキーだ。もしそれを失敗してボールを奪われようものなら、一巻の終わりである。
バルセロナは国内3冠をほぼ手中に収めたものの、チャンピオンズリーグではその戦術が裏目に出た。とはいえ、それはインザーギによる戦術の傑作と、インテル・ミラノの複数の選手たちによる英雄的なプレーが両試合にわたってあったからこそであり、延長戦の末に7-6という僅差での敗北だった。
結局のところ、バルセロナは「フリック戦術を打ち破るのに最適なチーム」とぶつかってしまったのだ。インテルはヨーロッパで最も規律の取れた守備を誇るチームであり、それに見合うだけのカウンターの破壊力も持っている。それでも勝利には、複数のスーパーゴールとバルセロナの運の悪さが必要だった。サイコロを振り続ければ、時には手ぶらでテーブルを離れることもあるというわけだ。
とはいえ、今季のバルセロナは十分すぎる成果を挙げており、フリックのアプローチは正当化される。そして、世界中のファンがその恩恵を受けている。これを「フットボールの革命」と見るか、「奇妙な異端」と見るかは人それぞれだが、バルセロナの試合が“絶対に観るべきイベント”になっていることは間違いない。
ここまで攻撃的でエキサイティングなサッカーに全力を注ぐチームは滅多に現れない。仮に現れても、一瞬の輝きで消えてしまうのが常だが、バルセロナはそうではない。若く才能ある選手層に恵まれ、夏の移籍市場で新たなセンターバックを1人補強すれば、それだけで来季も同じような快進撃が期待できる。
そして、モンジュイックのオリンピックスタジアムでラフィーニャが4点目を決めた瞬間に響き渡った大歓声こそ、この“撃ち合いスタイル”がこの素晴らしいチームに完全にフィットしており、これからもしばらくは変わることがないだろうという証拠だ。