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F1ドライバーのヘルメットに込められた意味は? カラーやデザインに見るアイデンティティ

加古浩子 Hiroko Kako

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「ドライバーの顔を知らなくても、ヘルメットのカラーリングを見れば誰かすぐ分かる」。これはF1のファンならよく知っている言葉だ。時速300㎞で走行するF1では、肉眼でドライバーを捉えることなど不可能。唯一認識できるのがヘルメットだ。F1ドライバーにとってヘルメットは、安全を守る装備のほかにも自身を象徴するアイデンティティともいえるだろう。

ヘルメットの意味とは?

F1のヘルメットには2つの機能がある。その一つは安全装備としての役割だ。軽量かつ頑丈に設計され、素材にはケブラー、カーボンファイバー、ポリカーボネートなどを使用。衝撃に対してエネルギーを吸収、発散し頭蓋骨を保護している。

先進的なシステムとしてピットとの通信システム、破片から目を守るバイザー、温度や湿度を管理する換気システムなども装備されている。

二つ目は視覚的に誰かを識別するツールとしての機能だ。もちろんマシンによっても識別は可能だが、チームには2人ドライバーがエントリーしているため、チームの識別に役立っている。個人を識別するためにはヘルメットが最有力情報となるのだ。

ドライバーの個性を物語るカラーやモチーフ

■色は感情と信念の表現

Michael Schumacher Ferrari

赤は情熱や闘争心が掻き立てられる色である。赤基調のヘルメットを使用していたのは、ミハエル・シューマッハ氏だ。2000年前半のフェラーリ時代には鮮やかな赤を基調としていた。フェラーリのチームカラーともリンクしており、シューマッハの闘志や勝利への執念を象徴していた。

ジョージ・ラッセルがメルセデスに移籍したとき、「赤はシューマッハを象徴する色」であることに敬意を表し赤を避けたというエピソードもあるほどだ。

青は冷静や誠実を表す色であり、角田裕毅が使用した濃紺だ。2024年に使用していたヘルメットは、濃紺をベースに赤やオレンジの紅葉のモチーフを大胆に配置したデザインだった。日本の美意識と冷静さを失わない芯の強さを強調していた。

黒と紫を使っているのはルイス・ハミルトンだ。2020年に黒人少年トレイボン・マーティンさんが白人自警団に射殺され、加害者が無罪となった『ジョージ・フロイド事件』。これに対する抗議として始まった『Black Lives Matter運動』を支持しているハミルトンは、2020年にヘルメットを黒基調に変更した。

「Black Lives Matter」の文字やロゴをあしらったヘルメットは、F1で唯一の黒人ドライバーとして活躍する自身の立場を明確にしている。これに伴いメルセデスのマシンもシルバーから黒に変更され、チーム全体で平等や多様性を支持していることを強調した。

そこにハミルトンが好きな高貴さや内側の強さを象徴する紫を合わせ、視覚的に静かでありながら力強い抗議を訴える象徴となっている。

■祖国の色、心の誇り

角田裕毅が2025年の『日本GP』で使用した特別なヘルメットは、歌舞伎がテーマだった。市川團十郎氏が監修を手掛け、ヘルメットに描かれたのは歌舞伎十八番『暫(しばらく)』に登場するヒーロー鎌倉権五郎の装束からインスピレーションされたものだ。

さらにカーナンバー「22」は団十郎氏の直筆で、日の丸カラーを大胆に配置し、和の雰囲気を醸し出している。まさに日本人としての誇りが込められているといえるだろう。

セバスチャン・ベッテルは、ドイツの国旗色を彩った黒、赤、黄のストライプを取り入れていた。2021年にアストンマーティンへの移籍に伴い水処理企業の『BWT』とアンバサダー契約を締結。コーポレートカラーのピンクを基調にしている。そこにドイツの国旗色をグラデーションで表現したものを使用。

マックス・フェルスタッペンは、オランダのナショナルカラーであるオレンジを使用することが多い。「オレンジ・ライオン」と呼ばれるデザインは、オランダ王室と国民の誇りを象徴している。また『オランダGP』ではオレンジの炎やライオンをモチーフにした大胆なデザインを使用することが多い。

以下にメッセージを込めたヘルメットを着用していたドライバーを抜粋して紹介する。

ドライバー名主なメッセージ・テーマ象徴するデザイン・要素
ルイス・ハミルトン人種差別・社会正義「Still We Rise」の文字
黒と紫の配色
マックス・フェルスタッペンオランダの誇り・闘志オランダ国旗のオレンジカラー
ライオンのグラフィック
セバスチャン・ベッテル環境保護・LGBTQ支援「Change the world sip by sip」
レインボーのモチーフ
フェルナンド・アロンソスペインの誇り・個性スペイン国旗カラー
レーシングナンバー「14」
角田裕毅日本の文化歌舞伎や紅葉のモチーフ
ミハエル・シューマッハ氏ドイツの誇り・王者の風格ドイツ国旗カラー
シューマッハを表す赤
アイルトン・セナ氏ブラジルの魂・不屈の精神黄色基調に緑と青のストライプ

ヘルメットがもたらすコミュニケーション

■ファンとの絆

ヘルメットのデザインで、ドライバーの想いがファンに伝えることができるビジュアルの強さは圧倒的だ。各GPで使用される限定仕様や季節のテーマは、SNSなどで拡散される。またミニチュアのレプリカヘルメットはファングッズとして販売されているので、ドライバーとのつながりを強めるきっかけになるのだ。

Amazonサイトなどにも角田裕毅が『シンガポールGP』『日本GP』で使用したヘルメットが実際に販売されている。ファンの間ではコンパクトで飾りやすく、ディティールの再現が忠実な1/5スケールが人気を集めている。興味があれば以下を参考にして欲しい。

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■社会へのメッセージ

ヘルメットに施されるデザインに込められた言葉やモチーフは、まさに沈黙の抗議であり希望を与える表現になる。声なき声が視覚的なメッセージとなり、視聴者やファン、SNS、報道がその意味を伝える役割を果たしているといえるだろう。

個性が語る軌跡

レースの直前にヘルメットをかぶる瞬間、ドライバーは「自分自身に戻る儀式」のような感覚を持つといわれている。自ら掲げた信念そして目標を刻んだヘルメットは、自分自身への約束を背負うことといえるかもしれない。

アイルトン・セナ氏の黄色と緑、ミハエル・シューマッハの赤、ルイス・ハミルトンの黒と紫など、レーサーを語る色や個性は人々の記憶に刻まれていくのだろう。

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加古浩子 Hiroko Kako

スポーティングニュース日本版コンテンツライター