世界を驚かせる日本人は誰?東京世界陸上2025 注目選手たち

加古浩子 Hiroko Kako

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2025年9月13日、世界陸上が東京に帰ってくる。国立競技場に立つ各国のトップアスリートたちは、記録と共に私たちの記憶に残る熱い戦いを刻みつけてくれるだろう。9月2日には、80名の日本代表が正式に決定した。各競技の中から、世界に挑む日本選手たちを紹介していこう。彼らの競技力、意外なバックグラウンドや人物像に触れながら、選手を知ることで観戦が面白くなる視点をお届けしたい。

100m走|爆発力を0.01秒の駆け引き

短距離の見どころはスタートしたらすぐに終了してしまう、0.01秒の駆け引きだ。風向きや気温が記録に直結する繊細な競技でもある。スタート反応、加速力、トップスピードのまさに分業型スプリントともいえるだろう。

■桐生祥秀…9秒台の先駆者、4回目の世界陸上へ

men's 100m japan Kiryu & Mori 2025

©︎Jiji Press

日本人初の9秒台(9.98秒)を記録した短距離界のレジェンド。高校時代は200mが主戦だったが、100mへの転向で歴史を変えた。スタートが苦手とされる桐生は、後半型スプリンターといわれる異色の存在だ。

実は「走ることが好きではない」と語ったこともある桐生だが、勝ちたい気持ちがすべてを凌駕してきた。勝負師としての覚悟がラストを大きく変えるかもしれない。

■サニブラウン・アブデル・ハキーム…世界で揉まれてきた加速力が武器

世界陸上2022 笑顔のサニブラウン
(時事通信)

世界陸上決勝進出経験を持つ。米国育ちで父はガーナ人、母は元陸上選手という国際的なルーツを持つ。実弟はプロサッカー選手のサニブラウン・アブデル・ハナン。幼少期は弟と同様にサッカーに熱中していたが、母の勧めで陸上に転向した。走る前は音楽は聞かない派で集中力を静寂で高めるタイプだ。

練習嫌いを公言しているが、走る前は圧倒的な集中力を発揮する。スタート前の表情は無表情で、スイッチが入るのを待っているようだ。今大会では世界との距離をもっと縮めることに期待が集まる。

■清水空跳…名前負けしていない新星スプリンター

「空跳(そらと)」という名前が話題になった。2025年に『インターハイ』で10秒00を記録した。18歳未満の世界記録をぬりかえる驚異的タイムだ。

SNSでは「空跳語録」が密かな人気だ。10秒というタイムを出した直後のコメントは「伝説を作ったのかなという気がします」だ。記録に驚いた率直さと、記録への誇りが感じられた。高校生とは思えない自己分析で、「跳ぶように走る」のではなく「走るように跳ぶ」感覚で、地面との接地時間が極端に短い。フォームの美しさにも注目だ。

200m走|0.1秒の判断力とコーナーの知性

短距離走の中でも、100mのように爆発力のある疾走と400mの持久力のある走りの中間に位置するものだ。コーナーの技術力が勝敗を分けるといわれている。そのため、コーナーでの遠心力に対応する体の傾きや重心の位置、足の運びが重要だ。

ストライド(歩幅)が大きすぎるとロスにつながるため、足の回転を細かく速く回すほうが有利とされている。後半の失速区間をどう耐えるかも重要だ。コーナーから直線への切り替えが実にドラマチックである。

 

鵜澤飛翔(うざわとわ)…200m後半で爆走する加速型スプリンター

オリンピックの標準記録には届かなかったが、ワールドランキングにより2024『パリオリンピック』出場を果たした。2025年に行われた『日本選手権』では20秒43で優勝し、前年に続く2連覇を達成。

最大の武器は後半の加速力と技術的な柔軟性だ。100mダッシュを1日10㎞こなす独自の練習法を取り入れる。アニメ好きで、レース前には自作のイラストで気持ちを整えるというユニークなルーティンを持つ。前半から思い切り突っ込むこともあれば余力を残すなど戦略的なレース展開に注目だ。

 リレー(4×100m)|バトンがすべてを変える

world athletics championships 2023 men's relay

©︎Jiji Press

バトンパスが順位を大きく左右するともいえるチーム競技で、通称4継といわれる。日本はアンダーハンドパス(下手渡し)を採用し、2016年の『リオオリンピック』で銀メダルを獲得。日本のバトン技術の高さを知らしめている。走力よりも技術で勝負する夏が来た。

■大上直起…理論派理系スプリンター

高校時代は無名だったが、大学で覚醒。環境と理論的トレーニングで急成長を遂げる。大学院ではスタートから30mの動作解析を徹底研究した。『日本選手権』で桐生と隣のレーンになり「これが本物だ」とさらなる覚悟を決めた。

動画解析と論文研究で自分に合ったフォームを構築し、「理論に裏付けて強くなりたい」と語っているほどの知的アスリート。現在青森県庁の職員として働きながら世界の舞台に立つという、「二刀流」を実現した。理論と努力で勝ち取った遅咲きのスプリンターといえるだろう。

ハードル(110mH)|技術と知性の融合種目

ハードルは、ハードル間の歩数、角度、リズムが勝敗を分けるといわれている競技だ。1台ごとの間隔は9.14mで一度リズムを崩せば、タイムも順位も一気に落とす。完璧なテンポと足さばきが勝敗の鍵となる。現代のトップアスリートたちは、ハードルを跳ぶのではなく、なめるようにハードルすれすれを超えていくのが特徴的だ。

観戦の見どころは、スタートから3台目までの加速とリズム構築。中盤のハードル間の浮きの少なさ、そして最終ハードル後のスプリントで逆転が起きることも注目して欲しい。

前大会5位に入賞した泉谷俊介は、世界大会の経験も豊富で爆発的なスタートが見どころだ。今回はダブルエースのもう一人を紹介しよう。

■村竹ラシッド…音で感じるハードラー

2024年の『パリオリンピック』では日本人として初の決勝進出と5位入賞を果たしている。2025年の『アジア選手権』では金メダルを獲得。日本人初の12秒台を出し、世界歴代11位タイだ。父はトーゴ出身のアフリカ人で跳躍経験者でもあり、脚力と遺伝的ポテンシャルが高い。

武村の跳躍力とスピード、そしてリズムのバランスは見どころだ。またハードルの高さや位置を「音」で感じる感覚を持つ選手でもある。ハードルが足に当たった時の音で、自身のリズムや高さのズレを感じ取るという、聴覚でフォームの微調整ができると語っている。

『パリオリンピック』決勝の入場シーンでは「ジョジョ立ち」を披露。今回はどんなパフォーマンスを見せてくれるのか楽しみだ。

3000m障害|水上の美学とラストの爆発力

3000m障害は、トラック競技の中で最も複雑で美しい種目だ。というのもスピード、スタミナ、跳躍技術に加えて戦略性が問われる。障害物を28回に水濠ジャンプを7回の合計35回の跳躍が必要だ。集団走の中で障害物のジャンプに失敗すれば、即転倒する可能性が高く、予期せぬ展開が起こりやすい種目でもある。ジャンプの技術に加えて、ラスト2周の駆け引きは見ごたえ十分だ。

■三浦龍司…美しいフォームの障害王者

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©︎On Japan

『東京オリンピック』では7位に入賞している。さらに2025年に行われた『ダイヤモンドリーグ・モナコ大会』では、オリンピックと世界陸上の2連覇を達成しているスフィアン・エル・バッカリを一時抜き去り肉薄する場面もあった。単なる善戦ではなく、勝てるかもしれないという期待が膨らむ瞬間だったといえるだろう。

三浦の障害越えのフォームは空中で止まって見えると評されるほど美しい。水濠の踏切位置と着地の角度が安定するのも強みになっている。またラスト400mからの加速が非常に速いことにも注目だ。転倒や接触にも動ずることのない冷静さと、勝負どころでは迷わず仕掛ける強気な姿勢も見どころである。世界のトップ層に食い込んでいる三浦龍司にとって、もはや挑戦ではなく、世界を見据えた一戦になっているだろう。

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そのほかにも注目選手は目白押しだ。世界陸上常連ともいえる実力派は以下の3人を紹介する。走り幅跳びの赤松諒一は安定して6位~8位入賞圏内にいる。国際舞台でも通用する跳躍技術をご覧いただきたい。

日本の中距離界のエース田中希実は、13種目で日本の記録保持者だ。2023年の世界陸上5000mでは、日本新記録で8位に入賞した。また1500mでも準決勝進出常連の安定した走りを見せている。今回も両種目で決勝進出を期待しよう。

そして、やり投げの北口榛花は2023年『世界陸上』で日本女子フィールド競技初の金メダリストだ。世界ランク1位の経験もあり、名実ともに世界トップレベルの投てき力を持っている。豪快なフォームから繰り出される、最遠の一投をその目に焼き付けたい。

選手を知って観るだから応援したくなる

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世界陸上は記録の詰まった人間ドラマがそこにある。選手たちの一面を知ることで観戦の楽しみ方は大きく変わるだろう。東京開催の今年は、彼らの挑戦を間近で応援できるチャンスだ。選手と共にまだまだ終わらない熱い夏を体感しょう。

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加古浩子 Hiroko Kako

スポーティングニュース日本版コンテンツライター